ウイカゼ雷神波動砲
日曜日、文京ダンジョンを攻略した俺たちはそのまま近くのすき焼き屋【黒毛】へと移動していた。ここ、黒毛和牛がそこそこ手頃な値段で食えるので重宝している。サナたちからの反応も良い感じで、安心だ。
安心というと、今日のダンジョン攻略は安定していたな。油断は禁物だが、もうCランクのダンジョンくらいでは苦戦することが無くなった。配信としてはあまり見せ場がなかったかもしれない。その辺のことも、今後はもっと考えていくべきだろうか?
まあ、今夜はゆっくり凄そう。個室なので、気兼ね無く話をすることができる。料理も美味いし文句無しだ。
牛肉をもぐもぐと食べながら甘味を感じる。きめが細かく、口の中で溶けるような柔らかさ。極楽な気持ちで肉を味わっていると、ウイカゼさんから「あの……」と声をかけられる。何だろうか?
「今日は、私のスキルのことを秘密にしてもらえて、助かりましたわ」
「昨日、そう決めたからね。ウイカゼさんが新たなスキルを秘密にしておきたいというなら、俺はその気持ちを大事にすべきだと思う」
「ありがとうございます」
ウイカゼさんの新スキル【水質変化】のことを、今はパーティ内のみでの秘密にしている。色々と考えての決定だ。俺も時間停止のスキルは限られた人にしか教えてないしね。別に良いと思うし、本人の意思を尊重したい。
「ただ、新スキルを秘密にしたせいで……変な憶測が広まっているのは気になりますが……」
「ウイカゼ雷神波動砲のこと?」
「それを言わないでくださいまし!」
悪い悪い。しかし、噂ってのは凄いね。ウイカゼさんが「新たなスキルは秘密ですわ」と配信で語った後、ネットでは様々な噂が飛び交い、死者を蘇生させたり、対アンデッドの必殺技なのではないかと語られたりした末に、ウイカゼ雷神波動砲という恐ろしい技を隠しているのだという、ところまで話は飛躍している。なんだよウイカゼ雷神波動砲って。
「……まあ、人の噂も七十五日って言うし、そのうち変な噂もなくなるでしょう」
「そうだと良いのですが……あ、そこのお肉をいただけませんこと?」
「ご自由にどうぞ」
俺とウイカゼさんがそんな話をしている間、サナとハルカさんは黙々と肉を食べているようだった。というか、野菜も食え野菜も。声に出して指摘することはないけど、つい心の中で思ってしまう。まあ皆が嬉しそうにしてくれるなら俺も嬉しいし、ここへ皆を連れてきた甲斐があったというものだ。
俺も野菜や豆腐を楽しんでいると、ハルカさんが「ところでさ」と切り出す。何の話だろうかと思っていると「もう少ししたら期末試験の時期なんだよね」と彼女は語った。あー、そうか。そんな時期か。彼女たち高校生だもんね。
「……うー。ハルカちゃん。今それを言う?」
「んにゃー大事な話だぜ? 学生の本分は勉強だからな。で、なんだけどよ。今度浅草ダンジョンの方が終わったら、少しの間、ダンジョン攻略は軽くでやりたい。期末試験が終わるまでだ」
「私は試験のことは考えたくないにゃー」
真面目に語るハルカさんと、頭を抱えるサナ。涼しい顔をしているウイカゼさん。なんとなく三人の勉強に対するスタンスが見えて面白い。
「……サナさん。地頭は良いのですから、真面目に取り組めば学年のトップも狙えるでしょうに」
「だって勉強はつまらないんだにゃー」
「あら、勉強は面白いものでしてよ。というか、そのしゃべり方が気に入りまして?」
「にゃー」
頭を抱えていたサナだったが、ほどなくして肉を食べるのを再開した。この子の良いところは立ち直りが早いところだ……これ立ち直りが早いって言うのかな……まあ良いや。にしても、期末試験か。確かにその間、彼女たちが望んでいるならダンジョン攻略は控えめにするべきだろう。俺が彼女たちに無理をさせるってのは間違ってるからな。
「……分かりました。俺も、今後のダンジョン攻略については考えます。皆さんが無理をしないのが一番ですからね」
「ああ、頼むぜ。その代わり、夏休みになったら、いっぱい。色んなことしようぜ! アキヤさん!」
「色んなこと、と言うと?」
「色んなことは色んなことだぜ。アキヤさん」
ハルカさんは楽しそうに笑う。色んなこと、の中に彼女とのデートも含まれているのは想像に難しくはない。冒険者協会とのことや、老神重工のプロジェクト、ハルカさんとのことや、パーティの皆での冒険。今後は俺自身がダンジョンと料理の配信を始めるし……あれ? 俺って結構忙しいのでは? 今更そこに気付き、俺の人生が今は充実しているのだと感じる。悪い気はしない。
「……ええ、色んなことやりましょう。ハルカさん」
「そうこなくちゃ! だぜ!」
そうして楽しい食事は続き、やがて終わる。サナたちとは途中で別れ、帰宅した。今日は早めに寝て、明日に備えよう。明日は、冒険者協会に用事がある。近いうちにTAMAGUMOプロジェクトの説明会もあるし、これから先もやることでいっぱいだ!




