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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
白い眷属竜編 <Arubino Dragon>
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15.お別れの時間

 シェリルはすん、すん、と泣きながら持ってきたマナポーションを取り出し、ウィルに渡した。


「砦に残されているポーションはこれだけです。あとどれくらい持ちますか?」

「まだしばらくは……と言いたいところだけど、もうあまり時間はない。ポーションも連続して使いすぎると効果が薄れるみたいなんだ。また一つ、勉強になったよ」


 多少は空気も軽くなるだろうかと軽口をたたくウィルだが、シェリルの沈痛な表情は変わらない。


「……では、今のうちに砦まで撤退を」


「シェリル、戦況を教えてくれるかな?」


「しかし……」

「いいから」


 ウィルはあえて、シェリルの言葉を遮った。ウィルが障壁を解除して撤退することは、砦が苛烈な攻撃にさらされることを意味する。それは砦内の兵士たちが、なによりシェリルが危険にさらされるということだ。


「北側はアルフレッド卿の活躍により敵軍の隊長を撃退。同時に魔法攻撃部隊にも一定の損害を与えています。

 南側もリゾルテ卿が隊長格を討ち取っています」

「そうか、二人ともさすがだね」


 マナポーションを飲み干しながら、ウィルは誇らしい気持ちになった。配下の二人がラストフォートの役に立ってくれている。あとは自分が頑張るだけだ。


「シェリル、君の持ってきてくれたポーションのおかげで、もう少しは障壁を維持してみせるよ。だから……」


 シェリルに砦に戻るよう言おうとしたウィルは、強大な魔力の接近を感じ取った。正面から、触れるものを全て氷結させるあの魔法が迫ってくる。


「シェリル、ふせて!」


 急いで障壁を二重に展開する。


「これでどうだ!?」


 ウィルの障壁に触れた魔力の塊は、巨大な氷の柱となって障壁を突き破る。一枚、二枚。氷結の魔法によって強度を失ったウィルの二重の障壁はやすやすと砕け散る。


 それでも以前よりはるかに勢いを減じた氷柱は、砦の中段のあたりに激突した。氷とともに破壊された砦の岩が飛散し、その衝撃が地面を揺らす。


「きゃっ!」

「シェリル!」


 突然の地揺れにシェリルは足をとられ、倒れ込む。ウィルはよろけたシェリルを体を使って受け止め、支えた。


「シェリル、大丈夫?」

「ありがとうございますウィル。あなたこそ大丈夫ですか?それに、今の攻撃は……?」


 シェリルはウィルの心配をしている。だが正直、これ以上は魔力が持たない。早くシェリルを安全な場所へ避難させる必要がある。


 シェリルを心配させないよう、ウィルは淡々と現状を説明する。


「オリエンス軍は、僕の障壁でも防げない強力な魔法を使えるらしい」

「そんな……!」


 シェリルが悲壮な表情をウィルに向ける。ウィルと一緒に旅をしていたシェリルは、戦闘については疎いなりにウィルの障壁の強力さを理解しているつもりだ。モンスターのあらゆる攻撃を防ぎ、今までただの一度も破られることはなかった。先の戦いだって、ウィルが守っていた範囲は砦に傷一つつかなかったのだ。


 それを上回る攻撃手段をオリエンス軍が準備してきたというのか。ウィルの障壁を打ち破るほどの攻撃魔法を何度も受ければ、砦の石壁自体が崩壊するのも時間の問題だろう。


「ウィル、何か対策を……」


 シェリルがそう言いかけたところで、ウィルが叫ぶ。


「くそっ!まただ! シェリルは僕の後ろに!!」


 そういうとウィルは魔杖を高くかざした。ウィルの後ろから敵軍を除くシェリルは、前方からあの氷柱が再び迫ってきているのを見る。


「二枚でダメなら、もう一枚っ!」


 ウィルの呼びかけに応じるように、砦を覆う障壁がさらに重ねられる。ウィルのかざしている魔杖から発せられる大量の魔力は周囲の空間をゆがめ、素人のシェリルにも靄のように目にすることができるほどだ。


 すぐに氷柱は一番外側の障壁をとらえた。凍らされた障壁がバキバキと砕け、すぐさま二枚目の障壁をその冷気の標的とする。


 勢いを失いつつも次の障壁をも凍り付かせた後、最後の障壁で魔力を失った氷柱は初めてその動きを止めた。



「はぁっ、はぁっ」



 ウィルは急激に使い果たしてしまった魔力を補うため、再びポーションをあおる。シェリルが持ってきてくれたポーションだ。もはや気休め程度の効能しかないが、それでもないよりはましだ。しかし限界は近い。シェリルを何とか安全な場所に避難させないと。


「シェリル」


 ウィルはシェリルの方へ向き直る。ウィルの目に、不安そうなシェリルの顔が映った。


「頼みがある。砦に戻って、撤退の準備を始めてほしい」


 シェリルは目を見開いた。ウィルの発言は、この戦いの敗北を認めている。それはつまり、ウィルの障壁がこれ以上維持できないということを意味しているからだ。



「それで……ウィルはどうするのですか?」


 おそるおそる、シェリルが問う。オリエンス軍のあの強力な魔法を連発されれば、砦の攻略は時間の問題だ。被害が少ないうちに砦を放棄し、一度戦線を下げ、体制を整えなおす必要があるだろう。

 それについては不本意ではあるがもう想定した流れだ。ただ、それはウィルも一緒に撤退する前提である。シェリルはウィルの表情から、そうではないことを薄々感じ取っていた。


「僕はまだここにいるよ。なるべく障壁を維持し続けて、リンドグレーン軍の撤退の時間を稼がないと」


「でも、そうしたらウィルが……」


「シェリル、もう一つお願いが」



 シェリルの質問に答えずに、ウィルが続ける。


「こいつを……ルクスを連れて行ってほしい」

「クゥゥ」


 ウィルは背負い袋に入っていたルクスをシェリルに手渡す。断続的に続く魔法攻撃の爆発音でルクスの小さな声はほとんど聞こえない。


「ウィル……」


 ウィルはルクスをシェリルに押し付ける。


「もう僕にはルクスにあげられるほどの魔力は残っていないから……。できれば帝都に連れて行って、兄上のどなたかに世話を依頼してもらえると嬉しいけど」

「ウィル!!」


 シェリルが叫ぶ。


「それは認められません!ウィルも一緒に避難を!!」


 シェリルの唇はわなわなと震え、涙を流している。主人の異変を感じ取ったのか、シェリルに押し付けた背負い袋から、ルクスも顔を出してクァァと鳴いた。だが、ここでウィルが一緒に逃げようとすれば、障壁の維持は難しい。

 通常の魔法まで砦に到達するようになれば、リンドグレーン軍が撤退し切るまでに相当の被害がでるだろう。だから。


「僕は最後までここに残るよ。もうあまり魔力は持たないだろうけど。

 それでも今障壁を解除したら、オリエンス軍は全力で仕掛けてくるだろう」


「嫌です!せっかく結婚を……この国の繁栄のために、一緒に協力できる方と出会えたというのに!」


 シェリルはすん、すんと泣きじゃくっている。


「そ……そうです。ウィルは女王であるわたくしの伴侶、王配ではないですか。王族ならば率先して撤退を……」

「王配だからだよ」

「……!」


 ウィルは穏やかに、シェリルを諭すように伝える。


「この国のトップは君だ。シェリル。君が死んでしまうことはあってはならない。だからこそ、ここは僕が残る」


「……」


「シェリル、時間がない、僕の魔力もほとんど空っぽだ。早く砦に戻って、全軍に指示を出さないと」


 あの巨大な氷柱で障壁を破ったことで勢いを増したオリエンス軍からの攻撃で、至る所で爆発が起こっている。総攻撃が始まったのだ。


 ウィルはシェリルを引き寄せ、ふわりと抱きしめた。


「シェリル、どうか無事で。

 ルクス、最初で最後の命令だ。お前がシェリルとリンドグレーンを守るんだぞ」


「クァァ」


「さ、早く!本当にもう時間がない!!」


「ウィル、ウィル……」


 シェリルは俯いて、そのまま走り出した。体の前には両腕で抱えられた背負い袋から、ルクスが顔を出している。ルクスはこちらを気にしているようだった。


「クァァァァァ」


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