表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/17

VSアーテリー

 ゲームセンターの地下一階で、戦いが始まる。


 脳から電気信号が送られて肉体が動くように。感情の高ぶりにアニマが反応してエデンズが動く。不思議な感覚だ。

 俺は自分の運動神経が良いと感じた事は無いし、北村に誘われて行ったバッティングセンターでも良い結果を出せた記憶もない。けれど何故だか、アニマを通すと機体(からだ)が良く動く。自身の身体を十全に操れる全能感が脳内に満ちる。もしかしたらプロのスポーツ選手はこんな感覚を生まれながらに持っているのかもしれない。


 ――相手の挙動が良く見える。


 前回の大会で貴崎ウィリアムが使用したからか、以前はあまり見なかった強化ライフルを見かけるようになった。当たれば痛いタイプの武器。

 とはいえ強化ライフルは両手武器。戦闘時であれば片手で使う事も出来るのだが、アセンブリの段階では両手を塞いでしまい、武器枠を一つ潰してしまう上に操作難度も高いので正直よほどの相手、よほどの連携でも無い限り当たる気がしない。


 相手のエデンズは軽量級。

 吹かしたスラスターの勢いを制御しきれていない動きは非常に読みやすい。コントロールしやすい。


 簡単なステップを踏み、隙を作り、相手の射撃の意思を感じた瞬間にスラスターを僅かに吹かす。大げさに動く必要は無い。

 慣れていない武器を使う相手はリロードをした直後に射撃をしがち。そういった面でも比較的リロードの長い強化ライフル単体の回避はやりやすい。


 放たれた弾丸が頭部のギリギリを掠める。当たらなければ、それで十分。

 だが。反撃はまだだ。

 相手が体勢を崩しながら第二射を狙う瞬間をジッと待つ。


「ここ」


 相手の射撃の意思が動いた瞬間に手榴弾を投げつける。

 爆発までは二秒。

 相手が回避運動をしつつ定まらない照準のまま俺に第二射を放つ……ここだ。


 両手で構えたアサルトライフルで正確に相手の頭部を狙い撃つ。エデンズは人体の弱点部位ほど与えるダメージが多い。

 頭部を撃ち抜かれた相手が慌てて引いていく。

 だがそんな相手の足元、右側に転がった手榴弾が弾けるまでの数瞬の間にミサイルを左側に前もって発射しておく。きっと貴崎ウィリアムならばこれを避けた後――。


「あ」


 ドンッと、牽制に()()()ミサイルが直撃し、ゲームオーバー。

 予想したよりもあっさりと勝ってしまった。


「うわああ、やっば、全然使いこなせなかったわぁ。対戦サンキュー」


 大学生の対戦相手、ミリンさんがヘトヘトになりながらリムバスの向こうから現れる。


「ミリンさん、ちょっと動き速すぎたんじゃないですか?」


 以前のミリンさんはもう少し動きが丁寧だった気がする。


「いやぁ、感化されちゃってさ。クレハくんは流石だったわ。またよろしくっ」

「はい、またお願いします」


 将棋に感想戦があるように、エデンズホルダーも一言二言対戦後に話す傾向がある。

 駄目出しはオッケー、ただし言葉遣いには注意。

 特に俺がホームとしているゲームセンター【ヒバリ屋】はすっごく怖いオッサンが店長なので乱闘沙汰はご法度だ。

 エデンズ・コンフリクトは地下一階に専用スペースがあるのだが、二階のアトラス・バトルのスペースでは定期的に乱闘騒ぎが起こっているので色々と騒がしかったりする。


「よし、まあまあだな」


 エントリーゲージからエデンズ・ヴィクトリアを取り出す。


 まだ塗装もしていない丁寧に組み立てただけの状態だが、それなりに良く動いてくれた。なにより。


「……やっぱりかわいいし、カッコいい」


 ヴィクトリア素体は最高だ。


「ふふふ。やりますねぇクレハ殿。久しぶりに現れたかと思えばマグノリアを出さず圧勝とは流石は準優勝者」

「くくく。初めてクレハさんを見た時は可愛い子羊のようだったというのに今や狼。いや、中量級になぞらえて言えば、首切りバニーと言った所ですか」

「ははは。私はクレハクンならもっと上に行けると思っているんですがね。先ほどのバトル。少々集中力にかけていたのではありませんか?」


 ヴィクトリアを眺めていると大柄な男三人に囲まれる。……暑苦しい。


 筋肉でピッチピチのワイシャツにアイロンがかけられたスラックス。エリートサラリーマンみたいな見た目の男たちは先ほどの俺の戦いを見ていたようだ。

 通称、紳士三人衆(ジェントリオ)

 ヒバリ屋に来ればとりあえず出会えるベテランエデンズホルダーだ。

 エンジョイ勢代表みたいなアセンブリのエデンズを使用するものの、その実力は本物。何度も対戦してもらっているものの、未だ勝ち越した事が無い。


「ちょっと三人で囲まないで下さいよ。圧が凄いんですけど」


 ただでさえデカいのに筋トレまでしているから熱が凄いんだこの三人。


「おやおや、これは手厳しい。ところで、一戦いかがですか」


 ジェントリオの一人、迫撃の桐生が勝負を仕掛けてきた。


「受けて立ちますよ」

「まだマグノリアが治っていないようで。こちらも加減しましょうか」

「今日は素体の調整ですけど。でも、いいですよ、()()()()()出して」

 俺の発言に桐生さんが喜色を浮かべる。


「ふふふッ、良く言ったッ!」


 地下一階、エデンズホルダーたちが騒めき出す。流石にジェントリオの試合は何だかんだ盛り上がる。エントリーゲージにヴィクトリアをセット。リンクスを起動。

 俺の装備はライフル、シールド、背部ユニット右側に八連ミサイルポッド、左側にブレードアンテナ。腰に手榴弾。お気に入りのシンプル装備だ。


 対する桐生さんのアーテリーは藍色の重量級エデンズ。ミリタリー風の見た目ながらひらりとしたミニスカートが可愛い、素晴らしい完成度のエデンズ。

 装備はハンドミサイル、ハンドミサイル、ミサイル、ミサイル、その他ミサイルのミサイルカーニバル。しかもいやらしい事に桐生さんが得意としているのは後ろ腰に装備したライフルによる精密射撃。太ももにちゃっかりナイフも装備。

 ミサイルのエフェクトが美しいとか言いながら勝ち筋を持っているあたり嫌らしい。


 ミサイルに気を取られると危険なのだが、ミサイルの処理にまず集中しないともっと危険という厄介な相手だ。そもそも基本操作も上手いし。ヒバリ屋のエデンズホルダーがミサイルを使いがちだったり苦手意識をもっていたり、迎撃が上手かったりするのは全て桐生さんが原因だと言われている。ともあれ、最高の対戦相手だ。


 ――そしてゲーム開始直後。


「クレハくん、行きますよォ!!」

「うっ」


 アニマの消費お構いなしの捌き切れないミサイルが殺到する。

 数は十二。

 リムバスのフィールド設定は都市A、スタンダードな立地だ。物陰に隠れて三発は避けられる。ライフルで二発撃ち落とす、いや三発いけるか。残り六。シールドで受けるのが二発。あとは動きで避ける。殺到するミサイルを捌き、反撃のタイミングを探る。


「はは」


 楽しい、と感じた直後――。


「あっ」


 ライフルの一射が俺に直撃。ミサイル避けるのに夢中ですっかり意識の外だった。 

 ハンドミサイルと入れ替わる形で既にアーテリーは右手にライフルを握っている。くそ、分かってたはずなのに。俺の動揺がエデンズに伝わり視線がブレる。

 落ち着け、俺!


 ドドンッ!


 続けてシールドにミサイルが直撃。

 ここは逃げ――いや反撃しないと。ここで引くのはヤバい気がする。


 背部のスラスターを吹かし、接近。まずは俺の距離にする。アーテリー相手に遠距離は一番まずい。ダダダッ、と三点バースト射撃を放つ。


 ライフルで狙うのはアーテリーの武装、背中に背負ったミサイルコンテナだ。

 重量級の装甲は厚い。当てにくいヘッドショットを狙うよりも、武装周辺を狙った方が効果的。特にアーテリーのミサイルカーニバルは出だしを狙えば連鎖でミサイルが爆発して、上手くいけば大ダメージを与えられる。


「っ」


 だが、それはこちらも同じ。こちらがミサイルを撃てるタイミングで向こうからライフルの弾丸が飛んでくる。餅は餅屋、ミサイル屋はミサイルの対処法をよく分かっている……だが。


「よし」


 向こうからの飛んでくるミサイルの頻度が減った。

 このまま相手に少量のミサイルを撃たせつつ回避し、ライフルによる射撃で削っていけばアニマの消費量からいって俺の方が有利に……と、試合展開を予想していると。


「ん?」


 アーテリーの挙動が一気に変わる。不利な流れを察知したらしい、流石に判断が早いな……。

 相手はシールドを持っている俺とのライフルの撃ち合いは不利だと判断して、ミサイルコンテナを躊躇いなくパージ。装備重量を減らして機動力を優先したらしい。相手の重装備を支えるスラスターが一気に噴出する。その加速、中量級に引けをとらない。


「来るかっ」


 相手はその加速力を生かし俺に突撃を仕掛けてきた。狙いは恐らく……接近戦、ナイフでの格闘だ。

 内蔵武装が許されていた頃はそれこそどこから武器が出てくるか判断が難しかったけれど、今なら判断が容易い。こちらもナイフで応戦して――。


「あ」


 しまった。マグノリアにはナイフを装備しているが、今使っているヴィクトリアはナイフを装備していないんだった。一瞬の判断ミスが今は手痛いが、まだ距離はある。出来る限りの対処をしなければ。


 シールドを構えライフルでの反撃姿勢をとる。

 後退しながら撃つ事と迷うがナイフ程度ならシールドで弾ける上、相手が肉薄するまでの数秒、足を止めてじっくりと狙う方がダメージを稼げるはず。今のうちに削れるだけ削ってやる。


「これも喰らえ」


 腰につけた手榴弾をパージ、アーテリーの足元に蹴り飛ばす。

 相手の勢いを削る事を期待するも――難なく蹴り返されて処理されてしまう。

 やはり抜群の操作技術。

 しかし、このまま頭部を狙い続ければ。そう思った瞬間――ブレードアンテナが多数の熱源をマップに表示した。これは……。


「さっきパージしたやつか!」


 パージされたかに見えたミサイルコンテナからミサイルが飛び出している。

 ……そうか。遠隔操作を導入した特殊兵装っ。前に戦った時より進化してるじゃないか。

 このまま下手に逃げれば相手のペースになってしまう。それはまずい。

 だから。


「弾いて、落とす!」

 

 正面に迫るアーテリーに集中する。

 向かってくるミサイルは視認する必要も無い。ブレードアンテナが生きていれば、そこから熱源反応と高さを合わせて撃ち落とせるはず。


 ああ、意識が研ぎ冷まされていく。


 ――ダダダッ。


 撃ち落としたミサイルの反応がロストすると同時にアーテリーが肉薄。アーテリーが振り上げたナイフをシールドで弾こうとした瞬間――ドスン、とシールドに強い衝撃。


「ぐっ」


 ナイフではあり得ない衝撃。その正体はアーテリーの蹴りだった。

 加速の乗った重装甲の蹴りに危うく倒れそうになるほどバランスが崩される。


 分かりやすく盾を構え過ぎて、逆に利用されてしまった。

 向こうは振り上げたナイフをブラフに、こちらの姿勢を崩しに来た。

 この距離じゃヴィクトリアに積んでるミサイルの発射角度が合わず迎撃も厳しい。どうにか角度を合わせても近すぎて爆発の衝撃は俺にも伝わる上に中量級と重量級、装甲の厚さから見てダメージを多く受けるのはこちら――。


「くっ」

 

 しかも。相手は俺のシールドを踏み続け、重量を生かしスラスターを吹かして――俺をこのまま押し潰そうとしている。踏みしめている位置も上手く、重心を逸らそうにも繊細なスラスターコントロールで勢いを流せない。このままじゃ、つぶされる!


「カット」


 ヴィクトリアの左手で保持していたシールドをパージ。

 瞬間、足場にしていたシールドを失ったアーテリーが地面に接地し――。


・・・


「……はぁ、くそ」


 神業の挙動制御で体勢を整えたアーテリーのナイフが俺の、ヴィクトリアの首元に付きつけられていた。アニマはまだあるものの、ライフルだけではここから挽回する術がない。対してアーテリーはミサイルコンテナとライフルにナイフ。継戦能力を依然として保っている。


「はぁ、はぁ」


 俺の負け、か。


〈精神接続、解除〉

〈システム、通常モードへ移行〉


「――うおおお」


 意識が現実に戻ってくると周囲が沸いている事に気がつく。

 客観的に見れば良い試合だったのかもしれないが、負けた俺といえばすっかり疲れて補助デバイスに体重を預けている始末だ。


「……はぁ」


 今のは。手札の問題か。そもそも試合運び自体がまずかった。ミサイルカーニバルで序盤から相手のペースに乗せられた。ミサイルはアニマ消費も大きいのだから即座に反撃せずに、じっくり粘って戦った方が良かったかなぁ。

 ポンポンと観覧のエデンズホルダーに背中を叩かれつつ、ベンチへと向かう。


「ふふふ。良い勝負でしたクレハ殿」

「桐生さん、面白かったです。けど、はぁ、疲れました」


 あっさりやられてしまった。悔しいけど完敗だ、やっぱり紳士三人衆は強い。


「これをどうぞ。ささやかな復帰祝いです」

「ども」

 スポーツドリンクを有難く受け取り、グイっと飲み込む。


「それでクレハ殿、先ほどの勝負、これは素人意見なのですが――」


 エデンズ談義が始まった。こうなると長いんだ、この人たちは……。


エデンズの戦闘画面はアーマードコアシリーズを思い浮かべて頂けると良いかと。


評価いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ