武具職人のドブログさん
中野の街角に武具の店【どぶろぐ】は建っている。店内にはズラッと多くの武具が並んでいて、昔と変わらない様子に、安心感を覚える。ここの店主と会うのは、ほんとに久しぶりだなあ。店に入ると懐かしい気分になる。
「……らっしゃい。用件は?」
「お久しぶりです。ドブログさん」
「ん……おう、黒の坊主か。久しぶりだな」
店の奥にあるカウンターには、ムスッとした顔の髭親父が立っていた。久しぶりに会う店主の親父。今の彼は老人と言うべき年齢に達しているようだった。店主とは時々電話で連絡を取り合ったりはしてたんだけど、改めて、十六年という時の流れを感じてしまって、寂しい気持ちになるな。
あと、サナたちの前で名前を呼ばないでくれて、助かる。ドブログさんは昔から俺のことを黒の坊主と呼んでくれていた。その変わらない呼び名が嬉しかった。
「今日はこの子たちの武具を新調しに来たんです」
「そうか……何が要る?」
お、ドブログさんは話が早い。ありがたいけど、そっけなさも感じてしまう。まあ、彼は昔からこんな感じだし、だからこそ話していて楽な部分もあるんだけどね。
「とりあえず、必要なのは剣と弓、それと杖です」
「剣はあっち、弓はこっち、杖はそっちだ」
ドブログさんは、ぶっきらぼうにあちこちを指差した。サナたちはどうしたものかと様子を見ていたが、一番最初にウイカゼさんが動き出す。彼女が率先して武具を見に行くのは、少し意外だな。彼女はどんな武器を選ぶんだろう? 気になるし、ついていってみよう。
「サナさんとハルカさんも、気軽に武具を見ていてください。大丈夫、ここの店主さんは静かで優しい人ですから」
俺の言葉を聞いてドブログさんはムスッとした顔をしていた。別に怒っているわけではないのだ。昔から、彼は照れ屋だからね。
サナとハルカさんが、それぞれに必要なものを探し始める。俺はウイカゼさんの後ろで、彼女がどういう物を欲しがるのか見ていることにした。店に入る前に、彼女たちは「お金のことなら大丈夫」と話していたけど、本当に大丈夫かな? 武具って結構値段するけど。配信者って、結構稼ぎが良かったりするんだろうか?
なんて考えているうちにウイカゼさんが一つの杖に注目した。
「これ……素敵ですわね」
ウイカゼさんが手に取ったのは一本の白く長い杖だった。黒い紐がアクセサリーみたいになっていてお洒落な感じもする。俺は黒色が好き。というか、黒色が嫌いな男子なんて居ないと思っている。いや、俺の考えは今はどうでもいいか。
ウイカゼさんは杖を持ち、遠慮気味にポーズをとっていた。その様子を、ちょっと可愛いと思ってしまう。彼女は俺の方を見つつ「どうでしょうか?」と訪ねてくる。返答はもちろん。
「よく似合ってますよ」
「そ、そうでしょうか。似合っているなら、これにしようかしら……?」
ウイカゼさんは嬉しそうにしながら、その後も、何本かの杖を見比べていた。やがて、彼女が選んだのは、俺に見せた黒い紐のついた杖だった。俺も、それが良いと思う。
「決めました。私、この杖にしますわ」
「良い選択だと思いますよ。ウイカゼさん」
「うふふ……ありがとうございます」
なぜか感謝されてしまった。まあ、ウイカゼさんが嬉しそうだし良いか。俺も悪い気しないしな。と、そこへ後方から声がかかる。
「おじさーん。こっちも武器選びました!」
「ハルカちゃんも選んだぜー」
サナたちが武器を手に、こちらへ来た。サナが選んだのは、ほどよい長さの直剣。ハルカさんが選んだのは、扱いやすそうな小ぶりの弓だった。どちらも、堅実な造りだな。店主であるドブログさんの職人技が光っている。
「それじゃあ、ドブログさんのところへ行きますか?」
サナたちはそろって頷いた。彼女たちが自分で選んだ武器だ。きっと、武器も彼女たちに応えてくれる。そうだったら良いなって思う。
店のカウンターへ行き、ドブログさんに三人が選んだ武器を見せる。それなりに良い値段がしたけど、サナたちには問題なく支払えるようだった。いざ、という時は俺の財布のカードを使うことも考えてたんだけども、必要なかったみたいだ。皆、もっと、おじさんを頼ってくれても良いんですよ……?
支払いの後、ドブログさんが「ところで……」と聞いてくる。サナたちは三人とも分かっていないようだが、俺は、彼が何を言いたいのかは分かりましたとも。そうだな。せっかくだし彼の話を、サナたちには、聞いてもらうのが良いと思う。
「魔石を武器に取り付けたいなら、いつでも言え。素材さえ出してもらえれば、俺が加工して取り付ける。冒険者なら知ってると思うが、武具に魔石を付ければ能力を付与できる。ただ、多少の代金と十分ばかしの時間はもらうぞ」
サナたちが沸き立つのが分かった。彼女たちは「「「おおー!」」」と感動したような声を上げ、興奮した様子で俺を見る。うん、武器に魔石をつけるのってワクワクするよなぁ!
「ここ、魔石の取り付けができるんですか!?」
え!? そこ!?
「そりゃあ、武具の店ですからね……?」
武具の店なら魔石の取り付けはできるものだ。俺にとっては、それが常識だし。サナたちだってダンジョン配信を見ているのなら、その辺の事情は知ってるものかと思ったが……いや……もしかして、こういうところでも認識改編が起きてるのか? それは気になるな。探りを入れてみよう。
「ドブログさん。最近は、武具に魔石を取り付けられる職人さんは少ないんですか?」
俺が聞くと、ドブログさんは、しかめっ面になりながらも「ああ」と答えてくれた。何か、嫌なことを思い出したような感じ。あまり聞くべきことじゃなかったかもしれないな。悪いことをしたかも。
「……最近は冒険者協会が、優秀な職人は次々に買収しちまうんだ。それで、協会に魔石の取り付けを頼むと、時間がかかるし、やけに金もかかる。俺は、それが好かん。だから、俺は冒険者協会からの話は突っぱねてるよ」
「なるほど」
つまり冒険者協会の買収のせいで、フリーな職人が減っているというわけか? なんで協会は職人の買収なんかするんだ? 全く意図が分からん。協会に職人を集めて何がしたいってんだよ? 中途半端に魔石の取り付けサービスをしているから、職人を独占しておきたいというわけでもないのか? むむむ、よく分からん。ただ、この件に認識改編が絡んでは、なさそうだ。
武具職人の買収についてもクニハラに相談しとくか。どんどんあいつに伝えることが増えていくな。まあ、クニハラなら、なんか良い感じに必要な情報をまとめてくれるだろう。あいつの能力は信頼している。
ま、そのことについては、今は置いとくか。
「……皆さん、この前討伐したホブゴブリンから一つ魔石を入手してましたよね。ここで取り付けてみませんか?」
俺の提案にサナたちは、待ってましたとばかりに反応する。可愛い子たちめ。昔クニハラに先輩冒険者としてダンジョン外でも色々教えていた頃のことを思い出すよ。
「おじさん! それは、とっても良い考えです!」
「ハルカちゃんも気になってたぜー!」
「で、でも魔石は一つしかありません!? どう、しましょうか?」
サナたちは三人で互いの顔を見合わせる。ここはお互いに譲り合ったりするのだろうか、とおじさんは思っていた。だが、三人は素早く拳を構えた。お、おぉ!?
「ここはやっぱり!」
「じゃんけん勝負だぜー!」
「私、手加減はいたしませんことよ!」
えぇ……皆が欲しいなら、おじさんがホブゴブリンの魔石くらいなら買うよお。店に置いてあると思うしな……ま、でも、じゃんけん勝負してる三人は楽しそうだし、その提案は、もうちょっと後までとっておこう。
サナたちには冒険者として強くなってもらいたいけど、せっかくなら、今の成長していく時を楽しんでほしい気持ちもあるのだ。




