フタグン島のダンジョンへ
フタグン島の港から少しあるいたところにダンジョンの入り口がある。空間の歪みの向こうへ進めば、そこは魔物たちの世界。だからこそ、ダンジョンへ入る前に不備がないか確認するべきなのだ。装備や体調のチェック、作戦の確認などをした後、もう一度皆に声をかける。程よく緊張した空気があって、良い感じだ。
「フタグン島ダンジョンの危険度はC。高難度のダンジョンではないが、油断なく行こう。とはいえ、緊張もしすぎないように。いつもの四人で、いつものように攻略しよう」
「「「了解」」」
「――待ってくだサイ。大事な仲間を、一人忘れてマスよ」
ハルカさんたちの返事に待ったをかけたのは、黒いボディの四脚機械、タマグモツーだ。うちのパーティの専属の機体で、皆はタマちゃんと呼んでいる。頼れる仲間だが、喋るようになったのには、まだ慣れない。
「悪かった、タマちゃん。いつもの五人だな」
「そうデス。バージョンアップしてから皆さんと冒険をするのは初めてデス。が、皆さんを精一杯に、サポートしマスよ」
タマちゃん。バージョンアップしてからは喋るようになった。ハルカさんたちは積極的に交流をしているそうだが、俺は今のタマちゃんにどう接するべきかよく分からなくなったりする。だって相手は機械だ。何をしたら喜ぶのか、とか全く分からん。というか、感情があるのかすら分からん。蔑ろにするつもりはないのだが、どうにも接し方に困ってしまう。
「……じゃあ、行こうか。フタグン島ダンジョンの攻略開始だ」
「「「おー!」」」
ちなみに、今回もダンジョン探索の様子は配信していく。アキヅキから配信の許可がとれたからだ。彼女曰く、いつも通りの方がハルカさんたちのパフォーマンスにも良いだろうとのこと。なんだかんだで、彼女は色々と融通を利かせてくれるので助かってる。何らかの形で日頃の感謝を形にできれば良いのだが、それはダンジョン探索の後で考えよう。
俺たちは歩きだし、空間の歪みの向こうへ進む。そうすると、辺りには洞窟のような光景が広がった。ところどころに生える結晶が光源となり、辺りを明るく照らしている。そこそこの広さがあり、窮屈には感じない。そんな光景は幻想的とも言える。これで魚介系の魔物が出現しないのならば良いダンジョンなんだが……どうにも、海の生物は得意じゃない。
そんなことを考えている間にも、俺の後ろではハルカさんたちが撮影ドローンを起動したようだった。ドローンの駆動音を聞きながら振り返る。今日も配信開始だな。いつものように、気負いすぎないくらいでいこう。
「……こんサナー。今日のダンジョン配信を始めていくよー」
「皆さんごきげんよう。ウイカゼですわ」
「ハルカちゃんもいるぜー。で、今振り向いたのがアキヤさん」
「どうも、アキヤです。よろしくお願いします」
・こんサナー
・こんサナ
・ウイカゼお嬢様ごきげんよう
・ハルカちゃんかっこいいー!
・アキヤおじ様。どうもです
いつもの挨拶。今回はフタグン島のダンジョンに来ているということで、特別回になってはいるが、やることはいつもと変わらない。ダンジョンに潜ってボスを討伐し戻ってくるのだ。アキヅキからもそうするように頼まれている。
だから、配信をすること事態に問題はないのだが、ちょっと恥ずかしいこともある。それは。
・アキヤさん。せっかく離島に来てるんだから、ハルカちゃんとデートしろよ
・アキヤおじ様の恋路、我々リスナーは応援してます
・ウイカゼお嬢様と付き合っていたらユニコーンの角が炸裂するところでした
・アキおじ奥手だからな。ハルカちゃんがリードしてやらねば
・ヒューヒュー!
これである。つい先日、ひょんなことから世間に俺とハルカさんとの恋路が発覚した。一時は、強火のファンから刺されることも覚悟したのだが、意外にも? 応援の声が多かった。どうも、世間からの反応は、あんたたちほどの二人が付き合うのなら……といった感じの反応らしいのだが、何がどう、あんたたちほどの二人なのだろう? 世間から応援されるのはホッとするし、ありがたくもあるのだけど、ちょっと恥ずかしくもあるんだよな。
リスナーたちから応援されることには、ハルカさんも少し恥ずかしく感じているらしい。なんというか、こそばゆい。とは彼女の言葉だ。彼女の言葉に俺はとても共感した。とはいえ送られてくる声援を無下にしてはいけない。そのうち俺たちが慣れる時が来るだろう。そうなれば平気なはずだ。
「と、とにかく! 今日もダンジョンを攻略していきますよ! ここでは、イカやタコ、貝やスライム状の魔物が出てきます。頑張っていきましょー!」
「「「おー!」」」
そこまで話したところでタマちゃんから「魔物の存在を検知しまシタ」と報告があった。ダンジョンの入り口近くに魔物の姿は見えないが、少し離れたところに気配があるのは俺も感じる。タマちゃんの索敵能力はバッチリだな。
「……魔物は音を発しているようデス。その音を流すことができマス」
「どんな音か、聞いてみようか」
俺の言葉に反応して、タマちゃんは拾った音を流す。それはテケリ・リと繰り返す不気味な音だった。




