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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
白い眷属竜編 <Arubino Dragon>
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7.魔力切れ

「女王陛下へご報告いたします!

 砦北側へ侵攻してきた”双子の隊長”フォルジェ姉妹は、護衛騎士アルフレッド卿が撃退!

 これを受け、砦正面に布陣していた砲撃部隊を含む、オリエンス軍全軍が撤退を始めました」


 ラストフォート砦内の作戦室で、シェリル女王への戦況報告を聞いていた貴族たちが、歓喜の声を上げる。事前に報告されていたオリエンス軍の規模からすれば、あっけないほど簡単に撤退してしまった。


「砦内の被害状況は?」


 シェリルもホッとした様子で、状況把握を進める。いくら女王といえど、成人したばかりの十六歳には非常な緊張を強いる状況だった。戦闘が長引けばシェリルが先に参ってしまっていたかもしれない。


「はっ。砦の南北側はアルフレッド卿・リゾルテ卿両名のご活躍により攻撃を受けずに戦闘が終了。

 砦正面も、敵の第一波攻撃で負傷した十数名を除き、ウィルフォード殿下による障壁により、損害はほぼゼロと言えます。……まさに奇跡かと」


 報告している兵士も、これ以上ない戦果に興奮しているようだ。それを聞いたシェリルは、嬉しそうに目を細めた。


「そうですか……。ウィルフォード様と、護衛のお二人に助けられましたね」


 周囲では貴族たちが、もはやオリエンス軍など相手にならない、だとか、リンドグレーンは黄金期を迎えたのだ、だとか、口々に自国を誉めそやし、勝利に酔っている。

 その大部分はウィルフォード本人と、その護衛の力であるのだが、シェリルはあえて口にはしなかった。勝利を味わい、士気を上げるのもこれからの戦いに必要だ。


「イーデン、ウィルフォード様は今どこに?」


 シェリルはウィルの居場所を尋ねた。この戦いの一番の功労者であるウィルに、すぐにでもお礼を言いたかった。


「ウィルフォード殿下はオリエンス軍の撤退後、休憩されるとのことで自室にお戻りになられました」


 シェリルは魔法使いではないため、ウィルの魔法のすごさはわからない。だがオリエンス軍の攻撃をすべて防ぎきるほどの魔法障壁を生み出していたのだ。疲労もするだろう。


「わかりました。私はウィルフォード様に感謝を伝えてまいります。負傷者の対応と、兵士たちの慰労の準備を」

「はっ」


 恭しく、常駐警備隊長のイーデンは敬礼する。あとはこの砦の責任者であるイーデンに任せておけば良いだろう。シェリルはウィルの部屋に向かった。




 砦内は勝利に沸いていて、作戦室から出たシェリルが歩く間、そこかしこで興奮気味に戦いの顛末を話す兵士の声が聞こえてきた。

 ある兵士はオリエンスの隊長二人を一人で相手取り撃退したアルフレッドを讃え、ある兵士は人質として連れ去られたたった一人の仲間の兵士を単身救い出したリゾルテを褒めちぎっていた。もちろん、オリエンス軍の攻撃を正面からすべて防ぎ切ったウィルの強大な魔法障壁も、賛美の対象だ。

 最初怪訝な表情でウィル一行を迎えた兵士たちが、彼らを受け入れ、実力を認めるようになっている。ウィルが休む部屋へ向かって廊下を歩きながら、シェリルはそれがとてもうれしいと感じていた。



「ウィル、いますか?」


 部屋の前につくと、シェリルは声をかけたが、中から返事はない。


「確か部屋でルクスと一緒にいると聞いていましたが……」


 出かけているのだろうか?


「いないのですか?」


 ふと、ドアに手をかけると、キィと小さなきしむ音がして、扉が開いた。鍵は開いているようだ。


「ウィル?入りますよ?」


「クゥゥ」


 中からルクスの声が聞こえてくる。首都ベルフライにいた時よりまた一段弱々しくなっているような気がする。シェリルは部屋に入っていった。


「ルクス、ウィルがどこに行ったか分かりま……ウィル!?大丈夫ですか!」


 ウィルは部屋の中でうつ伏せに倒れている。シェリルは駆け寄る。ウィルを仰向けにすると、大声で呼びかけた。


「ウィル!ウィル!!」


 シェリルの呼びかけに、ウィルがぴくりと反応した。


「……シェリル」

「ウィル!どうしたのですか?大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ、ルクスに魔力を分けていたら、気を失ったみたいだ……」


 まだウィルは意識がはっきりしないようだが、ぼそぼそと小さな声でシェリルの呼びかけに応える。


「そんな!どうして……?」

「多分、魔力切れってやつなんだろうね。初めて経験したよ」


 少しずつ、ウィルの口調もはっきりしてきた。本当に魔力切れだけなのであれば、しばらく安静にしていれば大丈夫だろう。ウィルの体調の不安は薄らいだが、その原因を想像すると、シェリルは暗い気分になった。


 ウィルの魔力切れの原因は、オリエンス軍の攻撃をたった一人で受け止め続けた、魔法障壁のせいに違いない。並の魔力では砦を覆うことすらできない障壁を維持し続けたのだ。いくら魔法に長けている皇族といえど、魔力は無限ではない。


「ごめんなさい、ウィル。本来ラストフォートを守るのは私たちの役目のはずなのに」


 シェリルは兵士たちと一緒に無邪気に勝利を祝っていたことを恥ずかしく思った。ウィルとその護衛がいなければ、今回の防衛戦は勝利することはできなかったことは理解していたつもりだ。

 だが、ウィル自身もあれほどの大軍を相手に無理をしていたのだと、今初めて知った。


「いいんだ。ここはシェリルの、僕の奥さんの領地なんだしね」


 多少は楽になったのか、ウィルは体を起こした。シェリルが無理をせず横になるよう言ったが、ウィルは大丈夫といって取り合わない。それに、とウィルは付け加える。


「どちらかというと、さっきの戦いよりもルクスにあげた魔力の方が多いくらいなんだ。でも、だんだん弱ってきているみたいで……」


 そういってウィルは、ふらふらと立ち上がるとルクスに手を伸ばす。ルクスはぐったりしたまま、クゥと鳴いた。




「ルクスは、僕の初めての部下って感じがするんだ」


 ルクスを撫でながら、ウィルはつぶやく。


「リズは良くしてくれるけど、幼馴染みたいなものだし。

 アルフレッドは本来はフェブリア姉様の護衛だし。

 サイラスやユーベルは、一緒についてきてくれるけど、僕が命令できるような関係じゃないから」


 シェリルは帝都で収集した情報を思い出す。ウィルは末っ子ということもあり、皇族としては立場が弱いのだという。兄や姉がすでに貴族たちの間で一定の立場を築いている一方で、ウィルには帝都に味方と呼べるものがあまりいないのだ。


「部下の一人も救えないんじゃ、皇族とはいえないよね……」


 少し気弱な表情を見せたウィルを、シェリルは優しく励ます。


「そんなことはありません。もう、この砦の兵士たちは皆、ウィルに忠誠を誓うと思いますよ。魔力がもどったら少し外を歩いてみてください。部下を募集していると知ったら、みんな一斉に申し込んでくるでしょう」


「ふふ。それじゃ砦を守る兵士がいなくなっちゃうね」


 ウィルは少し笑った。


「それは困りますね。では、イーデンに兵士を募集するよう言っておかねば」


 そういって、シェリルは一つ気づいたことがあった。


「イーデンで思い出したのですが、マナポーションを使って、ルクスに魔力を与えるのはどうでしょうか?彼に言えば砦の備蓄を使うことができると思います」


 ルクスの症状が魔力不足から来るのなら、アイテムで魔力を補給することもできるのではないか。ウィルの顔が明るくなった。


「!! 何で早く気づかなかったんだろう!試してみてもいいかな?」

「はい、もちろんです。早速イーデンに伝えてきます」


 シェリルが部屋を出ようとすると、ウィルもついてきた。


「僕も行くよ。いろいろ相談しないといけないこともあるだろうし。ルクス、ちょっと待ってろよ」

「ウィル、休んでいた方が良いのではありませんか?」


 先ほどよりはいくらか生気を取り戻したとは言え、先ほどまで魔力切れで気を失っていたのだ。シェリルは心配する。


「大丈夫。もう良くなったよ!それよりルクスが心配だ。早くポーションをもらいに行こう」


部屋を出るウィルとシェリルに向かって、ルクスが小さくクゥと鳴いた。


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