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第4節:「影を纏う術者たち」

 朝靄の残るクラト渓谷に、突如として鋭い魔力の気配が走った。

 岩壁の向こうから現れたのは、漆黒の装束に身を包んだ数人の術者たち。顔のほとんどを覆面で隠し、目元だけが不気味に光っていた。

「ザック、来たぞ」

「わかってる。足音、五人分。全員、軽装で早い」

 ザックは大地に片膝をつき、掌を土に押し当てる。瞬時に周囲の地脈が活性化し、術者たちの動きが視えたかのように読み取られていく。

「カイ、子供たちはロザンジェラと一緒に避難しろ!」

 リューが叫ぶと、カイは素早く動き、谷の奥へと駆けていくロザンジェラに続いた。

「行くぞ、リュー。共鳴、始めるぞ」

「ああ、準備はできてる」

 二人は地を蹴り、正面から術者たちに突っ込んだ。

 ザックが放つ《土竜の咆哮》。大地が隆起し、牙のように鋭い岩柱が次々と敵を襲う。

 リューはそれをなぞるように模倣し、さらに水の刃を組み合わせた応用技で後方から包囲網を作る。

 連携は完璧だった。敵の術者たちは正確に読み切られ、次々に倒れていく。

 一人だけが、跳躍して谷からの脱出を試みる。

「逃がすか……!」

 リューが指を鳴らすと、その術者の足元から土の蛇が現れ、絡みつく。

 術者はもがいたが、ザックの拳が静かに地を叩くと、硬化した土が鎖のように巻きつき、その動きを封じた。

「一人、生け捕りか。上出来だな」

 ザックがゆっくりと立ち上がりながら言う。

 リューは術者の覆面をはがす。若い。二十代前半だ。だがその目は、どこか感情を失っていた。

「名前は?」

 沈黙。

「目的は? 誰に命じられた」

 沈黙。

 ロザンジェラが戻ってきて、術者の肩にそっと手を置いた。彼女の回復魔法は、肉体だけでなく心にも作用する。術者の硬直が、わずかにほどけた。

「アトムを……持ち出すのが、我々の役目……だが、それは“鍵”にすぎない」

「鍵?」

 リューとザックが同時に問い返す。

「門を……開くための。俺たちは“セルン”の……」

 そこまで言った瞬間、術者の瞳が白く光り、言葉が止まった。

 魔力の逆流。術式による自己封印。意識は残っているが、情報は二度と引き出せない。

「……やられたな」

 リューが苦々しくつぶやいた。

「“セルン”って名前……昔、聞いたことがある」

 ザックが思い出すように言う。「ありもしない禁術を研究していると言われている存在するかどうかもわからん連中だ」

 リューは黙って、術者の残した魔力痕を指先でなぞる。そこに含まれる術式構造は、塔を襲った敵のものと酷似していた。

「やっぱり……あの襲撃と繋がってる」

 やがて静寂が戻る。谷は守られた。子供たちがザックに駆け寄り、その腕に飛び込んでいく。

「お前がここに残るのは、わかってる」リューが言った。

「ああ。。こいつらを、今さら置いていけねえ」

 ザックは子供たちの頭を撫でながら答える。「だが、お前の戦いに、背を向けるつもりはねぇ。何かあれば、地を震わせろ。俺はいつでも応じる」

 リューは拳を差し出した。「感謝する」

 二人の拳が静かに重なった。

 そのとき、ロザンジェラが術者の封じられた身体を調べながら、呟いた。

「最後に彼が言ってた……“セルン”って、どんな組織なのかしら」

「連中はアトムを“鍵”と言った。つまり——何かを繋ぐ“門”を開けようとしている」

 リューの声に静かな怒気が混じる。

 塔を襲撃したあの夜の惨劇。今また、別の土地で繰り返されようとしている。

「プルート……噂じゃ、北の国にあるプルートと呼ばれる鉱石はアトムと同じような存在らしい。他にもあるらしいが、探せば、自ずと師にもたどり着けるだろう——おそらくな」

 ザックがそう言って、リューに視線を向ける。

 クラト渓谷に朝日が差し込む。

 だが、その光の先には、新たな戦いが待っていた——。

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