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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
白い眷属竜編 <Arubino Dragon>
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13.障壁を破る氷の魔法

「そんなっ!?」


 これまでとは違う、ひときわ大きな爆発音が、砦の前方から聞こえてきた。同時に、自らの展開している障壁の一部が破壊されたことを感じ取る。


「僕の障壁を破れる魔法が、オリエンスにも存在するのか……」


 ウィルの皇族としての固有魔法は、障壁だ。防御することしかできないが、だからこそ自信があった。自分の障壁魔法を正面から破れるのは、帝国ではせいぜい兄上や父上くらいだろう。

 それはとんだ思い上がりだったということか。オリエンス軍から放たれた魔法攻撃は、ウィルの障壁を貫通し、砦の壁面を崩してしまった。


「ウ、ウィルフォード様……」


 一緒にいる兵士が動揺している。

 前回と同じ監視塔から障壁を展開していたウィルに、イーデン隊長が数名の護衛をつけてくれていた。


「大丈夫、いざとなったら障壁を二重にして強度を増すよ」


 そういって兵士を安心させる。実際、スタミナを考えなくてよいのであれば多重に障壁を展開すればよいが、魔力の効率を考えるなら、敵の強力な魔法に合わせて障壁を張りなおした方が良い。

 だが、実際にオリエンス軍がどのような攻撃をしてきているのか、この監視塔からはわからなかった。実際に砦の外で砲撃の瞬間を見た方がいいだろう。


「でもできれば砦の外にでて、敵軍の攻撃に合わせて障壁を強化したい」


「そ、それでは我々もお供いたします」


「いや、それはいい」


 ウィルは一緒に砦を出ようとする護衛たちに別の任務を与える。


「僕が砦の外に出るってことを、シェリル女王に伝えてほしい。あと、北側にいるアルフレッドと連絡が取れるようなら、こちらに来るよう伝えてくれないか。

 さぁ、早く!」


 そういって護衛の兵士たちを追い立てて、自分は監視塔を降り、砦の外へと向かう。アルフレッドと連絡が取れればよいが。最悪の事態も考えておくべきだ。




****




「やっぱり、さっきの強力な魔法はそうそう連発はできないのかな?」


 障壁を維持しながら、監視塔を降りて砦の正門から出たウィルが見たのは、海のように広がるオリエンス軍だ。そして、押し寄せる波のように砦へ向けて魔法が放たれている。


 幸い、ウィルの障壁を打ち破ることができた魔法は、さっきの一度きり。今のところは通常の障壁で問題なさそうだ。……今のところは。

 先日の戦いで破損した魔杖は、以前よりも魔法制御が難しく、普段よりも無駄に魔力を消費している。マナポーションをシェリルから融通してもらったとはいえ、自分も万全ではない。


 そして心配なのが、ルクスだ。


「……クゥ」


 体力が落ちているのか、ウィルの魔力切れのせいで魔力が足りないのか、いよいよ元気がなくなってきている。心配になったウィルはこんなところにまでルクスを連れてきていた。


「お前にも魔力をやらないとな」


 杖に障壁のための魔力を込めつつ、ルクスにも魔力を分け与える。これまで無尽蔵だと思っていた自分の魔力に、実は限界があったことをこの前の戦いで知ることができた。限界を知るというのは悪くない。

 こうして魔力消費のペースを考えることができるのだから。


「とはいえ、今日は常に全力だろうね。魔力が持つといいけど」


 そう独り言をつぶやいたウィルは、敵の一角から強大な魔力の発動を感じる。


「来た!」


 さっき障壁を貫通したあの魔法だ。魔杖を握りしめて魔力を込め、障壁を追加し二重にする。飛来する魔力の塊は、目標物である砦に近づくにつれて巨大な氷塊に姿を変え始めた。


「あれは!?氷柱(アイシクル・ピラー)?」


 具現化したのは、ウィルが見覚えのあるものだった。オリエンス軍から放たれた魔法は、巨大な魔力を内包した氷の柱となり、砦へと襲い掛かる。とっさに、ウィルは障壁をさらに多重化し、氷の柱を全力で防いだ。


 ドォォォォォォ……


 魔力を帯びた氷の柱は、その先にあるものをすべて凍らせ、砕き、前進する。ウィルの障壁と衝突した氷の柱は、しばらくの間障壁の破壊を続けた後、魔力が尽きたのか単なる氷となって崩れ去った。


「兄上の氷柱(アイシクル・ピラー)と同等の魔法を使える術者がオリエンスにいるとでもいうのか!?」


 氷の魔法を得意とするのは、デューン皇子だ。今の一撃はたしかに彼の放つ魔法に匹敵するが、それほどの魔法使いの情報が今まで帝国に入ってこないはずがない。何かからくりがあるはずだ。

 とはいえ、今のウィルにできることは障壁を張り続けるしかない。


「クァァ……」


 ルクスは弱々しい鳴き声をあげる。力ない声ではあるが、主人の身を案じているようにも聞こえる。


「ルクス、僕のことを心配してくれているのか?」

「……」


 ルクスはじっとウィルを見つめている。


「大丈夫、大丈夫だ。ルクスは僕の初めての部下でもあるからね。家臣を守るのは皇族の義務さ」


 自分に言い聞かせるようにウィルは呟く。だが、魔力も尽きつつあるウィルは、立っていることすら難しくなってきていた。


「くっ……」


 足の力が抜ける。立ち膝の状態でなんとか障壁は維持しているが、正直もう意識を保っていることすら怪しくなってきた。いよいよ魔力がなくなりそうだ。



 最後のマナポーションを飲み込む。もう何本飲んだことだろう。初めのうちは順調に魔力が回復していたが、十本、二十本と飲むうちに、段々と効果が薄れている気がする。


「ぷはっ!……っ」



 中身を飲み干してからになったポーションの瓶を左手で投げ捨てようとして、意識が遠のいたウィルはそのまま地面に倒れ込んだ。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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