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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
白い眷属竜編 <Arubino Dragon>
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16.みんなを守るために

「ァァァ……」


 爆発音の中で、遠くにルクスの鳴き声がまだ聞こえる。突然別れた主人のことを心配しているのだろうか。あいつも僕のことをそれなりに主人だと思っていたのだなと、ウィルは少し嬉しかった。


「さて、集中しないとな」


 最後の一瓶になったポーションを飲み干す。これで正真正銘、今ウィルの体内に残っている分が、使える魔力の全てだ。少しも無駄にはできない。ウィルは壊れて魔法効率が悪くなってしまった杖に力を入れる。

 名残惜しいが砦へと走っているシェリルの後ろ姿を目に焼き付け、ウィルは再び砦を囲むオリエンス軍へと向き直る。


 なるべく、時間を稼がないと。


 シェリルと、リンドグレーン軍が無事撤退できるように。できるだけ、被害が出ないように。


 ふと、試練の森で戦った村を思い出す。村人と協力して魔物を掃討した、あの村を。


「やっぱり、僕の障壁魔法だけだといつかは負けてしまうってことかな」


 あの時も、敵を村人が倒してくれたから、生き残ることができた。ウィルには兄上のような強力な攻撃魔法がない。だからこそ、ウィルには敵へ一撃を加えられる協力者が必要だ。そう、例えばリズだ。


「リズ……」


 ウィルはリズの顔を思い浮かべた。これまでの旅は、いつも彼女が攻撃役を担ってくれていた。リズのような、いや、リズこそが、ウィルには必要だったのだろう。


 そういえばシェリル女王との婚姻の件があってから、あまり会話ができていなかったことに気づいた。


「リズと、もう少し話をしておけばよかったな」


「それにアルフレッド。帝都まで急いでくれているだろうか」


「サイラス、ユーベル。こんなところまで連れてきてしまって申し訳なかった。砦から無事に逃げ出せるといいけど」


 ふいに、いつもの四人のことを思い出す。こんなところで終わると思っていなかったから、最後の会話も大して覚えていない。悔いが残るな、などと考えていると、あの、背筋を凍りつかせるような強大な魔力の波動を感じ取った。


 例の、氷の大魔法だ。


 これだけ何度も食らえば、魔力の流れから魔法の発動も予測できるようになってくる。今回は、ウィルの真正面、南北に広く展開するオリエンス軍の中心から、ラストフォート砦の正門に向けて、魔法が発射されようとしているらしかった。


「こいつまではなんとか止めないと……!!」


 ウィルは身体中の魔力を絞り出す。なけなしの魔力を奪われた手足の末端は感覚がなくなり、力が抜けていく。


「ぐぅぅぅっ!!」


 それでも全身からかき集めるようにして絞り出した魔力を使って、ウィルは二枚目の障壁を生み出そうとして……魔力切れを起こし、また意識を失った。




……




「きゃぁぁっ!」


 嫌に鮮明な爆発音と、聞きなれた声色の叫び声。シェリルの声だ。


「……はっ!?」


 おそらく、気を失ったのは一瞬だろう。まだウィルは倒れこむ直前で、足に力を入れなおし、反射的に前に出した左手がかろうじて全身をささえる。そのまま振り返って、シェリルの無事を確認する。


「シェリル!!」


 ウィルと砦のちょうど中間地点くらいで、シェリルはうずくまっていた。ウィルが気を失い障壁が失われた一瞬の間に、いくつかの魔法が砦へ到達したようだった。シェリルは爆発の衝撃に驚いただけのようで、けがはなさそうだ。


「クァァァァァァ」


 ルクスも助けを求めているのか、声をあげている。あとからあとから、放たれた火球が砦の壁を焼き尽くす。早く砦の中へ避難しないと、シェリルとルクスが危ない。思わずウィルはシェリルに駆け寄った。


 ウィルが走る間も、次々と近くに魔法攻撃が撃ち込まれる。


「シェリル!早く逃げて!!」

「ウィル、もういい!もういいから!あなたも逃げて!」


 よたよたとシェリルは立ち上がり、砦へと歩みを進める。ルクスを抱きかかえ、狼狽した彼女のスピードでは、とてもたどり着く気がしない。


 だがそれよりも対処しないといけないのは、こちらに迫ってくる大氷柱だ。すでに魔法は放たれ、砦へ迫ってきている。ウィルの真正面へと飛来する氷柱。それはすなわち、シェリルとルクスも無事ではすまない。


「くそっ!もうこれっきりでいい、あの氷柱だけでもいい!シェリルを護るだけの障壁を!!」


 魔力切れで意識がもうろうとするなかで、ウィルは叫び声をあげた。ポーションを何本も飲み干したせいか、残った魔力によってかろうじてウィルの周囲に障壁が展開される。


「おおおおおおおっ!」


 ウィルはさらに重ねて障壁を展開する。二枚の障壁が完成したところへ、魔力による冷気をまとった氷柱がぶつかる。


「ウィル!」

「クゥゥ」


 シェリルとルクスが呼びかける。ウィルに返答する余裕はない。気を抜けば意識を失い、三人とも死ぬだろう。


 それに……


「あ、あともう一枚……」


 魔力が万全の状態でも、三枚の障壁でやっと防げたのだ。今展開できている障壁は二枚。


 一枚目の障壁は、これまでと同じく氷柱の冷気に触れ凍り付き、粉々に砕け散った。


「はやく……」


 ウィルは何とか最後の障壁を作り出そうとする。しかし、すべてを出しつくしたウィルには、もう魔力は少し何も残っていなかった。


 二枚目の障壁が効力を失う。遮るもののなくなった氷柱は勢いを失いつつも、その先にあるウィルと、シェリルに向かって進む。





 ふと、身を投げ出して突っ込めば、魔法の餌食になるのは自分だけで済むのではないか、と思いつく。シェリルからなるべく遠くで魔法を炸裂させればいいのだ。


「シェリル、伏せていて」


「ウィル?ウィル!!」


 襲い掛かる氷柱へ走り出したウィルに気づいたシェリルが悲鳴をあげる。


「クァァァァァァァ」


 危ない、とでも言っているのだろうか?ルクスの弱々しい雄たけびも聞こえてくる。


 シェリルを、ルクスを、リンドグレーンを守らないと。

 目の前に迫る氷柱に、ウィルは体を投げ出す。



「ウィルーーー!!!!」


 シェリルの絶叫と同時に氷柱はウィルのもとへ到達する。


「クァァーーー!!」


 氷柱の炸裂と同時に、周囲は閃光に包まれる。ルクスの悲しみを帯びた声が、周囲に響いた。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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