表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/101

第3節:氷上の追跡と潜む影

 王都の南端、氷河に面した旧鉱区。

 かつて魔鉱の採掘で賑わったこの区域も、今は凍結され、封鎖されたままとなっていた。

 「アリスからの情報によれば、プルート奪取犯の一人が、この区画に逃げ込んだらしい」

 リューは雪を踏みしめながら言った。

 「アリスはこの先に誰かがいると分かってるかもしれない」

 「でも……動かない」

 カイが声を潜める。「どうして?」

 「情報が足りないのか、あるいは……身内の兵を出して大事にしたくない」

 「でも任されたから、進むのよね」

 ロザンジェラは静かに呟いた。「やれやれ、女王様はほんとに変わってないわね」

 凍りついた坑道の入り口には、魔力封鎖の痕があった。鍵式の封印が壊され、結界の歪みだけが残っている。

 リューが掌をかざすと、微かな波動が走った。

 「……生体痕あり。三日前、ここを誰かが通った」

 「一人?」

 「いや……少なくとも二人。しかも魔力の“流派”が違う」

 カイは周囲に気を張りながら、リューの隣で囁いた。

 「塔を襲った時みたいな感覚、ある?」

 「ある。似た“匂い”がある」

 リューの目が細められた。「セルンだ。間違いない」

* * *

 坑道の奥へと進むと、氷壁の奥に何かがうごめいた。

 リューが手を掲げると、即座に氷が砕け、黒い影が飛び出した。

 「下がれ、カイ!」

 リューが叫び、土の盾を展開する。

 だが敵の動きは鋭い。細身の体に密着した布装束、目元だけを残し覆面で顔を隠している。

 右手からは紫の雷が瞬時に走り、リューの盾に斜めから切り込んだ。

 「反応が早い……」

 リューは攻撃を受け流しつつ、魔法の構造を読み取る。「この雷……基礎魔法じゃない。“改造型”だ」

 敵は無言のまま攻撃を繰り出し続ける。応じる形でリューも模倣魔法を展開するが、敵は一撃ごとに魔力の性質を切り替えていた。

 「……模倣防止の多層構造か」

 「つまり?」

 「俺の魔法を封じに来てる。……特化型の戦法だ」

 そのとき、氷壁の上から冷気が凝縮し、槍のように敵の動きを阻んだ。

 ——氷の女王の魔法だ。

 「……アリス」

 広がる白い光の中、アリスが近衛兵と立っていた。

 裾をなびかせながら、静かに敵へと歩を進める。

 「私の国で、私の宝を奪い、私の”物”に手を出す。——無礼にもほどがある」

 言葉と同時に、空気が凍った。

 氷結魔法《白牙陣》——空間を斜めに貫く無数の氷の刃が、敵の退路を断つ。

 だが敵は、腕の内側から術式を起動させ、氷を瞬時に融解させてみせた。

 「干渉か……なるほど」

 アリスが声を低くする。「セルンは、術式ごと“再設計”して魔力干渉を乗り越えると……それが、ロジックか」

 リューが横へ並ぶ。「共闘してもいいか」

 「勝手にしなさい」

 それだけ言って、アリスは氷と共に突撃する。

 リューは、模倣魔法《氷刃の道》を構成する。アリスの技を真似たその術は、時間差で敵の脚を封じた。

 「タイミング合わせろ!」

 リューとアリスの声が同時に重なり、氷と土が一点に集中する。

 敵は抵抗の構えを取るが——その肩を、誰かの小さな手が掴んだ。

 カイだった。

 彼の手のひらから、白く柔らかな光があふれ、敵の魔力を一瞬だけ中断させる。

 「……今、何した?」

 リューが驚くが、カイは首を振った。「わからない。でも……止まるようにって、思っただけです」

 その隙に、アリスの氷が敵の背を穿つ。凍結。

 リューの土の縛鎖がその体を地に繋ぎ、ついに敵の動きが止まった。

* * *

 術者は仮面の下にまだ若い顔をしていた。二十代前半、痩せた顔つきに深い目のクマ。

 リューが問いかける。「セルンの目的は何だ」

 沈黙。

 ロザンジェラがそっと手をかざし、回復魔法を流し込む。精神を緩ませる“静化”の術式。

 「……プルートは、“鍵”。門を……開ける……そのために」

 「門?」

 そこで、術者の目が白く光った。

 「……あっ、まずい」

 リューが叫ぶが間に合わない。

 術者の体から魔力が逆流し、情報記憶が焼き切られた。

 「自己封印術……」

 アリスが静かに言った。「こざかしい真似を」

 しばらくの沈黙の後、アリスがリューに視線を向けた。

 「……模倣魔法か」

 「それでも、ただの真似事だ」

 「真似か…相変わらずだ」

 アリスの視線がカイに向いた。「あの子、何者だ?」

 「……俺の従者だ」

 「そうか」

 その背中はもう、玉座の女王としてのそれだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ