吉祥寺の居酒屋で
マイコニドのバターソテーを配信で披露した夜。家に帰り一息ついていたところ。かつてのパーティメンバーたちから連絡が来た。武蔵野の近くに来ているから周辺にある飲み屋で一杯やろうというお誘いだ。彼女らと一緒に飲むのは久しぶりだし、色々話がしたい。『了解』と返事をしておいた。
さて、とりあえず今日使った調理器具は、洗ってから出かけないとな。楽しい酒の席を前に、もう一頑張りだ。
そうして、深夜。吉祥寺駅近くにある飲み屋で、俺は待ち合わせをしていた。親しみやすく隠れ家的な雰囲気の良い店だ。
席についてビールを注文をする。それから、ほどなくして、待ち合わせた人物たちと合流。彼女たちは、俺に会うと、軽く手を振ってくれた。俺も手を振り、返事をしながら嬉しい気持ちになっていた。
「やあ、フユコ。アキヅキ」
「こんばんは。友よ」
「やっほー。アキヅキちゃんですよー」
フユコとアキヅキ。かつての俺がS級冒険者のパーティを組んでいた頃、一緒に活動していた二人だ。フユコが前衛、アキヅキが後衛で、それぞれがパーティのアタッカーを担当してくれていた。今の二人からも、その頃の頼もしさを感じられる。
「二人とも、元気そうで何より」
「ふふっ。そうだな」
「どもどもー。隣、失礼するよーアキヤ君」
さも当然のごとく隣に座ろうとしてくるよねアキヅキは。彼女は俺の名前がアキヤだと知った時から「これは運命だね」と言ってグイグイ迫ってきていた。今では友達くらいの関係に落ち着いた。今も彼女は俺と仲良くし続けてくれる。それは嬉しいことだ。
アキヅキの前に座ったのはフユコ。彼女とは、昔から友人以上でも以下でもなく、ほどよい距離感を保てている。なんというか、一緒に居ると、落ち着く人だ。
三人揃ったところで彼女たちもビールを注文して、それから三人分の食事も注文した。少ししてテーブルに並んだものを口にしながら、俺たちは近況を語り合う。
「……最近の君は、大人気じゃないか。アキヤ」
「ありがたいことにな。フユコ。俺に興味を持ってくれてる人たちには感謝しなくちゃだ。皆の規範になれるようにもっと頑張らなくては」
「アキヤは真面目だね。そんなところが、君の良いところなんだろうが」
俺とフユコとの会話に「そうだよ!」と、入ってきたのはアキヅキ。彼女は嬉しそうな顔で「アキヤ君は凄いんだから!」と言う。評価が高いのは嬉しいけど、気恥ずかしいぞ。
「アキヤ君はS級冒険者だし!」
「それを言ったら君らも同じだろ」
「そうだけど、そうじゃないんだなあ。アキヤ君は、パーティに居ると安心感が違うの。ね、フユコちゃん」
「そうだね。アキヤが居ると、パーティの安定感が段違いに上がる。それは、S級冒険者の中でも凄いことだ」
二人とも持ち上げすぎだって。でも、嬉しいよ。ありがとう。最近は自分が思ってたより、今も周囲からの評価が高かったってことは俺も分かってきた。なら、もうちょっと自信を持っても良いのかなって思う。
なんて、考えていると、アキヅキがぶーっと頬を膨らませた。な、なんだい? その表情は。
「アキヤ君は自分のことを過小評価しすぎだって! 新会長も嘆いてたよ。アキヤ先輩は自分を低く見積もりすぎるところがある。ってさ!」
「えぇ……俺も結構、俺のこと評価してると思うけど……ん、新会長ってことはクニハラと何か話をする機会があったのか?」
「機会もなにも、私たちは冒険者協会の新会長から、スカウトされたんだよー」
「え、スカウト。まじ?」
「まじまじ!」
アキヅキは楽しそうに答え、フユコも静かに頷く。まじか……クニハラは前に会った時、新しい人材を協会にスカウトしていると言っていたけど、彼女たちのことだったか。他にも居るのかな?
「フユコちゃんも、私も、それぞれで、とあるプロジェクトを任されました。ってことで二人とも協会に入るよー。ふっふふー協会の新プロジェクトなのだー」
「なるほど」
それ、ここで話して良いのだろうかと思ったりはするけど、まあ……たぶん良いんだろうな。そういうことにしておこう。
「だから、これから、アキヤ君と関わることも増えていくと思うよー。新しくなった冒険者協会をどうか、よろしくね。アキヤ君」
「お、おう。よろしくお願いします」
その後も、フユコやアキヅキと閉店時間まで楽しい時間を過ごした。二人はタクシーで帰っていき、後には俺だけが残される。さて、俺も帰るか。色々と世の中が変わっていく雰囲気を感じる。それはきっと良い方向に変わっているのだと、俺はそう思いたい。
深夜の吉祥寺から、武蔵野へと歩いて帰る。夜風が肌に気持ちいい。
クニハラは冒険者協会を新しくしようと願張っている。そこへ、かつてのパーティメンバーたちも参加した。彼らは、大袈裟でなく、世界を変えようとしている。俺にも、もっとできることはあるだろうか。
俺は冒険者兼配信者としての、新しい人生を歩みだしたばかりだ。そんな俺が世の中のためにできることがあるなら、それはきっと、配信と冒険者の活動を繋げた何かなんだろう。それは、焦らず考えよう。無理をせず、俺にできる範囲で、何か……良いことをしたいな。
義務感とか、使命感とかではなく、純粋に……俺が良いと思えることをしたいのだ。




