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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
護衛喪失編 <Lost Guard>
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1.二人旅

「今日はこのあたりで野営にしようか」


 ラストフォート砦を出発して、1週間ほど。ウィルとリズはリンドグレーン国境を越え、すでにエスタリア帝国領土内に入っていた。

 それでも帝都にはまだまだ距離がある。リンドグレーンの首都ベルフライから続く街道は、エスタリア帝国の南部を横断して、帝都まで向かっている。ベルフライ自体が帝国と王国の交易都市としての機能を持つため、この街道を通じて大陸の東西の物資がやり取りされていることになる。


 街道の途中地点にはいくつかの宿場町や大都市があり、旅人たちが必要な物資を補給したり、その場所を拠点として南北の主要都市と交易がおこなわれている。

 ウィルとリズも宿場町に泊まりながら移動を続けていたが、今いるあたりはしばらく人気のない道が続いている。

 急いで次の町まで進んでもよかったが、たまには野営もいいだろう、ということで二人は街道を少し外れたところで一泊することにした。


「よいしょっと」


 リズが荷物を降ろすと、ずしんと重い音が響いた。


 二人とはいえ、何日も旅を続けるには荷物も多くなる。それに旅をしているのはただの一般人ではない。帝国の第四皇子とその護衛だ。皇族の最低限の品位を保つため、公式な場へ出られるようなこぎれいな正装やその他もろもろ、普通の旅には不要な荷物も持ち歩かねばならない。


 普通なら馬車でも使うところだが、そうなれば御者が必要になる。できれば二人だけで旅をしたかったリズは、荷物は自分が持てるからと馬車を使わないよう提案した。事実、護衛騎士であるリズの力をもってすれば、一般人では持ち運べないような重量の荷物も特に問題はなかったのだ。


「少し休憩したら、薪を拾ってくるわね」


 そういってリズは近くの倒木に座り込んで、腰に備え付けてあった水筒の水を口に含んだ。二人でいる間のリズは敬語も使わずウィルに話しかけている。それはリズが護衛騎士になることを決意して以来、久しぶりのことだ。ウィルは幼いころを思い出して懐かしい気持ちになっていた。


「じゃ、その間僕は食事の準備をしようかな」


 ウィルは壊れかけた魔杖と、こまごました荷物以外は特に持っていない。ほとんどの荷物はリズが持ってくれている。リズが地面に下した荷物の中から、今日の夜食べる食料を取り出すと、ウィルもその場に腰かけた。

 わずかに地面にたき火の後がある。街道を通った行商人か誰かが、同じようにここで野営をしたのだろう。


「……帝都を出たばっかりのことを思い出すね」


 ウィルは座りながら食事の準備をしている。自分の持ち物から火打石を取り出して、ふと思い出したようにそうつぶやいた。


「最初は僕とリズの二人だけだった。帝都から一歩も出たことがなかったから、すべてが新鮮で、不安だった」

「ウィルなんて、最初は火を起こしたこともなかったわね」

「方法は知ってただろう?母上がいつもやっていたから」


 火打石を見て、リズがからかうように言った。それもしょうがないことだろう。宮殿から離れたところで、母親と一緒に静かに暮らしていたのだ。火を使う経験も、屋根のない場所で寝る経験もなかった。

 ウィルの母親は貴族としては末端も末端、どうやって皇帝と関係を持つに至ったのかわからないほどの弱小貴族だ。同じく皇帝の子を産んだほかの母親たちと比べ、明らかに権力の弱いウィルの母親は、ほかの妃たちのように宮殿の豪奢な部屋には入らなかった。それはまるで、「私達は帝国の権力争いには興味がありません」と宣言しているようだった。


 皮肉にも、ウィルの母親が亡くなってから、次期皇帝の選別−−皇位継承権争い--が始まってしまった。ウィルが望むか望まないかにかかわらず、帝国に最もふさわしい皇帝を決める土俵に挙げられてしまったのだ。

 上の兄弟たちはそれまで培った社交界のつてを頼って、順調に功績をあげていったが、それまで社交界とは距離を置いてきたウィルにとっては大きく後れを取った状態からのスタートだった。


「デューン兄上から東部遠征の命令を受けた時も、そんなの絶対無理だ!って思っていたからね」


 最年長であり、実力も一位であろうデューン皇子は今、皇帝に最も近い人物と言えるだろう。その彼が何を思ったか、ウィルに徴税の仕事を依頼してきた。強者の余裕なのか、兄弟として末弟のことが気になったのか。

 いずれにしろ、それがきっかけでアルフレッドが護衛となり、サイラスやユーベルと出会うことができた。その間、ずっとウィルの隣にいてくれたのは、リズだ。


「……リズには世話になってばかりだね」


 ウィルはしんみりとつぶやいた。


「ま、まぁ、私は護衛騎士ですから?殿下のお世話も仕事のうちです」


 二人の時はかしこまった話し方ではなかったのに、照れ隠しなのかリズはいつもの口調に戻ってしまった。



「よし!じゃ、私は薪を拾ってきます!」


そういってリズは森へと入っていった。



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