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第2節 火将軍の敗北と再編される絆

 炸裂する熱気が、石の床を焼いた。

 火将軍アベルの右腕から放たれた火炎の槍が、空気を裂いてリューを襲う――その瞬間、光が跳ねた。

 リューはわずかに身を傾け、模倣魔法で展開した半透明の障壁をかざしていた。

 それはかつて土魔法から模倣した“断熱盾”の変化型。熱を逸らすようにして、炎が散った。

「やるじゃないか……昔よりは、な」

 アベルの声に余裕はないが、笑みも残っていた。

 リューの身のこなしは静かで無駄がなく、一手ごとに相手の癖を読み、模倣と調整を重ねていく。

「お前たちは、決まった型の中でしか魔法を扱わなかった」

 リューの声が静かに響いた。

 アベルが眉をひそめた。次の瞬間、足元から炎の円が浮かび上がり、空中へと火柱が吹き上がる。

 リューの姿がかき消える。だが、アベルは感じ取った――頭上だ。

「――そこだッ!」

 天井へ向かって火球を撃ち放つ。その爆裂と同時に、何かが逆巻く風のように背後へ舞い降りた。

 リューの掌がアベルの背へ触れた瞬間、模倣された火炎魔法が発動し爆ぜる、アベルの身体が地へと沈む。

 それでもアベルは踏みとどまった。全身から炎を噴き出し、リューの掌を焼こうとする。しかしその直前、リューのもう一方の手がわずかに振れた。

 術式の断片が重なり、アベルの炎が霧散する。相殺。いや――封じ。

「く……っ!」

 そして、炎のない広間に、一筋の風が吹いた。

 アベルの膝が沈み、崩れ落ちた。

 沈黙。

 誰も声を発しないまま、しばし時間が止まったようだった。

「これが……“模倣”の到達点か」

 床に手をつきながら、アベルが呟いた。

 リューは何も答えない。ただ静かに、構えを解いていた。

 アベルは立ち上がると、鋭い眼差しでリューを見据える。

「かつてのお前は、孤独だった。誰とも交わらず、ただ黙って誰かの技を真似るだけの、得体の知れない存在だった」

「……今も、さして変わらん」

 リューの言葉に、アベルはふっと息を吐く。

「今のお前は、あの頃と変わった感覚がする。」

 その一言に、カイが目を見張る。

 リューは目をそらし、小さく首を横に振った。

「俺はただ、師の居場所を知りたいだけだ。」

「ならば――」

 アベルが背後の扉へと手をかける。

「陛下に会え。俺の負けを、王に報告する義務がある」

 王の間は、太陽のような金色の光に包まれていた。

 玉座に座る男――紅蓮皇バルザックは、堂々たる体躯を揺らしながら、まっすぐリューを見据えていた。

「リュー=エルバレスト。久しいな」

 その声は低く、しかしどこか懐かしさを含んでいた。

 リューはその場で膝をつくこともせず、ただ淡々と答えた。

「会いたい相手ではなかった。だが、他に道がない」

「相変わらずだな。……模倣者イミテーター

 その言葉に、カイが反応しかけたが、バルザックが手で制する。

「もうそう呼ぶ者は少ない。だが、俺にとっては“あの頃”の名残でもある」

 バルザックはゆっくりと立ち、城の窓の外――遥か砂の地平を見やった。

「我が国の水源が、狙われている」

「セルンか」

 リューの問いに、バルザックは頷いた。

「我らが命綱――アク・ラの水脈。その奥深くに、グラナダと呼ばれる魔石が眠る。希少な鉱石だ。セルンの狙いは、おそらくそれだろう」

「ならば、王が動けばよい。お前の力なら、セルン程度――」

「……動ければな」

 バルザックの声が、ほんのわずかに苦味を含んだ。

「この国は多民族の均衡の上に成り立っている。俺が動けば、各地の派閥が一斉にざわつき、火種が国中に広がる。それだけは避けねばならん」

 玉座に戻りながら、彼は静かに続けた。

「そしてもう一つ――アベルが、セルンの調査途中で妙な痕跡を感じ取った。かつての“師”の魔力に、よく似た気配だったという」

 リューの目がわずかに揺れた。

「そこを、俺に調べさせてくれ」

「条件がある。まずはセルンを叩け。水源を守るための戦力として、お前が動く。それが済んだ後なら、好きに探るがいい」

 リューは静かに頷いた。

 バルザックは玉座に腰を下ろした。


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