表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/100

さらばクトゥルフアイランド

 あれから数日が過ぎた。その間に色々なことがあった。まず、島民たちがここ数ヵ月のことを覚えておらず、事態の説明には骨が折れた。島民全てが催眠状態にかかっていたと考えると、今回の敵はなかなか厄介なやつだったよ。


 ならば、と疑問だったのは、誰が島の異変を俺たちに伝えたのかということだ。これは、昨日の夢の中で分かった。なんでも夢の魔王リリスが、使い魔たちを使って、ダンジョン監理局の本部へメッセージを送っていたらしい。リリスは猫を操ることができ、猫の目を通して、こちらの世界の様子を伺っているのだとか。


 猫が機械にメッセージを打ち込む姿を想像すると微笑ましかったが、世界中の猫の目を通して俺たちの情報はリリスに筒抜けなのだと思うと、少しだけ嫌な感じがした。嫌な感じというか……恥ずかしい。プライベートなんてあったものじゃないな。


 また、島から逃げようとしていたランマル一味はTAMAGUMO 部隊によって捉えられた。彼らはフユコたちが乗る船で、本土へ運ばれることになる。彼らが何を考えて今回のことをしでかしたのか、興味はない。どうせ、ろくでもないことだろう。


 ともあれ事態は収束し、後はもう帰るだけ。俺たちの乗るクルーザーは島をだんだん離れていく。小さくなっていく島を眺めながら、俺は安堵していた。今回も大切な全てを守りきれた。装備は失ってしまったがな。今度、ドブログさんに新しい装備を見繕ってもらおう。


 後ろから、歩いてくる者が居た。そちらを見るとハルカさんの姿がある。俺が軽く手を振ると、彼女も同じように手を振ってくれた。のんびりとした空気があり、心地良い。


「アキヤさん、隣良いかな?」

「俺の隣で良ければ、いくらでも」

「アキヤさんの隣が良いんだよ」


 ハルカさんと二人で、もうだいぶ小さくなったフタグン島を眺める。やがて島は水平線の向こうに隠れ、見えなくなった。寂しさを感じる俺の横でハルカさんは言う。


「終わったなぁ。終わり良ければすべて良しだぜ」

「ああ、そうだね。なんだかんだ、楽しい冒険だった」

「一夏の思い出、だな」


 一夏の思い出、か。ハルカさんとはこれからも色んな思い出を作っていきたい。


「……私さ、思うんだよ」


 ハルカさんが不安そうな声音でそう言ったから、俺はどう答えるべきか迷った。ひとまず、詳しい話を聞いてから応えるべきか。


「……私の力……黒の矢はあらゆるものを消滅させる。その力は私が魔王へ成長した証なんだって、あの人は言っていた」

「あの人って言うのは、リリスさんのこと?」

「そう……あの人のこと。私は今も、自分が魔王だって実感はない。けど、皆がどう思ってるのかは分かんなくて、一時期はそれが凄く怖かった」

「でも、俺も皆もハルカさんのことは、これまでと変わらずに受け入れてる。大切な仲間だ」

「そう言ってもらえるのは嬉しい。実際、そうなんだろうね。けど、いつか私の力が、これまでの思い出なんか壊してしまうようなことがあるんじゃないかと、不安なんだ。なんでも消せる力は、私には大きすぎるよ」


 ハルカさんはそのことで今も悩んでいる。自身の力の大きさに戸惑っているわけだ。それは彼女に限らず、時々同じように悩む人が出てくる問題だ。人は、とても大きな力を持った時、迷うこともある。俺は悩み、俺なりの言葉で彼女の悩みに応えることにした。


「……今回は、ハルカさんの力のおかげで助かったよ」

「それは……そうなんだけど……」

「それと、ハルカさん。君の言葉には、間違いがある」

「間違い……?」


 そうだ。ハルカさんともあろう人が、その間違いに気付かないなんて。俺ももう少し、自己アピールをするべきだな。


「ハルカさんの力でも、俺を消すことはできない。俺や君たちの思い出がある限り、俺は不滅だ。それに、俺はこれからも、大切な全てを守りきる。それを、大切な君の前で約束する」


 少し言葉がくさすぎたかな。でも、今の言葉が俺の素直な気持ちだ。


「アキヤさん……ありがとう。私、これからも悩むことはあるんだろうけど、アキヤさんのおかげで少し気持ちが楽になった」

「ああ、楽になってくれ。俺の存在は君との思い出が増えるほど強くなる。だからこれからも、俺たちの思い出をたくさん作ろう。ハルカさん」

「……だな」


 ハルカさんは俺を見上げ「思い出……作ろっか」と言う。今、彼女が何を求めているのかは、この二年の経験で分かった。しかし今か。心の準備はできていないが……良いだろう。数日前に外で裸を見られたことに比べれば、恥ずかしくはない。


「……分かった」

「うん……」


 俺たちはゆっくりと互いの顔を近づけて、唇を重ねた。フタグン島で過ごした夏の、最後の思い出だった。


 これは、俺がある少女と出会い、彼女が魔王に成長するまで、共に戦い続けた物語だ。これからも、彼女との物語は続いていく。俺は彼女という魔王を守る漆黒の騎士なのだから。


 第四部 夏だ! 海だ! クトゥルフサマーアイランド! 了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
第四部、完走お疲れ様でした☆ 後半は配信そっちのけの進行になっちゃっつてましたが、概ね楽しく読ませていただきました。ありがとうございました♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ