第3節 水源の戦場、セルン掃討作戦
アク・ラ水源の奥深く、空気は湿っていた。
外の砂漠とは対照的に、ここには水と岩と、澱んだ魔力の匂いが渦巻いていた。
「……ここか?」
アベルが低く問いかける。リューは黙って頷き、片膝をついて地面を撫でた。
水脈に沿って流れているはずの魔力の流れが、明らかに乱れている。
「罠が張られている。魔力の流れがわざと乱されてる」
「セルンか。手慣れてるな」
二人は小さな合図だけで動き始めた。リューは前方へ、アベルはやや後方から広範囲を焼けるように位置取りをする。
狭い通路、暗がりの中、視界は限られている。リューは土魔法で空間認識を拡張し、周囲の魔力の“形”を読む。
「来るぞ」
リューが呟いたと同時に、岩陰から黒装束の術者が飛び出した。沈黙のまま詠唱し、火と風の複合魔法を放つ。
リューは一瞬で敵の詠唱式を模倣し、反転構造を組み立てた。
「反射」
術が反転し、敵自身へと跳ね返る。爆裂音。
すかさず別方向から追加の術者たちが現れ、魔力障壁を展開して通路を封鎖する。
「囲まれたか……!」
アベルが一歩踏み出し、炎の波を地面に放つ。火の海が障壁にぶつかり、互いの魔法が火花を散らす。
「無理に突破せず、誘い出すぞ!」
「任せろ!」
リューは敵の障壁式を観察し、構造を一部模倣。自分の障壁に“敵の味”を混ぜ込んで偽装した。
「——さあ、撃ってこい」
敵がそれに反応し、リューの障壁を味方と誤認して移動した瞬間、後方からアベルの火撃が直撃。
狭い通路は一瞬で焼け落ちた。
「……ふう。次」
戦闘は続いた。セルンの術者たちは二人一組、三人一組と小隊を形成し、各通路で迎撃してくる。
だが、リューとアベルの連携は数の差をものともしなかった。
リューはあえて敵の罠に一度かかり、それを模倣して“罠”に変える。
アベルはリューが撒く炎を利用して、炎の壁で敵を閉じ込める。
*
一方そのころ、戦場から離れた洞窟の外縁に、カイはいた。
背中に水筒を背負い、腕にはリューから預かった護符。
「……なんで、俺だけ待機なんだよ」
ぼやきながらも、泉のわずかな水たまりに手をかざす。
護符がふるえる。リューが教えてくれた“水に潜む魔力”の読み方を思い出しながら、カイは目を閉じた。
「——動け、流れろ」
声はなかったが、意識は確かに泉へと向いていた。
次の瞬間、水たまりが一筋の筋となり、岩の割れ目からしずくが溢れ出す。
そこにあったはずの“干上がった泉”が、ゆっくりと息を吹き返した。
「……できた?」
カイが目を見開く。自分でも、何をしたのか完全にはわからない。ただ、泉が応えた。それだけは確かだった。
背後でロザンジェラが小さく驚いた声を上げる。
「……それ、まさか……?」
カイは戸惑いながら、笑った。
「……たぶん、なんか、うまくいった」




