お昼ごはんと情報交換
十三時手前。そう、まだ昼を少し過ぎたくらいなんだよな。なんとなく、時間の流れがゆっくりしているような気がする。それだけ、密度のある時間を過ごせているということかもしれない。
ダンジョン監理局の休憩室で、畳の上の座卓に作った料理を並べていく。これはサナとウイカゼさんも手伝ってくれた。この場所を使わせてくれている施設の人たちも含め、皆の優しさに感謝だ。
お昼のメニューは、ほかほかのお米に、刺身となめろう、そしてあら汁だ。どれも見た目も香りも良く、食欲をそそられる。
「さ、俺とハルカさんが作った自慢の料理たちだ。食べてくれ」
「美味しそう! おじさんもハルカちゃんも流石だね!」
「早速、いただきますわ」
サナたちが料理を口に運ぶ。すると、彼女たちの表情が緩んだ。彼女たちは美味しそうに食事をしてくれて、嬉しい。
「このお刺身、薄いのに弾力があって、とっても美味しい! この冷たさが、ごはんの暖かさに良い感じで調和してるよ!」
「なめろうも素敵なお味ですわね。なめろう特有のねっとりとした食感が、わたくしには新鮮で楽しいですわ」
二人から嬉しい評価をもらえたし、ハルカさんはうんうんと頷きながら料理を口に運んでいる。俺も料理を食べるとするかな。最初にいただくのは、もちろん、ハルカさんが作ったあら汁だ。
まずは一口……む! 舌に触れたそれからは深みのある味がした。口から喉へ暖かい液体が進んでいく感覚があり、飲んだ後には、ホッと安堵の息が出そうになる。それでいて、更なる食欲を刺激されるこの感じ! 食事が進むな!
「……アキヤさん、美味いよこれ。かなり美味い」
「ああ、ハルカさんが作った料理も良い感じだよ」
そのやりとりが、なんだかとても嬉しくて、俺はハルカさんと静かに笑いあった……そこの二人は何をにやにやしているのかな? サナは「別にぃ」と言ってから「報告があるよ」と言う。む? 報告とは何だろうか? 気になるな。
「……聞かせてほしい」
「うん、おじさん。私ね、ウイカゼちゃんたちと一緒に島の市場まで魚を買いに行ったわけ。今の時間帯でもアジの数尾くらいは買ってこれたよ。で、感じたのは、普通の島だなってこと」
「普通の?」
俺が聞き返すとサナは「そうだよ」と答える。普通だと言うことが、サナには引っかかっているように見えた。つまり、彼女はもっと異常があるべきだと考えているということ。
「おじさん、私が思うに、島の様子があまりにも普通すぎる。それは、この島がよくある感じの町だとかそういう話じゃなくて……ピリピリしてないんだ。私の言いたいこと、分かるよね?」
「なるほどな……分かるよ。この島の周辺には怪物が潜んでいる情報があって、それはこの監理局を通して島の住民にも知られているはずだ。つまり……」
「本当はもっと、この辺りには緊張感が漂っているべき。けれど、この島の人たちからはそういう雰囲気は感じられなかった。それが、気になるよ」
サナの横でウイカゼさんが同意するように頷いた。これは、どうもきな臭くなってきたな。とはいえ、島の人たちをすぐにクロだと決めるべきではない。島の人たちが平然としていることについて、いくつかの理由が考えられるからだ。そう考えて、俺は声を潜めて言う。
「……ここの島民に裏があるって可能性はある。だけど、別の可能性もある」
俺は、かつてこの世界にやって来た魔王のことを思い出していた。あいつのことを考えると良い気分はしない。
「……なんらかの大規模な精神干渉が島民全体にかかっている可能性がある。かつて俺たち人類全体に精神干渉がかかっていたみたいに」
俺の言葉を聞いて、ハルカさんも声を潜めて話す。
「……白漂のやつか」
ハルカさんの口から出た名前に対して、サナとウイカゼさんの二人が、緊張するのが分かった。うちの姪っ子を緊張させやがって。本当にあいつは嫌なやつだ。
「……白漂が復活したかは分からない。感だが、その可能性は低いと思う。が、頭のすみに、やつの存在は留めておくべきかもしれない」
「「「……了解」」」
皆に緊張が走る中、「まあ深く考えても仕方がないかー」と笑ったのはサナだった。確かに、今そのことを深く考えても仕方ない。色々考えるには、まだ情報が足りないのだ。
「一度私たちでやっつけた相手だし、もし復活してても、なんとかなるでしょ! 再生怪人は弱いって相場が決まってるし」
「どこの相場だよそれは……」
呆れながら聞く俺に、サナはにやりと笑って言う。
「特撮界隈じゃ常識だよ」
「そうなのか……というか、あいつは怪人なのか?」
どうでも良いことではあるが……白漂は自身を、大魔王だと自称していたはずだ。
「悪事をあばかれて変身してたし、怪人みたいなもんだよ。だから、再生してきても、きっと弱い!」
「言いきるね」
「言いきるよ。だから、おじさん。心配は要らないよ。今の私たちは、あの頃より、めちゃくちゃ強いし」
「……そうだな」
俺は今だってサナたちのことを心配していたが、それは要らない心配だったのかもしれない。サナの自信にあふれた顔を見て、そう思った。




