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第7章 光神使のカミュー編 第1節:聖都ラグナ=リュミエールへの訪問

“Don't kid yourself / And don't fool yourself / This love's too good to last / And I'm too old to dream.”

「自分をごまかすな。騙すな。この愛が永遠に続くわけがない。俺はもう、夢を見るには歳を取りすぎた。」

──Muse – “Blackout” より

 空がひときわ青く広がる丘陵地帯の先、神殿の尖塔が太陽に向かってそびえ立っていた。

 聖都ラグナ=リュミエール──光の信仰で知られる宗教国家は、白銀の石畳と幾千の祈りの言葉に包まれていた。

「……まるで、天上の国に来たみたいだ」

 カイがぽつりと呟いた。

 整然と並んだ白壁の建物には一つとして汚れがなく、道行く人々の顔には穏やかな笑みが宿っている。子供から老人まで、誰もが敬虔に頭を垂れ、通りすがりの神官に手を振る光景には、どこか“作り物”のような静けさすら感じられた。

「この国は、信仰によって秩序が保たれている。だが……」

 ロサンジェラが慎重に言葉を選ぶように口を開く。

「……どこか、息苦しいわね」

 リューは頷いた。清浄すぎる空気。規律に縛られた笑顔。それらが、かえってこの国の“緊張”を浮き彫りにしていた。

 三人が中央大聖堂の前に着いたとき、一人の若い神官が出迎えに現れた。金の髪に白銀のローブをまとい、その手には純白の杖を携えている。まるで光そのものを体現するような存在感だった。

「お迎えにあがりました。光神使カミュー様より、あなた方を聖堂へご案内するよう命じられております」

 その名に、リューの眉がわずかに動いた。

「カミュー……ここにいるのか?」

「はい。教主の後継候補として、現在はこのラグナの統治に携わっております」

 案内されるまま、大聖堂の扉が開く。内壁には金と白を基調とした壮麗な装飾が施され、数百の光球が魔法によって浮遊し、聖句の旋律を伴ってゆるやかに流れていた。

 奥に進むと、そこにはひときわ広い円形の光の間。その中央に、静かに佇む者がいた。

 白金の衣に包まれたその姿は、まるで天啓を受けた預言者のようだった。だが、その目にはかつての記憶が宿っていた。

「……リュー。やはり、君だったか」

 声は穏やかで、どこまでも澄んでいた。

「……久しいな、カミュー」

 互いに歩み寄ると、カミューは軽く抱擁を交わすように腕を差し出した。リューは一瞬迷ったが、静かにそれを受け入れる。

「こうして会えたことを、私は光に感謝しているよ」

 カミューの背後には、数名の神官が控えていたが、皆一様に恭しく頭を下げていた。

「ようこそ、ラグナへ。光は遍く者を照らす。我らの地で、少しでも心が安らげることを祈っている」

 その言葉に偽りはなかった。ただ、どこか“全てを受け入れようとする余白のなさ”が、リューの胸に微かな違和感として残った。

 応接室に通された後、リューはこれまでの旅の経緯──塔の襲撃、アトムの争奪、プルートの奪還、そして師の痕跡を追ってここへ辿り着いたことを語った。

 カミューは一言も遮らず、静かに頷きながら話を聞いた。

「……つまり、“鍵”を集め、何かを“開こう”としている者たちがいると」

「ああ。セルンと名乗る集団。そして、その一部は、かつての仲間ですらある」

 カミューは目を伏せ、やがて小さく呟いた。

「……光に仇なす者が、かつての修行仲間だというのは……辛いな」

 しばしの沈黙のあと、彼はゆっくりと顔を上げた。

「リュー。君の話を聞いて、私はある提案をしたい」

「提案?」

「君が持つ“プルート”──それを一時的に、我が教会で管理させてもらえないか?」

 ロザンジェラが眉をひそめた。

「……なぜ?」

「ここには、最大級の結界と封印術がある。信徒たちを守るためにも、危険な魔力は慎重に扱うべきだ。もちろん、君たちが旅を終えるまでの間だけで構わない」

 その言葉は理にかなっているように思えた。だがリューは、どこか釈然としないものを感じていた。

 まるで、“預ける”ことが、避けられぬ“始まり”であるかのように──。


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