四話 兎は遺伝について語りました
四話 兎は遺伝について語りました
「優性遺伝?」
首を傾けて、サイズは尋ねた。要も分からないので、注目する事によって同調する。
「えーっとメンデルの遺伝の法則って……サイズは知らないか。つまり母親と父親から受け継いでいる事に優劣が……、えっと……」
サイズに分かってもらえるように言葉を選んでいて話が進まないようだ。
「つまり子供が似てしまうところとそうでないところの差だろう」
意外にこの話に食いついたのはアックスだった。
「遺伝が表に現れるのは優性遺伝と言い、逆を劣勢遺伝と言います。小人化が優性遺伝だとしたら、巨人化が劣勢遺伝という事になります」
「だから子供を産ませようって事だな。劣性遺伝を積み重ねて」
アックスの物知りげな発言に兎は頷いた。要はよく分からない。
「分かった気になってないで、説明しなさいよ」
「アックス一人が分かってるのはズルい」
「アックス、そんなキャラじゃないじゃん」
エスパーダ、ライトハンド、レフトハンドが責め立てる。
「あのおっさんは超能力者が欲しかった。人間の超能力者だ。でも小人になってしまう」
「だから劣性遺伝を積み重ねて人間を造ろうとしたのだと思います。そのためにサイズに犠牲を強いているのです」
兎はサイズに優しく悲しそうな目を向けた。
「そのサイズを一緒になって閉じ込めてたのだろう? あんたは」
エクスカリパーが兎と目を合わせながら、詰問した。当然兎は動けなくなる。
「え? 動けない?」
それについてはみな経験済みなので誰も何も言わなかった。ただ黙って兎の返答を待った。小人達から発せられる空気に感じるものがあったのか兎はエクスカリパーの目を見つめ返していた。
「確かに私は宿守博士と一緒に超能力の研究をしていました。サイズは私に懐いてくれて、いろいろな事を教えました。最近ではスマホでゲームまでして、課金でモメる事もありましたが、私達は仲良くしていました。でも宿守博士がサイズを繁殖に使うと言い出したんです」
兎は熱を込める。
「まだ早いと言ったんです。でも宿守博士は強行しようとした。だから私はサイズを逃しました。要さんのようなかたに巡り会え、私の判断は間違っていなかったと確信しました」
兎の反論に要は違和感を持った。完全にこちら側の味方になってくれるかはあやしい。でも説得するしかない。
「実は俺は臨時で預かってるんだけで、サイズはここに住んでいるわけではないんです」
「どういう事ですか?」
「私は就と一緒だったんだよ」
「就? 誰の事?」
「就君は俺の妹と付き合っていて、よくこの部屋に来ていました。先日、父の宿守応該に連れ去られました」
要が言うとかなり驚いているようだ。
「まだ男の人がいるんですか?」
そっちかいと要は思った。もっと上司の非常識な行動に関心を持ってもらいたい。
「就君は妹と二人で小人の服を仕立てる事もしてるから、サイズは衣食住全てに満ち足りていたんだ」
「うらやましい。私とではとても到達できなかったとこ行ってしまったのね」
「はえ?」
「サイズは誰が好きなの?」
「私は就が好きだよ」
「でも要さんの妹がいるんでしょう? 略奪愛?」
「子供扱いされて、要のとこに預けられてる。ご飯はおいしいけど」
そこまでサイズが言うと兎は要に目を向ける。何かを期待するような、ねっとりとした視線。
「要は私のフィアンセなんだからね!」
エスパーダは兎に敵意を向けた。兎はビビっていた。
「婚約なんて破棄する事はありますからね」
ビビりながらも、兎は反論した。エスパーダにとって敵認定が確実になり、空気が悪くなった。