VSクニハラコピー
月曜日、冒険者協会本部。俺は朝からここの地下にあるトレーニングルームへと、やって来ていた。さあ、今日はどんな魔物と仮想戦闘をするのかな? 楽しみだ。なんて考えながら主任のアキヅキから、棒と盾を渡される。おおー! 盾解禁か! 嬉しいぞ!
「今回から、盾と……アキヤ君の全スキルを解放したからね。それ相応の相手を用意しているから、真剣に戦ってくださいよー」
「了解。で、今回はどんな魔物と戦うのかい?」
「今回は、ちょっと趣向を変えているよー。それはゴーグルをして見れば分かるから、今日も張り切ってやってみよー!」
アキヅキに促されゴーグルをする。殺風景な空間に障害物が現れた。今回は、等間隔に柱の並ぶ空間か。そこに、敵が立っている。ん、ん~!? あれはクニハラじゃねーか! 本人じゃ……ないよな? えっと……やっつけちゃって良いの? 少し良心が痛むのだが。
「今回の敵はクニハラ会長でーす! 今回は対人戦ってことで、お願いしまーす」
「対人戦のデータって居るのかねえ?」
「まあまあ、これも後の役に立つはずだから。遠慮なくクニハラ会長のデータをボコボコにしちゃってよ」
「クニハラ、お前らの今の上司だろ。良いのかよ……良いんだな? じゃあ、ボコるからな?」
クニハラは最もS級に近いA級冒険者だ。油断してると負ける可能性はある。とはいえ、俺だってS級の冒険者だ。自信はあるさ。
そうして、クニハラのデータが動き出した。あれは影分身のスキル。複数の気配が、柱の影に隠れていく。そうして、俺の前方に立つ一体が手裏剣を取り出した。あからさまな囮――かといって無視もできない。あの手裏剣ひとつに様々な効果をつけてくるのがクニハラだ。なので、手裏剣は投げさせない。悪く思うなよ。
時間停止スキルを発動。素早く前方の一体を倒し、ついでに近くの柱に隠れていた一体も仕留める。これで上手く本体が倒せたなら話が早いのだが、そこまで楽に勝たせてはくれないか。
「……あ! アキヤ君! 今スキル使った!? どこー!?」
時止めのスキルを使ったからな。S級冒険者のアキヅキとはいえ、俺を見失うのは仕方ない。というか、モニタリングしてる彼女からしたら、ゴーグルを外すだけで、すぐ俺を発見できると思うのだが。そんな抜けてるところが、昔から可愛いやつだ。
アキヅキに教えてやる義理はない。というか測定データを見ればすぐに分かるだろ。ということで、ここからは、かくれんぼだ。隠密はそこまで得意なわけでもないが、スキルが解放されてるなら、やり様はある。
影犬のスキルを発動。こいつは、本物の犬並みの探知能力を持っている。そして陽動にも使える優秀な子だ。というわけで、かくれんぼしーましょー! クニハラくーん! おじさん、本気出しちゃうぞ!
影犬で探知し陽動。隠密に長けたクニハラの分身とはいえ、所詮はデータを取っただけの紛い物。隙を突くのは難しいことではなかった。本物のあいつと戦ったのなら、もう少し手間取るんだろうけどな。一体、二体、三体……簡単に倒せてしまうよ。
「お、おおー! クニハラ会長の分身たちをこんなにあっさり倒しちゃう!? データとはいえ、本物の九割の性能は引き出せてるはずなのに!」
アキヅキの驚く声を、こちらは楽しく感じてきた。たぶん、ほとんどの分身は、こちらで始末した。さあて、明後日の方向を見ている迂闊な一体の背後も取ったぞ! もらった!
その時だった側面から、手裏剣が飛んできた! ちょっと、良い気になってたかもしれない。まじに油断した。が、甘い! こちらに背後を向けていた分身は倒し、手裏剣も回避! 手裏剣の飛んできた方向から残りの敵が潜んでいる場所も予測できた。おそらくは、やつが最後の一体。
俺は体を捻る。足の向きを変え、動き出したそのタイミング。気配が、後方に現れた。同時に、俺が向いていた側の気配が消えた。クニハラの得意技。手裏剣を投げた場所に自身を瞬間移動させるスキルだ。完全に、後方を取られた形だ。やつなら、ここから一秒もあれば俺の背中に一撃を入れられる!
流石だクニハラ。こちらも準備をしていなければ、やられていたかもしれない。
俺は素早く振り返る。そんな俺にクニハラが一撃を入れることはできなかった。やつに複数の影犬が組み付いているからだ。直接的な攻撃力を持たない影犬でも、相手を陽動したり、相手に組み付いたりはできる。そんな影犬を複数呼び出していたのだ。そして、クニハラの分身を倒しながら、影犬たちを柱の影に忍ばせていた。良い働きだったぞ。皆!
俺は敵の最後の一体に強烈な突きをくらわせる。これで、クニハラのデータは全滅。俺の勝ち。一瞬ヒヤッとする場面もあったけれど、終わってみれば圧勝ってね。うん、クニハラ戦。結構楽しかった。またやりたいかもしれない。
「終わったぞ。アキヅキ主任」
「確かに、終わったねー。こんな一方的に負けちゃうなんて、ちょっと想定外だったかも」
「想定外か。そいつは、してやったりって感じだな!」
「むうー!」
ゴーグルを外し、アキヅキの元へ。得意な気持ちになっていると、彼女は俺が思ってもなかったことを言った。
「……やっぱり、最近のアキヤ君は成長してる。以前よりキレが良くなっているというか、全体的に動きが良くなってる」
成長してる。という言葉を使われるのは戸惑うというか、ちょっと照れ臭い気持ちになるのだった。




