裏ルートを進もう
渋谷ダンジョンの遺跡には、高い位置に窓のような穴がある。だいたい五階建てくらいの高さだろうか。そんな場所まで、どうやって登っていくのかというと。それほど難しくはない。はずだ。リラックスして、やろう。
「というわけで裏ルートを進んでいきます。皆さんは俺についてきてください」
ダンジョンの外側にも、オブジェや柱、屋根などは存在する。それらの物を掴んだり、足場にできるものを利用して、遺跡を外から登っていく。とりあえず俺から進んでるけど、問題は無し。振り返ると、サナとウイカゼさんが困惑したような表情をしていた。というか元の場所からほとんど動いていない。ん、どうしたんだ? トラブルだろうか? 一度戻ろう。
あちこち跳び移りながら、ここまで来た道を引き返す。いや、道は無いんだけどね。それで、どうしたのか。大した問題でなければ良いのだが。
サナたちの元へ戻るとハルカさんが面白そうに笑っていた。サナとウイカゼさんは、さっきから困惑した顔のままだ。これはどうも……俺のやったこと、がやばかったらしい。
「えっと……今みたいな感じで進んでほしいんです。ロッククライミングみたいなもんですよ?」
「おじさん。私そもそもロッククライミングをやったことないよ!?」
「私も無理ですわ! というか、おじ様は鎧を来てるのに、どうしてその動きができるのですか? 壁づたいに登るための道具とかはありませんの? 私はそういうものを期待していたのですけれど」
「ここに無ければ無いですね」
「「そんなあ……!」」
そうか。サナたちからすると、これは難易度が高く見えるのか。まあ、足場から足場まではメートル範囲で離れてたりするしな。ぶっつけ本番でやれってのは、良くなかったのかもしれない。
「おじおじ、ほんと凄いよ。ハルカちゃんも、できるかは怪しいぞ。普通に、アスレチックとしては難易度が高いだろうからな」
「ハルカさんでも怪しいですか」
「やればできるかもって気はするけどなー」
ハルカさんの背後に、撮影ドローンの画面が見えた。コメントが高速で動いている。どうも、今の動きはリスナーには、ウケが良かったみたいだ。俺が当たり前のようにやったことが、こういう反応をされると世間との認識の差を感じるな。気を付けなければ。
※おじさんが忍者みたいな動きしてて草
※なんで重い鎧来ててその動きができるんだよ……
※おじさんぱねぇ
※しかしこれどうすんだ
※サナちゃんたちもできる気はするけど、怖いよね
実際にできるかどうかで言えば、サナたちにも、できると思う。メンタルと慣れの問題だろうね。が、どうしたものか。
「では別の方法でいきますか。正攻法のルートで行くってことです。ダンジョンを正規ルートで攻略しましょう」
それはアンケートの結果には反する行為だ。少し心苦しい。が、サナたちに無理をさせるのも、俺は望まない。困ったね。
「……おじおじ。ちょっと良いかい?」
ハルカさんの言葉に、期待する。こういう時に、彼女は良い解決策を考えてくれる。そういう信頼があるのだ。
「こういう時は、ハルカちゃんたちのスキルの出番だぜ」
ハルカさんは遺跡の方を向いて、大弓を構えた。何をする気かな。今は彼女の言葉を信じよう。
「いくぜ! 網の矢!」
弓から放たれ飛んでいく矢が網の姿に変化した。そして、遺跡の一部に引っかかる。ハルカさんは同じ要領で何ヵ所かに網を引っかけた。
「ハルカちゃんのスキルを使うのはここまでだぜ。サナサナ。影鳥か影猿のスキルで、網を張ることはできないか? おじおじに網を張ってもらうのも、大変そうだしさ」
「うん、任せといて。ハルカちゃん。ここからは私のスキルの使いどころだね!」
サナが影から使い魔を呼び出して、使い魔に命令する。そうして、網を張っていく。おお、良いね。考えてる。スキルの使い方、ナイスだぞ。
※ハルカちゃん頭良い
※ないすー
※良いね
※使い魔たちも役に立ってる!
※これで裏ルートを通れるね
それでは網も張ったし進んでいこう。というところでウイカゼさんに「お待ちください」と止められる。今度はなんだろうか? 彼女たちの意見は積極的に聞いていきたい。
「……私のスキルで皆さんに守りの加護を、かけなおしておきますわ。その方が、安全ですものね?」
「確かに、助かります」
まあ、俺なら万が一に落下したとしても五階くらいの高さなら傷一つ負わない。けど、サナたちには守りの加護があった方が良いだろう。実際にその力を使わなかったとしても、守られているという安心感は心に余裕を生む。慢心は無い方が良いけれど、余裕はあった方が良い。俺はそう思っている。
「というわけで……守りの加護!」
ウイカゼさんのスキルが発動。俺たちは今度こそダンジョンを外から登っていく。網を利用して登るのは、簡単で楽だった。そうしてダンジョンの外から、いきなりボス部屋に到着することに成功。俺たちが進んでいく先に、そいつは待ち構えている。やってやるぞ。
「さあ渋谷ダンジョンのボス。ビッグエイプの登場ですよ」
俺の言葉に会わせるように、影から姿を表したのは、体長三メートルはあろうかという、毛むくじゃらの猿だった。迫力のある相手だが、大丈夫。勝てるさ。
渋谷ダンジョンボス戦の始まりだ。




