渋谷ダンジョンと新スキル
俺は、次の土曜日まで就職活動もそっちのけでサナたちの配信や動画に嵌まっていた。ち、違うんだ! 俺はちょっと彼女たちの文化を知っておきたかっただけなんだよ。ただ、彼女たちが提供するコンテンツがめちゃくちゃ面白くて……それで、数日間ネットにかじりついてただけ! なんです!
サナたちは三人とも、普段はゲームの配信をしているようなんだけど、それぞれのプレイスタイルがあって興味深かった。
サナは楽しいしゃべりで場を盛り上げながら、皆が知ってるような○ー○ーマ○オとかカー○ィといったゲームで遊ぶスタイル。見ていて、とにかく彼女の感情が伝わってきて、楽しい気持ちになるのだ!
ハルカさんはシューティングゲームでのスーパープレイを見せてくれたし、ウイカゼさんは上手な絵を描いたりしながら配信してたので、彼女たち凄いんだなあと、おじさんは感心しまくってました。
なんて、俺みたいなおじさんが人に話したらどう思われるかと思いながら、渋谷ダンジョンの近くにある、有名な犬の像のところに居る。今はサナたちが来るのを待っていた。今日も身バレを防止するために鎧を着込んでいる。まだサナには素顔を晒したくないからな。
待つこと数分、駅の方からサナたちが歩いてきた。今日は渋谷ダンジョンに潜るので、彼女たちも冒険者の装備を身に付けている。今回はまだ良いが、今後もっとランクの高いダンジョンに潜ることを考えるなら、三人とも、武器を新調した方が良いだろうな。その話をどのタイミングで言ったものか。いや、とりあえず挨拶だな。
「皆さん、こっちです。こんにちは」
「はい! こんにちは! おじさん」
「おじ様、ごきげんよう」
「おっす! おじおじ元気してたか。ハルカちゃんは元気だぜ~」
サナたちと挨拶を交わし、今日の予定を軽く話してから移動する。目指すは、十六年前、渋谷のスクランブル交差点に現れたダンジョンだ。ダンジョンとしての難度は武蔵野と同レベル。今のサナたちであれば、大丈夫なはずだ。でも、不測の事態というものはあるからな。常に気を引き締めねば!
スクランブル交差点は、現在車両は進入禁止だ。先週の武蔵野ダンジョンでのEOE騒ぎもあり、ダンジョン外の警備員が増員されている。EOEについては、協会から未確認の新種の魔物として発表されていた。きな臭すぎる。
まあ、渋谷には冒険者協会の本部もあるし、何かが起きても、すぐには対応できるはずだ。というか、ここですらEOEに対応できなかったら困るぞ。協会の本部を渋谷に置いてる意味がないだろってなるからな。でも、今の協会だからなぁ……役に立たないかも……なんて気持ちもある。
ダンジョン近くの監視センターで、俺は先に入場の許可を貰っている。サナたちが許可を貰うのを待ち、ダンジョンへ。交差点の中央にある空間の歪みに四人で触れた。視界が揺れる。ほどなくして俺たちは皆、青々とした森林へ到着した。
「へえ、ここが渋谷ダンジョンなんですね! 自然いっぱいって感じ!」
サナが興奮したようすで話す。辺りには木々が立ち並び、自然豊か。森林の青い香りを吸うと気持ちが良い。森は、見晴らしが悪いというほど繁ってはいないけど、無計画に進むと迷ってしまうだろう。
「今日は辺りを軽く散策しつつ、魔物を見かけたら、皆さんのスキルを試していきましょう」
「「「はい」」」
この前のホブゴブリンとの戦闘後、彼女たちは、レベルアップを果たした。レベルが上がれば新たなスキルが手に入る。彼女たちは、それを試したくてワクワクしているはずだ。俺も、彼女たちのスキルを見たくてワクワクしている。
「皆さん、気を引き締めつつ、頑張りましょう!」
「「「おー!」」」
サナたちが手早く配信の準備をし、今日の配信が始まる。撮影機の画面には早速コメントが流れだし、なんだか楽しい気分になってきた!
「みんなー。こんサナー!」
※こんサナー
※こんさなー
※こんにちは
※初見
※こんサナ~
「ただいまの時刻は昼の一時、今日は先週から引き続きのメンバーで渋谷ダンジョンを探索していくよー!」
※おー!
※先週のメンバー!
※お! 黒騎士おじも居るじゃーん
※おじさん週末のレギュラー入りか。いいね
※強い冒険者さんが一緒に居ると安心感が違うよね~
リスナー皆にも、受け入れられて、俺はすっかりサナの配信にも馴染めているのかもしれない。なんて思ったり、そうだとしたら嬉しい。
「それじゃあ! 渋谷ダンジョンを散策するよー!」
「「「おー!」」」
さっき似た流れをやったぞ。でも楽しい。配信で若い女の子たちに混じってテンション上げるのまじで楽しい。でも、調子にだけは乗るなよ、俺。
そんなわけで、散策開始。すぐに草むらから出てきたスライムと遭遇する。スライムはいきなり飛びかかってきた。ウイカゼさんが両手を前に出して叫ぶ!
「弱防壁!」
シャボンを板状に伸ばしたような防壁が現れて、スライムを弾く。防壁はシャボン玉が弾けるようにして消えた。スライムは草地をぽよんぽよんと跳ねて、そこをハルカさんが狙う!
「魔力の矢!」
オーラをまとった矢がハルカさんの弓から放たれて、スライムを貫いた。それだけじゃない。オーラが弾けるようにして、周囲の地面をえぐる。放つ矢にオーラをまとわせることで矢の威力を上げるスキルだ! ハルカさんもウイカゼさんも、すでに新しいスキルを使いこなせている。流石だぁ。
「おー! 二人とも活躍してるね! 今度は私が、活躍するよ!」
※サナちゃんがんばれー
※サナ姫の良いところも見てみたい
※応援!
※次のスライムカモーン
※ハルカちゃんたちカッコいい~
さあ! ここからだ! と勢い付いていたところで、再び草むらが揺れる。早速次の魔物だ! 頑張れサナ!
「さあー次は私の! ば……ん……!?」
草むらから現れたのは大きな豚の魔物。ワイルドピッグ。以前戦った時、サナたちにとっては強敵だった。今はどうかな? お手並み拝見だ。
「今のサナさんなら大丈夫です。落ち着いて」
「わ、分かりました! やります!」
やるんだ! サナ! お前の成長を見せてやれ!
叔父さんは後ろから応援しているぞ!
「防御力強化!」
サナが体にオーラをまとう。そうすることで自らの防御力を一時的に強化するスキルだ! それは、サナの安心に繋がる。安心して落ち着ける状況なら、彼女も、あのスキルが狙える。
「ようやく! 私の初期スキルを見せる時!」
サナが叫び、ワイルドピッグが地面を蹴って突撃してくる。大丈夫! 俺は今のサナを信じる!
「――パリィ!」
サナの盾が、魔物の攻撃を弾いた! パリィ成功だ! 凄いぞサナ! だけど、勝負はまだ終わってはいない!
「ハルカちゃん! 攻撃はお任せするよ!」
「おう!」
サナの呼び掛けにハルカさんが応える。弓を構える彼女の姿は頼もしい。
「魔力の矢!」
ハルカさんの弓から、オーラをまとった矢が放たれる。矢は勢いよく飛んでいき、ワイルドピッグの頭部に直撃! そのまま、魔物の頭を吹っ飛ばした!
なかなかの威力だ。これまでの、ハルカさんが抱えていた火力不足の問題は解決だな。サナたちは、すでに一段上のランクの敵が相手でも戦える。俺はそう確信した。
「やったね! ハルカちゃん! それと、腕がじんじんするよー。防御力ほんとに強化されてる?」
「そのスキルは、攻撃のダメージを防ぐ効果は確かです。ただ、衝撃はそのまま受けてしまうというわけですね」
「あー、そういうことなんですね。おじさん詳しいですね!」
「まあ、これくらいの知識なら」
俺たちが話しているところにウイカゼさんが駆け寄ってきた。彼女が「念のため、サナさんの腕を見せてください」と言い、サナが「いいよー」と応える。そんな彼女たちのやり取りをみながら、俺は考えていた。
もうそろそろ、彼女たちはCランクのダンジョンに行っても良いかもしれないな。




