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帰ってきたS級冒険者

 火曜日。昨日は、ほとんど一日家にこもってゲームをしていた。今日はちょっとダンジョン食材を取りに行ってみようと思う。ダンジョン食材で料理配信をするための練習ってわけだ。それと練馬ダンジョンの下見も兼ねている。ま、何事も事前の段階を踏んでおいた方が不安はない。


 というわけで、練馬ダンジョンにやって来た。俺の記憶通り、ずっと遠くまで草原が広がっている。景色は武蔵野ダンジョンに似ているが、そことは比べ物にならないほど強力な魔物の生息地だ。俺個人で無理をせずに来られるのは、このくらいのランクのダンジョンまで。Aランク以上のダンジョンになってくると正直、一人では行きたくない。


 Aランク以上のダンジョンでも、ソロで行動しても生存だけなら問題ない。が、相手してて疲れる魔物が増えるのだ。しんどいのは嫌だね。俺個人で潜るのはBランクダンジョンまでにしたい。


 ダンジョンを探索して、ほどなくして目的の食材を発見した。背の低い木が生えていて、その木には羊がなっている。いや、正確には羊のような実なのだが、近づいて見ても、本物の羊に瓜二つだ。何度見ても頭がバグりそうな奇怪な光景に感じる。


 用意した鞄から鉈を取り出し、バロメッツの木を伐採する。羊の実を、手で受け止めると、ずっしりした重みを感じた。と、その時。俺の方へ向かってくる音が耳に届いた。そちらを見ると、こちらにズンズン歩いてくる魔物の姿がある。


 馬の頭を持った鬼、メズ。三メートルはあろうかという巨体は筋骨粒々、なかなかの迫力がある。とはいえ、Bランクの魔物だ。今はソロだし、魔物との戦闘はなるべく減らしたいが、バロメッツを抱えて逃げるのは正直しんどい。羊の実を足元に置き、愛剣のツラヌキを抜く。


 こちらへ迫るメズに、俺からも向かっていく。互いの影が交わるほどに近づいた時、俺から先に動いた。先手必勝だ。悪く思うなよ。


 影踏みから、影縛りまでをスムーズに発動。動きの止まった相手に俺の切り札を発動する。この頼りになるスキルたちが、俺の戦闘を支えてくれているぞ!


「黒眼!」


 メズとの戦いは、ほどなくして終わった。黒眼の力で気絶した魔物の瞳に剣を突き刺す。それで勝ちだ。メズが塵になって消えていくのを確認し、それからバロメッツの元へ戻ろうかと思った時。また新たに足跡が近づいてくるのが分かった。


 そちらを見る。一人の男が、こちらへと向かって来ていた。彼から敵意は感じない。というか、俺は彼を知っている。十六年前に、俺の後でS級冒険者に昇格していた人物。昔見た記憶のままの姿で、変な気分だ。今日はよく妙な感覚になる日だな。


 銀色の鎧を着て大槍を持つ長身の男。彼は俺の近くまで来て立ち止まった。強そうな見た目……というか、彼は強い。大槍を活かした火力とリーチは相当のもので、彼の攻撃に耐えられる人間は、日本では俺くらいなものだろうと思う。

 

「よお、アキヤ。久しぶりってやつなのか? 俺の方からしたら、おまえと最後に会って一ヶ月もして無いんだが……変な感じだな」

「どうも、なんとなく会わないなとは思ってましたよ。もう十五年ぶりですね。リュウドウの伯父貴」

「ひ、ひでえ。人が十年以上失踪してたのに、なんとなくって……! あと、今のおまえに伯父貴って呼ばれるのは変な気分になる」

「では、リュウドウさんと呼びますね。それと、すいません。冒険者の活動からはもう結構離れていた時期だったので」

「それもそうだな。あの頃には半引退だったものな。おまえ」

「そういうことです。悪く思わんでくださいね」

「ハハッ。思わねえよ」


 なんだか噛み合わないようで、けれど会話は成り立っている。彼からすれば俺に会うのは数週間ぶりの感覚だろう。が、実際の時間は十年以上経っているんだ。こういう現象、数年前のアメリカンヒーローの映画で見た。指パッチン現象とでも呼ぶのが理解しやすいか。


「……どうやら、十五年前の時点で俺は白漂のやつに存在を消されたらしい。驚いたよ。気がついたら十五年も経ってたんだから。色々と変わりすぎてるんだ」

「かなり、大変でしょうね。リュウドウさん」

「大変だよ。とりあえず、今日はダンジョンを見に来たが、こっちはあんまり変わってないようで安心した」


 リュウドウさんは「ガハハ」と笑って、それから急に、真面目な顔になる。なんだろうか、と思っていると、彼は俺に頭を下げた。うおぉ!? 何ですか急に!?


「アキヤが俺たちS級冒険者をこの世界に戻してくれたんだろ? ありがとう……!」

「いや、顔を上げてください。俺だけの力ってわけでもないんですし」


 あれはみんなの力を会わせた結果の勝利だ。そのことを彼に伝えようとした時――空気が振動した。嫌なことってのは、タイミングの悪い時に起こるものかもな。ほんと、面倒な。


「EOEだな。アキヤ」

「ですね。どうします。リュウドウさん」


 近くの空が割れていくのを見ながら、一応聞いてみた。まあ、返事は分かっているし。俺はそれで構わないが。


「どうするって、戦うだろ? 俺たちならやれる。じゃん?」

「ですねー。やりますか……!」


 俺たちは武器を構え、空から降りてくる魔物を待ち受ける。なあに、なんとかなるさ。戦闘開始だ!

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