島の夜のアジェンダ
夜、ダンジョン管理局のフタグン島支部、俺は休憩室でアキヅキがやってくるのを待っていた。彼女と夜に話す約束をしているのだ。今日のことを報告して、情報を共有し合うのが目的。リラックスした気持ちで待っていると、やがてアキヅキはやって来た。
「いやあ、アキヤ君。おつかれー。今日は大活躍だったらしいねー」
「言いすぎだよアキヅキ。俺はみんなをサポートしただけ。活躍したのはサナたちの方だ」
「ふぅん、謙虚だね。私は思ったままを言ったのだけれど」
その言葉を、アキヅキがお世辞ではなく、素でそう言ってそうなのがアキヤには分かった。そういう気持ちを向けてもらえるのは嬉しいものだ。
「……早速だが、今日の活動を報告するぞ」
「お願いね。今日君たちが撮影した映像と、まとめてくれた資料。目は通しているけど、より細かく確認しておきたいことはあるからね。よろしくお願いするよ~」
「んじゃあ……」
俺からの報告をアキヅキは真剣に聞いてくれる。時々質問をされては答えたりして、この時間が妙に楽しい。俺も真剣ではあるんだけどね。昔からの顔馴染みと話すのには、特別なものを感じてしまうのだ。恋愛とかそういうのじゃなくて、深い友情のようなものを俺は彼女に感じている。
そのうち、話はまとまり、一通りの報告が終わった。今度はアキヅキからの報告を聞く番だな。彼女も、昼間に色々調べてくれていたらしい。頼りになる親友だ。
「こっちで調べた感じ、どうも魔力の反応が強いのはもう一つの島の方なんだ。北の島の、北部。そこから特に強い反応がある」
「なるほど? フタグン島のもう片方ってことだな」
「そういうこと。そこにはかつて漁村があったらしいけど、今は廃村になってるね。何かを隠すには、うってつけの場所のように思えるね~」
「ふむ……そこへは自力で行けるか?」
「……冒険者の身体能力なら、たどり着くのは難しくない。けれど、島の管理局の職員に船を出してもらうことで話しはしてあるよ」
この島のダンジョン管理局の職員か。職員と言えども、島民を信用して良いものか? 昼にサナたちと会話した内容が思い出される。その点を考え、俺は声を潜めて言う。
「……島の船を使うのはな。その……信用して良いものかい?」
「まあ……君の心配も分かるよ。この島、ちょっと妙ではあるからね。管理局の職員なら信用しても良いと思ったけど……アキヤ君が不安なら、別の手がある」
「不安というか……サナたちの安全に関わるからな」
俺の気持ちに対し、アキヅキは頷いてから「分かったよ」と答えた。ということは、あるんだな? プランBが。そういう、サブプランを用意しているところ、凄いと思う。
「別の手があるにはある。ただ、準備が整うまで一日待ってほしいかな~」
「ん、自力でも行こうと思えば行けるんだろ?」
「まあ、さっきも言った通り、冒険者の身体能力なら、北の島までは泳げるだろうし、島の端から端まで歩いてたどり着けると思う。けどね」
そこまで言って、アキヅキは優しく笑った。見るだけでホッとするような笑顔。そんな顔の彼女が、俺に言う。
「今日は頑張ったんだし、明日は休みなよ。ここまでの船旅の疲れもあるだろうし、一日しっかり休みなよ。と言っても、若い女の子たちは、何かと、じっとしてはいないだろうけど」
「そうかな?」
「たぶん、そうだよ。サナちゃんたち、さっき海で着る水着の話をしていたし、明日は海水浴! なんてのも良いんじゃない?」
「それは余計に疲れるんじゃないかな!?」
一時的に小さな声で話していたけど、だんだんと音量は戻っていき、今はすっかり普段の声量で話している。それにしても海水浴か……たまには良いかもな……なんて思ったり。
「疲れたってウイカゼちゃんにエリクサーを作ってもらえば全快でしょ。疲れは気にせず、全力で休暇を楽しみなよ! ユー!」
エリクサーで回復できるなら、その休憩は必要が無いのではないだろうかと思ったりする。けど、そういうことじゃないんだろうな。ウイカゼさんのエリクサーを使ったって、メンタルまでは回復できない。心を回復するためには、もっと別の急速が必要なのだから。
アキヅキからの提案は受けるべきだろう。彼女の親切心が嬉しく感じられる。
「了解だ。明日は休憩する。で、明後日から調査再開だな」
「ふふ、決まりだね。私はそのことを、ちょっと三人に話してくる」
「いやいや、ちょっと待て。まだ、北の漁村について話が途中だ」
「ありゃりゃ、そうだった」
わざとらしい顔のアキヅキ。そういうところも彼女の魅力ではあるのだが……真剣かと思えば、急に力が抜けた様子になったりする。そんな彼女と話すのは、やっぱり面白い。
「……じゃあ、北の島について報告していくよ~」
「頼んだ」
アキヅキからの報告を受け、俺はその場で、聞いた話を元にサナたちへの報告資料を作る。彼女たちも交えて、直接のやり取りをすれば良い気もするが、話をまとめやすくするために、こうして先に二人で情報を共有する過程を挟むのだ。
そうして時間は経っていく。明日は島での休暇だし、おじさんも遊んでみるとするか。




