表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
白い眷属竜編 <Arubino Dragon>
88/138

14.総攻撃

「ラストフォート北側にて、敵将と戦闘を行っていたフェリシテ、フェリーネ両隊長が敗北!撤退いたしました!」


「敵将は、またアルフレッドか?」


「はい!その後敵将は姿を消した模様です。損害の少ない攻撃隊にて砦への波状攻撃を継続中です」


「ふむ……北軍はそのまま砦への攻撃を継続せよ」


「承知いたしました!」


 前回の侵攻でも使っていた上等な皮張りの椅子に腰掛け、レイモンドが指示をする。


 オリエンス軍の中心である作戦指揮を行う天幕には、伝令から次々と戦況が報告されてくる。どうやら相手は前回とほぼ同じ布陣のようだ。北側でアルフレッドとフォルジェ姉妹が交戦ということは、南のリオはもう一人の護衛リゾルテだろう。


 こちらも隊長格の配置は変わらないが、今回は南北の部隊は後方からの魔法攻撃を同時に行なっている。フォルジェ姉妹が負けてしまったのは想定外ではあるが、大きな誤算にはならない。隊長同士の戦いで遅れをとったとしても、この物量は一人や二人の奮闘で覆せるものではないからだ。


 アルフレッドが姿を消したというのも、それを感じ取ったからかもしれない。


「アルフレッドが北側からいなくなったということは……皇子の元へむかったか?」


 皇子の危険を察知して、護衛としての責務を果たすために向かった可能性がある。


 とすると、あの帝国の第三皇子ヴェンパーが話していた内容は信じていいかもしれない、とレイモンドは考える。今のウィルフォード皇子は魔力量が万全ではない上に、特注の魔杖も壊れて機能が低下しているらしい。それを知っている護衛が、危険を察知して助力に向かったのだろう。


 作戦は当初の目論見通り進んでいると言える。戦闘開始直後に放った大魔法を見せ球にして、ウィルフォード皇子に必要以上に障壁を強化させ、魔力の消耗を早めるのだ。


「そろそろ二つ目のスクロールを放て!」

「はっ!」


 そう言ってヴェンパー皇子から譲り受けた、「特別な魔法」の入ったスクロールの使用を指示する。一回目に使用した時は、味方ですら恐怖を抱くほどの強大な魔法が発動した。オリエンス全軍がいくら攻撃してもびくともしなかった障壁だったが、この魔法だけは易々と貫通したと報告が入っている。


「帝国にあれほどの魔法を放つ魔法使いがいると念頭に置いて、帝国との戦闘準備をすべきだな」


 ラストフォート戦より先の将来について思考が進み始めたレイモンド。彼を現実に引き戻したのは、作戦の総責任者であるブラッドリー司令官の言葉だった。


「首尾はどうだ?」


「司令官。大勢はこちらの思惑通りかと。このまま攻撃を継続すれば、ウィルフォードの魔力切れを引き起こせるでしょう。

 障壁が消えた段階で、全軍で総攻撃を仕掛けます」


「ふむ。それは何より。今回の戦いにはオリエンス王家も非常に興味をお持ちだ。

 なにしろ長年帝国への侵攻の邪魔となってきたリンドグレーンを切り取るチャンスなのだ」


 ブラッドリー司令官は満足そうに頷いている。


「レイモンド卿。ここで戦果をあげれば、モーガン辺境伯共々国王から多大な褒賞をいただけるだろう。なんとしても落としてくれよ?」


 注目されているということは、良くも悪くも結果が目立つということだ。失敗すればモーガン辺境伯の名声は地に落ち、成功すれば配下のブラッドリーやレイモンドは序列を引き上げてもらえるかもしれない。


「はっ。もちろんです」


 そう答えたレイモンドに、天幕の外から再び兵士が報告にやってくる。


「レイモンド様!砦の周囲に展開していた障壁が消失した模様です!」

「ついに……きたか!」


 レイモンドは興奮して立ち上がる。


「レイモンド卿、これは……」


 たった今レイモンドが説明していたことではあるが、ブラッドリー司令官は念の為確認する。レイモンドは嬉々として答えた。


 「はい。ブラッドリー司令官。準備は整いました。ウィルフォードの魔力切れでしょう!」


 レイモンドは兵士に指示を出す。


 「司令官、今こそラストフォートを落として見せましょう!全軍に伝えろ!総攻撃だ!!」





****





「ウィル!ウィル!!しっかりして!!」


「殿下!ご無事ですか!?」


 ゆさゆさと肩を揺すられたウィルは、自分が気を失っていたことに気づいた。意識がはっきりしてくると、目の前にアルフレッドがいることと、自分を抱き起しているのがシェリルだということに気づいた。


「シェリル……シェリル!?なぜここに?僕は今、何を……?」


 何をしていたんだろう、と考えたところで頭上を火球が通りすぎて行った。


 大きな爆発音と衝撃が三人を襲う。砦の壁が崩れ、人間大の岩が落下する。咄嗟に、ウィルは三人を覆う障壁を展開したところで、砦に展開していた障壁が失われてしまっていたことに気づいた。


「まずい、急いで障壁を張らないと……」


 どれくらい気を失っていたかわからないが、多少休憩になったのだろう。起き上がったウィルがだるさの残る両手で魔杖を掲げると、障壁は再び砦の大部分を覆った。


「ウィル。ウィル、もうやめてください。魔力が尽きているのでしょう!?」


 後ろからシェリルが震える声を掛ける。だが、やめるわけにはいかない。今障壁を解除してしまえば、ウィルどころかシェリルも攻撃にさらされてしまう。

 ……そうだ、シェリルはなぜここにいる?


「そんなことよりシェリル、どうしてこんなところに来たんだ!砦の中に早く戻って!」


「殿下、すみません。こちらに向かう途中で鉢合わせてしまいましてな」


 アルフレッドが口を挟む。


「連れてはいけないと申し上げたのですが……。一人でも向かうとお聞きにならないので、仕方なく」


「ウィルが倒れるのを見たからです!!危ないのはウィルの方ではないですか!」


 シェリルは叫んでいる。危険な状況ではあるが、普段冷静な彼女が狼狽えているところをみて、ウィルは逆に少し頭が冷えた。


 冷静になって考えてみれば、この状況でできることはそう多くない。ウィルはまずアルフレッドに命令を下すことにした。


「アルフレッド」

「なんでしょう?」

「命令だ。帝都へ応援要請に向かってくれ」


 アルフレッドはフェブリア姉様から借りている護衛騎士だ。ウィルの戦いに巻き込んで死なせてしまうわけにはいかない。アルフレッド一人なら、どんな状況でも帝都まで帰ることなど雑作もないだろう。たとえ後ろから、ラストフォートを落とした数万のオリエンス軍が押し寄せて来ようとも。


「……」


 アルフレッドは珍しく黙っている。それがどういう意味かを理解したからこそ、迷っているのだろう。主人であるフェブリアから受けた「ウィルに従え」という命令。そのウィルから受けた、「帝都へ戻れ」という命令。


 ウィルが敗北を覚悟していることを察したアルフレッドが、ウィルに尋ねる。


「承知しました殿下、皇帝陛下に何かお伝えすることはありますかな?」

「特にないけど……そうだ、フェブリア姉様に、感謝を伝えてくれ」

「……はっ」


 命令を受けたアルフレッドの動きは早い。では、と踵を返すアルフレッド。


「アルフレッド」

「なんでしょう、殿下?」

「世話になったね」

「……急ぎ、帝都へ向かいます。シェリル女王、殿下の障壁が維持されているうちに、司令室へお戻りいただくよう」


 少し、シェリルと二人だけの時間を作ってくれたのだろうか。アルフレッドは一人で砦へと走っていった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


もし良かったらブックマークと★★★★★評価をよろしくお願いします

感想・コメント・アドバイスもお待ちしています

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ