浅草ダンジョン偵察計画
木曜日の夜、俺は吉祥寺のバーでとある人物と待ち合わせをしていた。彼の到着を待つ間、どうにも緊張してしまう。S級に昇格したのは俺の方が先だけど、冒険者を始めたのは彼の方がちょっと先輩なんだよね。それに、元々は彼の方が年上だった。今は同い年らしいが、うぅードキドキするなあ。
そのうち、待っていた人物がやってきた。リュウドウさん。数少ないS級冒険者の一人だ。今日は彼と有意義な話ができれば良いが……頑張りどころだぞ! 俺!
リュウドウさんが俺の隣に座る。カウンター席に座る彼……と俺もかな? 二人の大柄な男にバーテンダーさんは萎縮している。そうはしながらも彼は、リュウドウさんの注文した酒を提供してくれた。さ、話をしようか。緊張はしているけど、なんとかなるさ。
「リュウドウさん。今日はここまで、お越しいただき、ありがとうございます」
「おいおい、堅いぜ。アキヤさん。もうちょっと、リラックスしていこうぜ」
「なら、今日は来てくれてありがとうございます」
「まだ多少堅いが、オーケーだ。早速、今日の話の本題から入るか? 冒険者協会を取り次がせてまで連絡してきたんだ。真面目な話なんだろ?」
「はい、そういう話です。よろしくお願いします」
リュウドウさんは話が早くて助かる。それでは、早速話の本題に入らせてもらおう。
「実は、Aランク指定の浅草ダンジョンに潜ろうと思ってるんです」
「ほう、浅草ダンジョンか。東京でトップクラスのダンジョンに挑むって訳だ」
そう、東京で最もやばいレベルのダンジョンに潜ろうって話だ。サナたちに挑ませる前に、俺の方でもダンジョンの様子を見ておきたい。正直俺もソロで潜るのは厳しい。一応ソロでも偵察はできるが、ツラヌキによる攻撃のほとんどは、あそこの魔物には通用しないだろう。となると、十分な火力を持った味方が欲しい。それでいて生存能力も高い味方がベストだ。そういう理由で是非ともリュウドウさんの力を頼りたい。
「今回の目的は偵察です。なるべく深い地点まで、偵察をおこないます。そのためのパーティとして、俺とリュウドウさん、そして高ランクヒーラー三名での探索を予定しています」
「ヒーラーの当ては?」
「冒険者協会を通して、紹介してもらう予定です。可能ならS級、最低でもA級を紹介してもらいますよ」
「そうか、まあ妥当な人選だろうな。というか偵察か……何のための偵察だ?」
「実は...…」
サナたちについて、ある程度話す。今回は東京でも特に危険なダンジョンへの同行を誘っているわけだからな。なるべく、こちらの事情は正直に話し、誠意を示したい。
「……なるほどな。つまりアキヤさんの弟子みたいなもんか」
「まあ、そうなりますかね?」
「了解だ。今回の話に乗ってやる。だが、それなりの報酬はもらうぞ」
「もちろんです。では、報酬のことについても話しておきますか」
「そうだな。あ、それとだな……」
「何でしょうか?」
「偵察という話だが、浅草ダンジョンのボスは倒してしまっても構わんのだろう?」
「……もちろんです!」
その後も話し合いは進んでいく。話は順調に進んでいく。問題なく本題はまとまり、ようやく緊張が解ける。いやあ、良かった。と、思ったのていたのだが。
「……今更話すのもなんだが……お前、丸くなったな」
「えぇ!? 今その話します!?」
「本題がまとまったからな。昔のお前はなんというか、もっとギラギラしてた。若さに任せてとにかくあちこち突っ走ってる印象だったよ」
「まあ、昔は若くて元気もあったので……」
「それと、基本大人をなめてる節があった。お前は覚えてないかもしれんが、以前のお前はもっとこう……尖ってたんだよ」
「そ、そうですかねえ……?」
昔のことを話されるのはちょっと、いや……かなり恥ずかしいな。
「あ、勘違いするなよ。以前のお前の方が良かったって話じゃないぞ。むしろ、今の方が良い」
「なるほど……?」
「安定感があるっていうか、丁度良いんだな。驚いたぜ。クニハラ会長に聞いたら、一時期は落ち着きすぎてたくらいだったっていうからな」
「まあ、そう言われると。昔と少しは違うかもしれません」
「そうだ。お前は変化してるんだ。たぶん良い方向に」
そこは、たぶんではなくて言いきってもらった方が嬉しいけれど、黙っておこう。それにしても変わった……か。それはサナとハルカさんが関わっている気がする。ウイカゼさんも。昔、サナが生まれた日。そしてサナたちとの冒険。そしてハルカさんとの恋が、俺を変化させていくのだろう。そのことを、俺は嬉しく感じた。
木曜日から金曜日になろうかという時間。リュウドウさんが席を立ち「ここは俺が」と会計を済ませてくれた。「その代わり、冒険者としての契約金はしっかり貰うからな」と念押しされる。大丈夫ですって、その辺りはしっかりお支払します。稼ぎならあるんだ。任せてほしい。
「じゃあ、来週の木曜日。浅草でな」
「はい、来週はよろしくお願いします」
そうして、有意義な話し合いは終わった。




