腕試しの千代田ダンジョン
土曜日、俺はサナたちと共に千代田ダンジョンへやってきていた。ここはBランク相当のダンジョン。金曜日のうちに俺が下見を済ませてある。本棚が並ぶダンジョンは図書館を思わせ、落ち着いた雰囲気がある。魔物の奇襲には注意が必要だ。気を引き締めていこう。
そうして、今日のダンジョン配信が始まる。皆と挨拶をするこの時間は楽しく、これからやるぞって気合いも入る。
「皆、こんサナー。今日も配信を始めるよー」
「ウイカゼ準備できていますわ」
「ハルカちゃんも頑張るぜー」
「今日も皆さんを守ります。よろしくお願いします」
・こんサナー
・こんにちは
・ダンジョン配信の時間だ
・今日はBランクダンジョンか
・皆がんばれー
「うん! 今日は千代田のBランクダンジョンに潜るよー。今後、Aランクダンジョンに挑戦するための、腕試しも兼ねているのです!」
「このダンジョンの魔物は本に擬態するそうですわ」
「って、おじおじが言ってたんだよな。あと、ダンジョンの入口周辺は安全だって話だぜ。私たちが今居るところだな」
「ええ、補足説明お疲れ様ですの」
・おじペディア
・物知りおじさん
・おじさんのアンケート答えたよー
・アンケートのやつはおじさんのソロでやるです?
・その辺気になる
この前のアンケートそんなに気になる感じ? 他の配信者さんもやってるとは聞いてたんだけど……妙に注目されているのは照れてしまうな。
サナがエアマイクを握りながら「私も気になります!」と聞いてくる。特に面白い答えを返せるわけではないんだが、期待されてるよな。けど、すまない。俺は真面目に答えることしかできないんだ。
「現在、料理配信に関してのアンケートをやっています。料理配信の食材に関するアンケートで、その結果を踏まえて都内のダンジョンに潜ります。基本ソロでの配信を想定しています」
「おー! Sランク冒険者のソロ配信! これは皆も気になりますねー!」
「そう、なんですかね?」
「しかも、Sランク冒険者の動向をこっちである程度決められるわけでしょ!? こんなの、期待が集まるっきゃない!」
サナちょっとオーバーすぎないか? いや、でもsnsでの皆の反応を見るに、彼女の反応が特別オーバーというわけでも、ないのかもしれない。そうだとしたら、俺の一挙手一投足が注目されている!? う、うぅー凄く緊張してきた。
「叔父さん……緊張してる?」
「ええ、まあ……ちょっと」
いかんな。俺の緊張がサナたちに伝わってしまっている。こういうのはパーティの士気にも関わる。なんとかしたいところだが。困ったな。
悩む俺にサナが「アドバイス」と言ってくれた。彼女が続けて言ったことは俺の緊張をいくらか和らげてくれる。
「私も、いつも緊張してる」
「君も……」
「うん。叔父さんが今、緊張してるみたいに、私もしょっちゅう緊張してる。それはウイカゼちゃんや、ハルカちゃんも同じだと思うよ」
サナの言葉にウイカゼさんとハルカさんが頷く。皆も緊張しているのか? 俺はてっきり、サナたちはこういうのは慣れっこだと思っていたのだが。少しだけ、勇気をもらえた気がした。
「それに、配信を見に来てくれてる人たちは、叔父さんの敵じゃない。そこは、忘れないでね」
「ええ、はい! アドバイスありがとうございます! 少しだけ緊張が解けました」
「なら、良かったです! さあ皆! 今日もダンジョン攻略頑張っていこー!」
「「「おー!」」」
サナは、こういう時にリーダーシップを発揮する子だ。このパーティで戦闘の指揮は俺が取っているが、やはり普段のパーティのリーダーはサナだ。今は俺が指揮している部分も含めて、いつかはサナに任せられるようにしたい。そう思った。
千代田ダンジョンの探索を始めながら思う。これまではサナたちの戦闘能力を上げることに注力してきた。これからは、より多くのことで、彼女たちの能力を伸ばす手助けをしたい。メンタル面などに関しては俺より彼女たちの方が優れていると感じる時もある。以前から感じていたが、彼女たちはとても良いパーティになるだろう。より成長していくのが楽しみだ。
ダンジョンを進み始めてほどなくして、敵は現れる。前方と後方の本棚からそれぞれ一体ずつ魔物が飛び出した。本の形をした魔物。マジックブックだ。魔本たちのページが開く!
「前方は俺が! 後方はサナに任せます!」
「任せて!」
魔本の開いたページから火の玉が飛び出す。その攻撃を俺とサナが盾で受け止めた。良し、良いぞ!
後方からの攻撃もしっかり防げている。
そして、ハルカさんが弓矢を構えてジャンプ! 攻撃役として、彼女は本当に頼もしい。
「速射!」
ハルカさんが放った矢が、魔本を撃ち抜く。更に彼女は空中で体を捻り、もう一方の魔本にも矢を撃ち込んだ!
・おー!
・ないすー
・ナイスガード
・ハルカちゃんの矢も決まったぜー
・流石!
オープニングトークの時に緊張してしまい、今日はどうなることかと思っていた。が、なんとかは、なりそうだ。リスナーたちは敵じゃない。そのことを忘れずに配信を続けていこう。




