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ある母と娘と

 今、俺は夢を見ているのだと感覚で分かった。俺の部屋のようでいて、違和感を覚える場所。そこに居るのは、なんとも居心地が悪い。


 ベッドに腰をかけて、どうしたものかと思っていると、部屋の扉が開いた。仮面をつけた桃色の髪の女が、部屋に入ってくる。彼女の口許を見ると薄く笑っているのが分かった。何を企んでいるのやら。


「どうも、リリス。今回は何のようだ?」

「……つれない態度だな、アキヤ。私は貴公とハルカの恋路を助けてやったというのに」

「そうだな……その点は感謝してる」


 リリスに助けられたのは確かだ。彼女のアシストがあったお陰で、俺とハルカさんが付き合えたのだと言っても過言ではない。だから、感謝してるという言葉に嘘偽りは無い。無いんだが。


「……なあ、前から気になっていたんだが、あんたはどうして俺の味方をしてくれるんだ? あんた魔王なんだよな?」


 白漂のやつについては、気に入らなかったのだろう。だから俺たちに手を貸してくれた。が、その後の恋路までサポートしてくれるのはどういうことだ?


  彼女は俺に、恩を売ろうとしているのかもしれない。そう考えると、警戒はする。感謝はしてるが、それはそれとしてだ。彼女が俺に良くしてくれる理由を知りたい。


 リリスは壁に寄りかかり、腕を組んだ。俺が見つめていると、彼女は「そうだな……」と言って、息を吐いた。ひょっとして、俺の気になっていることを教えてくれるのだろうか。そうだとしたら、ぜひ話してほしい。


「……実を言うと、今夜はそのことを話しに来たのだ。貴公に聞いてほしくてな」

「それは助かる。ただ、どういう心境の変化なんだ? これまでは、話してくれなかったのに」

「そう言うな。このことを話すには結構勇気が必要なんだ。それに、貴公たちのことは魔界から見ていた。貴公は信用のできる人間だと判断したから、このことを話す」

「……分かった。続けてくれ」


 とても、大事な話らしい。それに、勇気の要る話だったと、そこまでの思いで話すのなら、適当に聞いたりはできない。俺は座ったまま、姿勢を正した。


「……少し、昔の話をしよう。なに、長くはならんよ」


 そうして、リリスの話が始まる。彼女の声は澄んでいて、すっと聞くことができた。それは、気持ち良くも感じられる。


「昔、魔界に迷いこんだ男が居た。その頃は貴公らの世界から、魔界へやって来る道などなかったはずなのに。どういうわけか魔界へやってきた不思議な男だった。そんな男と、私は出会った」

「魔界は、夢の世界で現実と繋がっているのでは?」

「繋がってはいた。だが、お互いに手を出すことはできなかったはずだ。今ではこうやって繋がることはできているが……一度話を戻そう」

「……分かった」

「私は、男に興味を持った。その頃から、私は男の世界にも強い興味を持つようになる。こちらの世界と魔界とを繋げる。その研究を始めたのは私だよ」

「……続けてくれ」

「私と男は共に研究を進め、恋仲になっていた。私は彼と共に、こちらの世界に来ようとさえ思っていた。魔王の地位を捨てても良いと思っていた。実際、私は彼と共にこちらの世界へやってきた。ダンジョンという中間の世界を作ることによって」

「……つまり、ダンジョンがこちらの世界に生まれた元凶はリリス。あんたか」


 リリスは頷く。これは、驚いたな。とにかく、話を続けてもらおう。


「……ダンジョンが無数に生まれてしまったことは、私の計算外だった。一つだけ作る予定だったダンジョンはいくつも生まれてしまった」

「それは、あんたのやらかしだと、とらえて良いか?」

「ああ……そうだ……話を続けても?」

「どうぞ」

「季節が巡り春になって、私と男との間には子どもが生まれた。この世界で最も可愛く、愛おしく思える。そんな子どもだった」

「その気持ちは……理解できるかもしれない」


 姪のサナが生まれた時、俺も似たようなことを思ったから、リリスの気持ちは理解できた。


 

「……その頃だよ。あのくそったれの魔王……貴公もよく知る白漂のやつが、こちらの世界にやってきたのは」

「白漂……あいつは、その頃に世界を侵略し始めたのか」

「ああ、やつは……他の全ての魔王たちを実力で倒した。そうして、こちらの世界へやって来た。自らが唯一の、こちらの支配者になるのだと言っていた」

「そいつは、くそったれな話だな」

「ああ、嫌な話だよ。その原因を作ってしまったのは、私だが……」


 リリスが、この話をするのに勇気が必要だと話していた理由が分かった。白漂が世界を支配し、世の中がめちゃくちゃになった責任は、リリスにもあると……彼女はそう考えているのだろう。俺はそれを、否定はしない。


「白漂は言っていたよ。お前の愛する者たちが大切ならば魔界の入り口で番人をしろと。その際に、愛する者たちを魔界に連れていってはならないと」

「それは、どうして……?」

「やつが常に私の家族を見張っていられるようにだろう。もっと言えば、人質だよ。お前の家族はいつでも殺せるってことさ」

「白漂のやつは、死んでも、俺を不快にさせるのが上手みたいだ」


 大切な家族を人質にとる。ほんと、姑息というか、聞いてるだけでも不快だよ。


「……まあ、最終的に死んだのはあいつなわけだが……その節は、貴公たちに、本当に感謝している」

「ああ、それで……あんたの家族は?」

「今も元気にしているよ。私は、家族に合わせる顔は無いがね。彼女たちが無事で、満足しているさ」


 リリスは組んでいた腕を解いた。彼女は仮面に手を当て、外した。彼女の隠されていた素顔を見て、俺は一瞬固まってしまった。その顔は、俺の愛する人によく似ていたから。


「ハル……いや、あんたは……」

「夢の世界の魔王、リリス。今も魔王たちが現世にやってこないよう門番をしている女。貴公の愛する者の母……」

「驚きだな。まじで」


 リリスがハルカさんのお母さんだなんて。ということは、ハルカさんは魔王と人間のハーフか!? ほんと、ぶったまげた。

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