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その婚約破棄──異議あり!

作者: 昊ノ燈

テンプレの婚約破棄に挑戦してみました。

何番煎じやという話ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

「クリスティン・オーラウンド、お前との婚約を破棄する!」


 響き渡るのは、学生の集まるパーティー会場。

 貴族子女が通う王都の学園。その最終学年の終了を祝う卒業パーティーが始まろうとしている時だった。

 皆がソワソワとパーティーの開始の合図を待つ中、怒声にも似た声が発せられたのである。


 声の主、確かブレイ・パカラッティ伯爵嫡子。

 その横には、ピンクの髪色の可愛らしい雰囲気の令嬢がブレイの腕を抱き、隠れるように立っている。周りにはその取り巻きと思しき他の令息達。


 声の先には黒髪の地味な令嬢がいる。クリスティン、オーラウンド子爵家の令嬢だったはずである。


 ブレイが不機嫌そうな顔に隠しきれない嘲笑を浮かべて言葉を続ける。

「お前が性根の腐った女であったとはな」


「わ、私が何を…………」


「フッ、しらを切るか。お前が醜い嫉妬で、ナターシアに嫌がらせをしていたという事は、分かっているぞ。俺が知らないとでも思っていたのか!」


 ドヤ顔で言い放つブレイ。言いながら自分に酔っていくタイプだというのが、ここからでもよく分かる。

 ──テンプレ。

 何処の三文小説かってな具合のテンプレ的展開。


 卒業パーティーの為に着飾った学生達は距離を取り、会場中央付近に押しやられたクリスティンがポツンと立ち尽くしている。周囲の目は、冷たい。興味と、悲哀、蔑み、憐憫というところか。


 ブレイの陰に隠れていたピンクの髪が一歩前に出てくる。

 あざとそうな女。

 あれがナターシア。


 ピンクっていっても若干くすんで見える髪色。

 何となくべっとりとしている気がする。と言っても、私と比べてだけどね。私もピンクヘアーだけど、鮮やかでフワフワ。まるで高級砂糖菓子のよう。それに比べて、彼女のは駄菓子ね。

 それに目も小さいし、鼻なんて上向いてるよね?明らかにプクプクだし、ピンクの子豚?

 可愛らしい雰囲気は、あくまでも雰囲気か…………。

 それでも、全力でヒロインしてるって──心が強いのね。


 調子に乗って、取り巻き達も喋りだしてる。

 悪口言っただの、ノートを破っただの、水をかけただの、よくもそんなショボい事を羅列できるものよね……。更には、階段から突き落としたなんて、虐めでも嫌がらせでもないじゃない──犯罪よ。犯罪。

 それにしても、ナターシアのドヤ顔がウザいわ。


 クリスティンちゃん、涙目どころか、もう呆然として、表情無くなってる。

 これから卒業パーティーが始まるってのに、気分ブチ壊し。周りの空気も重い…………。


 と、いうところで、そろそろ終演してくれないかな?


「フフフ、分かっただろ。お前みたいな悪女。婚約を続ける義理もない。お前との婚約は破棄だ。そして、このナターシアと新たに婚約する!異議は無いな!」



「異議ございます」


 えっ、誰?

 一人の令嬢が前に出てくる。

 公爵令嬢のキャロライン?

 何で貴女が出てくるのよ。関係ないでしょ?


 キャロライン公爵令嬢は、ツリ目がちのブロンズヘアーの正統派美人。第二王子殿下の許婚で、ザ・令嬢という感じの品位の塊でマスター淑女の異名がある。

 そのキャロラインが会場中心に進み出ると、ブレイを睥睨して、言葉を発する。


「皆様ごきげんよう。せっかく卒業パーティーが始まろうとする中、このような茶番で場を白けさせる者達がいようとは…………。不躾ながら、クロスカッド公爵家キャロライン・ヒース・ブライトンが異議を申し立てさせていただきますわ」


「…………な、何よアナタ!関係ない者は引っ込んでて」

 暫し唖然とした後に、息巻くナターシア。

 お馬鹿達も追従して、声を出す。

「そ、そうだ、関係ない者は黙れ!」

「ちゃ、茶番だと!何を言う」

「たとえ公爵令嬢だとしても、許しません」

「それに、私がそこのクリスティンに嫌がらせを受けた事は間違いないんだから!」

「「「そうだ!そうだ!」」」


「ふぅ。話は1人ずつ言っていただけませんか?」

 ナターシア達の罵倒を気にするようもなく、クリスティンに近付き、大丈夫?と、手を差し伸べるキャロライン。

(わたくし)にも、色々と事情がございまして、少々調べさせていただいていましたの。──フェリア」


 フェリアと呼ばれて前に出てきたのは、伯爵令嬢フェリア・マルデムーン。次期騎士団団長候補とも言われる現騎士団団長の令息ハイリヒ・ヴァッハの許婚。真っ赤なストレートヘアーに眼鏡を掛けた知的美人だ。


「はい、キャロライン様。では、一つずつ聞いていきましょうか──」

 フェリアの手には、分厚いファイル。

 ファイルを手早く開きながら答えていく。


「──はい、そのナターシアさんが階段から突き落とされた日時には、クリスティンさんは郊外学習に出られてますから、犯行は不可能ですね。証人はクラスの方々と、同行されたペイローズ先生ですね」

「──はい、そのナターシアさんのノートが破かれた日時には、クリスティンさんは第二外国語でフルノア語の授業を受けられていますから、犯行は不可能ですね。証人は、授業に出席されていた方々と、教師のバーレン教授ですね」

「──はい、────」

「──はい、────」


 ブレイ達の出す虐めの数々を資料をもとに看破していくフェリア。

 最終的にナターシアとブレイは、言葉を無くして立ち尽くす。


「………………ま、まあ、私の勘違いだったみたい……」

「そ、そうだ……すまなかったな、クリスティン…………じゃ、じゃあ」


 やっとこさ言葉がでたと思ったら、逃げ出す一歩手前。


「ふぅ、それで終わると思っているのでしょうかねぇ。──ケイティ」


 キャロラインは溜息をつきつつ、別の一人を呼ぶ。

 ゆっくりと前に出てくるのは、ケイティ・ブロッサムス。代々王宮で法務大臣を務めるブロッサムス侯爵家の令嬢で、現宰相の嫡子シュレイン・ハイドゥンの許婚。緩やかなウェーブのシルバーブロンドの髪を持つ、豊満なボディーのセクシー美女。


「は~い、そうですねぇ、これだけの観衆の中で虚偽の罪で子爵令嬢を辱めたのですからねぇ。ブレイさんの場合は、そちらの有責での婚約という契約は不履行当然としてぇ──名誉の毀損も入るかしらね。相手が子爵家だから…………過去の例から言って、二千万白価の賠償と、五年の入牢くらいかな」


「なっ…………二千万白価?我が伯爵家の年間収入でも、千八百白価だぞ!あり得ない…………それに、入牢…………」


「はぁい、それに廃嫡は確実でしょうね」


「えっ!」


「そぉれから、そこにいる取り巻きさん。えぇと、騎士団に入団予定のグリー伯爵家の三男さんと、文官志望のトレンダ伯爵家の次男さんですよね。共に婚約者有り──相手は両方とも男爵家と──」


 ブレイの後ろに扣えた二人もビクッとして、目を見張る。


「──まぁ、現状の就職希望先は無しになるでしょうね。で、賠償額は、相手が男爵家だから──一千二百白価が妥当ラインでしょうか。ああ、当然、貴方達も婚約破棄は確実です」


「は?俺達は関係ないだろう」

「そ、そうだ、俺達は関係ない」


「まぁ、なんてことを。関係無いはずがないでしょう。婚約者がいる身でありながら、そこのナターシアさんとの肉体関係。不義ですわよねぇ。それに、無実と知っていながらの断罪劇への参加。さっきも何か言ってましたよね」


「な!何でその事を?」

「い、いや、ブレイに頼まれただけで…………」


「ふぅ、無理よね。罪は罪ですもの。で、ナターシアさん。貴女は、貴族籍を抜かれて修道院送りかなぁ」


「な、な、な…………何故………………」


「何故じゃないでしょう。分かりきっていた事。衛兵の皆様、身柄の確保を」

 公爵令嬢らしく毅然とした態度でキャロラインが衛兵に指示すると、四人は引っ立てられていった。


 キャロラインは、クリスティンに貴女も少しは危機感を持つことねと囁くと、顔を上げ、周囲を見渡し、大声を上げるでもないのに良く通る声で、言葉を発した。

「皆様、もう時間となっております。卒業パーティーを始めましょう。さあ、先生方、開始の合図を」


 パーティーが始まった。

 学園生の皆は、先程の事など無かったかのように談笑し、踊りを楽しんでいる。


「流石だわ〜」

 一人で壁の花を演じながら、つい言葉を漏らした。

 視線の先には、キャロライン達三人。

 三人とも同伴者がおらず、壁の花となってはいるが、私と違い大輪の花。代わる代わる挨拶に来る人達に笑顔を振りまきながら言葉を交わしている。

 私も見た目だけであれば、三人に並べられても遜色ないと思うし、下手したら私の方が上かもしれない。それだけの自信はある。ただ、生まれながらの爵位が違い過ぎるし、品位、教養という点はどうしようもない。

 だから、どんな手でも使う。

 可愛らしいという自分の武器を最大限利用した。

 だから、敵ではない。


「それにしても遅いわね…………」

 次の言葉が漏れた時、会場奥の扉が開かれた。

 会場中から歓声が弾ける。


 扉から現れたのは、神々しささえ感じられる三人の男性。

 この卒業パーティーの主役の登場。

 第二王子のリゼルド・フォウ・ハイデンマルク。

 騎士団団長令息ハイリヒ・ヴァッハ。

 宰相令息シュレイン・ハイドゥン。

 あの三人の許婚だ。


 三人は、各々の婚約者に顔を向ける事もなく、私の方に来る。笑顔が眩しい。

 寂しかったと、口を尖らせると、少し困ったような優しい笑みに変わる。

 私は少しだけキャロライン達の方に視線を向けると、優越感から自然と口角が上がる。

 

 軽いハグの後、リゼルド様がそっと耳元に顔を寄せ、良い手を思いついたんだと、リップ音を奏でた。

 ハイリヒ様もシュレイン様も自信満々で頷いている。


 ハイリヒ様達は私を連れ会場の中心に向かい、声を響かせた。

 

「キャロライン・ヒース・ブライトン、お前との婚約を破棄する!」


 いーーーーーーーーやーーーーーーーーーー!

 駄目ーーーーーーーーーー!



 キャロライン様達の瞳が光った…………。

良ければ、評価をお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヒロイン役をご遠慮したい転生者が壁の花になって劣化ヒロインを傍観してるのかと思ったら、普通にやらかしてたやつ。 この手のイベントが被った場合対応面倒くさそうだけど先の件は片付いてるからまだマ…
[一言] イベント被っちゃったw。
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