身体能力テスト
渋谷、冒険者協会本部。トレーニングエリア。
ゴールデンウィークの最終日、俺はサナたちを連れて、ここまでやって来ていた。三人娘は協会本部の様子に興味津々の様子。
「おじさん! ここが協会の本部なんだね!」
「トレーニングエリアか。渋谷の地下にこんな場所があるとは知らなかったぜ」
「協会本部って地下にも広いのですわね」
サナたちは協会の本部に来るのは始めてか。冒険者の登録をする時には、ここ以外の場所で教習を受けたんだな。まあ、東京だけでも教習所はいくつもあるし。特に不思議なことじゃない。
「それで、今日皆にここまで来てもらったのは三人の身体能力をテストしたいからなんです。ついでに俺の身体能力も図る。ってのは、事前に説明はしてるけど」
念のためもう一度言った。身体能力を数字として出すことで、三人に今の実力を改めて認識させる。俺の目論見が、上手くいけば良いが、どうなるかは実際にやってみないと分からないな。
「俺は全力でやる。負ける気はないよ」
その言葉に、真っ先に反応したのはサナだ。彼女は勝ち気な表情を俺に向けた。そのやる気は良いね。全力でお相手する。
ほどなくして、係員がやって来た。案内されて、屋内グラウンドへ行く。
「準備運動のあと、まずは百メートル走からお願いします」
係員の言葉に従い、まずは足の早さを測る。今日は鎧じゃなくてジャージだし、いつもより速く走れるかもな。うー、ドキドキしてきた。そんなことを考えている間に、サナが準備完了だ。
「じゃあまずは、私から良いところ見せちゃうよ」
「頑張れよーサナサナ」
「目指せ九秒台ですわ!」
「ふふふ、九秒台! 出しちゃおっかなー!」
サナは応援されてノリノリだ。じゃあ、お手並み拝見といこうか。二人の係員が、ストップウォッチを手に、サナへ合図を出す。
「位置について、用意――どん!」
サナが一気に百メートルを駆ける! なかなかの速さ! 流石だな!
「――おお! 九・七秒です! 凄い!」
「やった! かなり良いタイムでしょ!」
サナは宣言通り九秒台のタイムを出した。ハルカさんも同じくらいのタイムを出し、ウイカゼさんも十秒台だ。三人とも、今の冒険者たちの中でも結構速い方だと思う。
「……んじゃ、次は俺の番か」
「おじおじも頑張ってな」
「無理はしないでね」
「ふふふ、大トリは、結構なプレッシャーなのではなくて?」
さて、残酷な現実ってやつを、若者たちに見さて、やるとするか。俺は特別足が速い訳じゃあないが、それでもS級冒険者ではある。ここ最近の活動で、若い冒険者たちの基準も分かっている。だから、上には上が居るってことを、ここでサナたちに分からせる。彼女たちが満身して、ダンジョンで火傷をしたりしないように。
俺はスタートラインに立ち、意識を集中させる。そうして、係員の合図に合わせて、一気に加速した。百メートルを、あっという間に走り抜ける!
「え!? ご……五・二秒!?」
係員たちが驚いている。また、サナたちも目を丸くしていた。どうだ見たか! おじさんの実力を! かなり速いだろ! まあ、S級では平均値くらいの速度なんですけどね。
「おじさん……え? そ、そんなに速いの……?」
「やべえな。おじおじ、尊敬するぜ」
「ひ、ひょっとして、今の私たちと比べても、おじ様は次元が違う……?」
ハルカさんからは尊敬の念を感じた。サナとウイカゼさんは尊敬を通り越して、畏怖というか、困惑しているように感じる。そ、そんなに困惑しなくても良いじゃないか。
その後も、反復横飛びや垂直跳び、握力測定や、シャトルランなど様々な方法で身体能力をテストした。俺が記録を出す度に周囲から驚きの声があがるのは、なんか面白い。Sランクの基準だと、これで普通くらいだけど、それでもサナたちよりも、だいぶ良い記録を出すことができた。
全てのテストが終わり、サナたちはもうヘトヘトの様子だ。皆、お疲れ様。頑張ったな。
「皆お疲れ様です。この建物の食堂も使って良いって話になってるから、もし良ければ奢らせてほしいんだけど、どうかな?」
その言葉にサナがヘトヘトの顔を向けた。彼女は笑い、嬉しそうに「そうだねー」と言う。その笑顔を見ると、こちらも嬉しい気持ちになった。
「ありがとう。おじさん、その提案に甘えるよ」
「社食ってやつですの。気になりますわね。それにしても、上には上が居るというものを感じましたわ」
「へへっ……そうだな。ハルカちゃんたちも、もっと鍛えねえとな」
サナたちも、まだまだ上を目指せるということ、を分かってくれたのだろう。彼女たちの伸び代はかなり大きい。これは、おじさんもウカウカしてはいられないな。彼女たちの、横に立って戦う騎士として、これからも精進しなければ!
そうして、ゴールデンウィーク最終日も終わっていくかに思われたのだが、食堂での食事の後、サナが勢いよく、その提案を出した。
「皆、帰りにちょっと遊ばない?」
「遊ぶって何を?」
聞き返す俺に、サナは「ふっふっふ」と笑って応える。お、なんだ? 自信が伝わってくるぞ。
「カラオケ! 身体能力のテストじゃ負けたけど、歌なら負けないよ」
「それは……望むところだ……!」
まったく、うちの姪っ子は負けず嫌いだな。良いよ。そういうの嫌いじゃない。
その後、歌勝負は皆接戦の末、ハルカさんが優勝した。




