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水曜日の午後

 ソファーから立ち上がり、そろそろ休憩室を出ようかというタイミングで、俺の方に歩いてくる人物が目に映った。スーツの似合うスレンダーな美女。フユコが俺に向かって小さく手を振る。彼女の何気ない仕草が綺麗だと感じた。


「アキヤ。クニハラ会長の元へ来てほしい」

「クニハラが? 何の用だろう?」

「紹介したい人が居るんだとさ。その人は今、協会の応接室で会長と話している」

「そうか。分かった。すぐに行く」


 クニハラが呼んでいるなら、すぐに行こう。あいつが俺に会わせたい人ってのも、気になるしな。


 クニハラが待つ二十二階の応接室まではエレベーターですぐだ。到着すると、そこにはアンティーク調の椅子に腰かけて、楽しそうに話す二人の男女が居た。一人はクニハラ。もう一人の女性は、かなり若く見えた。二十歳前後だろうか。サナたちよりもお姉さんというくらいの歳だと思う。雰囲気的にはウイカゼさんに近いものを感じる。お嬢様特有の品の良さ、とでも言えば良いのだろうか。なんというか好感が持てる。


 なんて、考えているとクニハラがこちらへ顔を向けた。彼は嬉しそうに口元をゆるめる。前から思ってたけど、ワンコみたいな印象を受けるんだよな。尻尾とかあったら、めちゃ振ってそう。

 

「どうも、先輩。そこの席に座ってください」


 クニハラに促され、ひとまずその席に腰を降ろす。えっと……俺はここから、どうすれば良いんだろうね? 困ったな。


「先輩、こちらは老神重工のオイガミ・ヤスエ社長です」

「どうもオイガミ・ヤスエです。クニハラ会長に頼み、あなたを呼んでもらいました。アキヤさんと会えて光栄です」


 ヤスエ社長は柔らかな笑みを浮かべて、俺に名刺を差し出してきた。かなり若い方だけど、大企業の長なんだな。名刺を受けとりながら、こちらからは渡すものがなくて申し訳ない気持ちになる。


「名刺をありがとうございます。こちらから渡せるものがなくてすいません。そして会長から紹介はあったようですが改めて自己紹介させてください。冒険者のアキヤです。よろしくお願いします」


 それから、ヤスエ社長とはいくつかの話をした。というか、俺が冒険者として活動する上で重要視をしていることが知りたいという感じだった。それと、良ければ現在進めている二つのプロジェクトに手を貸してもらいたいって話だ。片方はARトレーニングのことだろう。俺としても、冒険者たちの安全性が高まるのは望むところだ。そして、もう一つのプロジェクトに関しては名前だけ教えてもらった。


 TAMAGUMOプロジェクト。それがもう一つの計画の名前だということで、気になるね。


 応接室での話の後、冒険者協会を後にした。近くの店で昼食をとり、徒歩で帰る。クニハラが帰りも車を出すとは言ってくれたんどけど、遠慮した。俺一人で帰れるよ。問題無いさ。


 自宅に戻り、シャワーを浴びる。浴室を出て体を乾かしていると、スマホが振動した。確認してみると、ハルカさんからの連絡が来ている。待ち合わせの時刻と場所が書かれていた。時刻も場所も……問題は無いな。というか、明後日か。金曜日までに髪くらいは切り揃えておこう。ちょっと伸びてきてるしな。ん……俺、なんかハルカさんに会うことを、変に意識してないか? リリスに妙なこと言われたせいだ。きっとそうだぞ。


 とりあえず、服を着てから、ハルカさんには『問題ありません』とだけ連絡しておく。今日は……一日ゆっくりしようかな。散髪は明日で良いと思う。


 自室に移動し、パソコンを起動する。何か、動画でも見ようかなと考えて……ハルカさんの動画を開いた。過去のアーカイブ動画。そこでは、ハルカさんが楽しそうにゲームをプレイしている。その様子は微笑ましく思える。


 ハルカさんは冒険者としての才能にも優れ、協調性もある。明るい性格で元気、思慮深さも合わせ持っていて最高だ。そんな彼女のことを、俺は好意的に感じている。けれどそれは、あくまで将来有望な冒険者としてだ。将来有望な冒険者だから……サナの友達だから、彼女のことは大切なのだ。そうだろう? そうでなければ俺は……姪の友達に恋をしていることになる。それは何か、良くないんじゃないか?


 俺の中に戸惑いがある。その気持ちに、正直になってはいけないと思っていたはずなのに、リリスの言葉で気付いて……気付いて……?


 ああ、そうか……俺は前からハルカさんに惹かれていたのか。すでに俺も彼女にそういう思いを抱いていたんだな。けど、俺はその気持ちに正直になりすぎてはいけない……と思う。今、ハルカさんから逃げたら、俺は自分の本当の気持ちからも逃げることに……なるな。それも、良くはないんだろう。


 じゃあ、俺はどうすれば良い? 俺は自分の気持ちに、正直になりすぎるべきではないし、ハルカさんから逃げるわけにもいかない。ともあれ、彼女と金曜日に会うことだけは決まっている。だとすれば……彼女に会って話をする。そうして、手探りで何をするべきか考えていくしかない。何度考えても、今はこの答えに行き着く。


 リリスは、思いやりが大切だといっていた。思いやり……相手の気持ちを理解して、気遣えってこと。だよな……? 合ってるよな?


 これはもしかしたら、俺の人生で一番の難関かもしれない。あるいは最も重要な分岐路と言っても過言ではないのかも。


 やばいな。こんな気持ち、俺は慣れないぞ。

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