リリスのお告げ
「なんで俺罵倒されてます?」
まるで意味が分からん。でも、なんというか相手から心配されているような感覚がある。となれば、ここは様子見だ。俺は自分で気付いていない失態をしているのかもしれない。
「今さっきも言ったが、貴公はある少女からの思いに気付いていないのだ。貴公は乙女の恋心を無下にするつもりか?」
「それが分かんないんだ。リリスさん。あんたが言う女の子って誰のことだ?」
「き、貴公。そこからか……そこから教えないとダメなのだな。貴公の仲間に弓使いの少女が居るだろう。あの子はアキヤという男に恋をしているぞ」
「弓使い……ハルカさんが……? まさか」
「まさかではない。事実だ」
そうなのか? この世界ではなんとなく、嘘と本当が見分けられるというか、認識できる。それが不思議ではあるが、今はハルカさんから恋心を向けられていたという衝撃の方が今は大きい。
「アキヤ。貴公はハルカという少女を好きではないのか? 美少女だぞ?」
「いや、確かに可愛いし将来は美人さんになるんだろうなって思ってはいた。けど、恋愛対象とは思ってなかったというか……俺とは歳が離れすぎているだろ」
三十二歳と十六歳。下手すりゃ俺はロリコンと言われるくらいの差だぞ。いや、ハルカさんのことは嫌いじゃないけど、恋愛とかそういうのは違うんじゃないか? 彼女には、俺より、もっとふさわしい相手が居るんじゃないかな?
「……ちなみにな。貴公の考えていることは、我には手に取るように分かるからな」
「え、まじ?」
「まじだ。というか貴公。我が思っていたよりも、少女の気持ちに答える度量が無いのだな? 貴公のことを買い被りすぎていたか」
……いや、そうは言われてもだな。俺からも言わせてもらいたいことがある。
「……良いぞ。言いたいことがあるなら言ってみるが良い。アキヤ」
「なら、言わせてもらうがね。人間の世界には人間の世界のルールがあるんだ。俺と、ハルカさんが付き合うには、歳の差がありすぎるんだよ」
俺の言葉に、リリスは「分からんな」と呟く。何が分からないんだよ。もう。
「良いか。アキヤ。ちょっとだけ、絶対的な事実を教えておいてやる」
「……なんだい。それは」
「愛情は尊いものだ。互いの思いが通じ合うのは……良いことだ」
いや、それはそうだろうけど……? それっぽい言葉で、俺を無理矢理言いくるめようとしてないか? 急にうさんくさいことを言い出したって印象なんだが。そんな考えが通じてか、リリスはため息をつく。
「アキヤ。我は別に、少女と肉体的な関係を持てと言っているのではない」
「いや、絶対持たないからね!? 少なくとも十六歳の少女にそういうことはしないからな!?」
なんてことを言い出すんだ!? こいつは!
「我が言いたいのはだな。愛情ってのは、ただ肉体的なものじゃないだろう。あまりグダグダ説教をするつもりはないし、もうじき、貴公の意識も覚醒しそうだから、最後にこれだけ言っておく」
「……なんだろうか?」
「簡単な話だよ。思いやりだ。彼女を、思いやってやれという話なんだ。我は忠告してやったからな。これで白漂を倒してくれた件のお礼はしたぞ」
「ああ、白漂の件のお礼だったのね。これ」
しかし、思いやり……ね。そういう心は持っているつもりだったけど、まあ……意識には留めておこう。
……気が付くと、辺りが明るくなっていた。いつの間にか目を覚ましたようだ。ん? スマートホンが振動している。手に取ってみると、ハルカさんからメッセージが届いていた。
『おじおじ、昨日の料理ありがとう。お礼といってはなんだけどさ、今度一緒に喫茶店に行かないか? 良いお店知ってるんだよ。お金は私が出すし。おじおじさえ良ければ、金曜日とか、どうかな?』
わざわざお礼をしなくても大丈夫だよ。と、返事をしようとして思いとどまる。ハルカさんは俺のことが好きなのだと、リリスは言っていた。だとすれば、ここは彼女のお礼に応える方が、正しいのではないか? そう考えると返事に悩む。そうだな……こうか……?
『ありがとうございます。では、今回はお言葉に甘えさせてください。金曜日、了解です』
すぐに既読マークがつき『待ち合わせの場所と時間は後で伝えます!』と返信が来た。その文面からは、ハルカさんの嬉しそうな気持ちが伝わってくる。それは、悪い気はしない。
これで良かったのだろうか? 以前、リリスの助言が俺を助けてくれたことはあるが、やつも魔王だからなあ。いまいち、信用しきれなかったりも、するんだよね。だが、彼女の助言に悪意は感じなかった。やけに、親切だと感じるくらいでちょっと怖いが、ハルカさんの件は悪い結果には繋がらないのでは……無いだろうか。
……ハルカさんが俺のことを好きなのだとしたら、俺はこれから、どうするべきなんだろう。実際にハルカさんに会ってみて、どうにかするしかないな。なるようになれの精神で彼女と会って話をするしかない。それで……良いんだよな?
この件は金曜日まで、一旦置いておこう。俺も、心の整理が必要そうだ。




