ARテスト
冒険者協会に到着! 人々が忙しそうにしている。クニハラの話では協会内の整理も終わりは見えて、色々な計画も動いているとのこと。なるほどねえ。皆、忙しそうにしてるわけだ。そんなところに俺が来てて大丈夫ですかね? この前の身体能力テストの時もお邪魔したし、今さらか。
クニハラやフユコとは一旦別れ、アキヅキの案内で協会の地下へ案内される。この前に訪れた運動場よりも下。アキヅキが言うには協会の最下層にその部屋があるとのこと。白い壁に囲まれたARトレーニングルームは、なんというか、ほとんど物が無くて寂しい感じがするな。部屋の角にそれぞれ柱みたいな機械が置かれてるのが不思議な感じだ。
アキヅキは俺を見て困ったように笑う。そんな顔を向けられても……俺はここで何をしたら良いんだい? なんて思っていると、研究員らしき白衣の人がやって来た。彼女は二、三の話をしてアキヅキにゴーグルとスティックを渡していた。お、それで何かするっぽいな? 気になるね。
「なんかVRとかで使う道具っぽいな? 詳しくは知らないけど」
「VRじゃなくてAR。アキヤ君が来てくれて助かるよ。とにかく、冒険者のテスターが欲しかったからね~」
「俺で良ければ、喜んで手を貸すさ」
「ゲームみたいなもんだから、気楽にやってね~。ゴーグルをつけて、スティックを持ったらスタートだから」
「俺、今は財布とスマホとジャージだけというか、ほぼ着の身着のままみたいな感じだけど、他は物要らないのかい?」
「いらないよ。ほらほら、ゴーグルとスティック。つけたつけた!」
アキヅキに急かされ、渡されたものを身に付ける。すると……おお! ゴーグル越しには草原が広がっている! その奥には壁が見えるけど……でも感動!
草原の草に触れても、流石に感触は無いな。草は揺れているが、風も感じない。そこはちょっと残念だな。
「風とか感じられたら、もっと良いかもな」
「それ良いね~。協会のトレーニングルームにも、そういうのを設置したいな。今度クニハラ会長に頼んでみるか~」
アキヅキは楽しそうに笑い「そろそろだよ!」と合図を送ってきた。そのタイミングで、草原の映像に、スライムが出現する。ダンジョンで見るのと同じ見た目のスライム。危険度は最低レベルに分類されている魔物だ。ま、映像だから危険なんて無いんだろうが、そこは安心だよね。
「まずはスライムを倒してみて~」
「倒すってどうやってだ? 相手は映像だぞ」
「その手に持ってるスティックでパコーンと殴れば、倒した判定が出るからね。さあさ、そんなことを言ってる間にスライムが来るよ!」
草原をポヨンポヨンと跳ねるスライムが俺に向かってくる。ちょっとこのスライム遅くない? それとも元からこんなもんだっけか? スライムを軽く叩いてみる。スティックに力を入れてはなかったが、スライムは一撃で消し飛んだ。ち、力入れすぎたかな? ちゃんとしたテストになっているか不安だ。
「良いよ良いよ! アキヤくん! その調子で次の魔物も倒しちゃって~!」
良かったみたい。だな?
次に現れたのはゴブリン。小鬼はこん棒を振り回しながら向かって来る。が、カウンターの突きを当てて撃退。良いねえ! 楽しくなってきた!
その後も、ホブゴブリンやワイルドピッグ、トロールなどの魔物を倒していく。だいたいCランク辺りの魔物を倒したところでARトレーニングは終了。これよりも上のランクの魔物は再現できてないのかな? ちょっと物足りない感じだ。
ゴーグルを外すと、アキヅキが両手の親指をグッと上げながら迫ってきた。嬉しそうなのは良いけど、なんか圧を感じるよ?
「良いよ良いよ! 最高! 今はまだ、Cランクの魔物までしかデータが入ってないけど、近々もっと高ランクの魔物のデータも、入れていく予定だからね~!」
「そうなんだ」
「そうそう! で、そのことでまた近々相談をさせてもらうかも! とりま、今日のテストはお疲れ様!」
「今日はもう良いのかい?」
「うん、必要なデータは取れたかな。私たちは今取ったデータを見直すから、アキヤくんは休憩室で休んでてよ。ここの休憩室は凄いんだよ~」
それは知ってる。この間、協会に来た時も、休憩室は使ったからな。あそこのソファーが凄く柔らかくて吸い込まれるんだよね。あれは人をダメにするソファーだ。
「……じゃあ、ちょっと休憩室に行ってみるよ」
「そうしな~。しっかり休んで!」
その後、冒険者協会の休憩室に移動する。前から気になっていたソファーに座ると……おーすっげえ。ふわふわした気分になる。良い感じに体を動かした後だからな。ちょっと目を閉じる……ちょっと……目を閉じるだけだから。
……ん? 寝てたか? ソファーに座ってる感覚はあるな。なんだか辺りが妙に暗い? と、前方に誰か居る……そこに居るのは誰だ?
「……久しぶりだな。貴公」
暗がりの中から、女の姿が浮かび上がった。顔の上半分を仮面で隠した美女。黒いドレスをまとったリリスが、薄く笑う。俺に合いたかった? 俺の方はできれば、あんたには再開したくなかったが。
「魔王が出てくるとは、何かろくでもないことなんじゃないか?」
「随分な言い様だな。我は貴公に、お告げを持ってきたというのに」
「お告げ?」
「うむ……というか……だな」
リリスはため息をついてから、言う。どうも穏やかそうじゃないなあ。
「貴公……今、身近な少女から恋愛感情を向けられていることに気付いているか? いや、気付いてはいないだろ。このたわけが」
えぇ……いきなり罵倒されたんだけど……この魔王は何か怒ってらっしゃる?
というか……恋愛感情? まじで何の話をされてるんだよ。




