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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
白い眷属竜編 <Arubino Dragon>
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6.オリエンス軍一時撤退

 魔法障壁があっても、オリエンス軍の魔法の爆発による衝撃が腹の奥に響いてくる。もう何度目かのオリエンス軍の魔法一斉掃射を、ウィルは張り続けている障壁で受け止めていた。


 火球や氷槍による魔法攻撃が止んだかと思うと、しばらくしてバリスタによる攻撃が砦の正面へ開始される。バリスタに装填された矢が撃ち尽くされたかと思うと、次はまた魔法攻撃が始まった。


「くっ!」


 敵は魔法攻撃と物理攻撃を交代で行い、一方の攻撃中にもう一方が次の攻撃の準備をしているようだ。

 敵の波状攻撃が繰り返される間、ウィルはずっと広大な魔法障壁を展開し続けている。魔力の消費が激しい。それに、障壁の周囲に沿うようにして攻撃範囲が広がっているように感じる。障壁を突破できないとみて砦の側面に回り込み、攻撃が有効打になる場所を探しているのだろう。


「もっと……もっと障壁を広げなければ……!」


額からは汗が噴き出し、流れ落ちて足元の石床に染みを作っている。それでもウィルはさらに魔杖に力を籠め、障壁を広げようとした。


「もっと!!」


 魔杖に備え付けられた宝玉が、ウィルの魔力に呼応してさらに光を強める。


「ああああああ!」


 ……バキッ!!


「ウィルフォード殿下?杖にヒビが……」


 最初に気づいたのはイーデン隊長の代わりに配された兵士だった。

 魔杖の一部にヒビが入っている。宝玉の周囲を囲む、円環状の装飾だ。魔杖は使用者の魔力を増幅・収束させる機能を持つ宝玉と、増幅した膨大な魔力を魔法として実体化し、細やかな制御を補助する機能を持つ装飾部分を持っている。


 ウィルの兄、ヴェンパーから贈られた魔杖は、まさにひびの入った円環状の部分が補助機能を司っていた。


「嘘だろ!?なんでこんな時に!」


 今までにないほどの量の魔力の放出に耐え切れなかったのだろうか。円環状の装飾は、一度ヒビが入ったことでもろくなったのか、十も数え終わらないうちに粉々に砕け、床に飛び散ってしまった。


 魔力の制御機能を失い、ウィルの膨大な魔力が杖からほとばしる。しかし今魔法を解いてしまえば、砦全体がオリエンス軍の総攻撃を受けることになる。制御機能なしで、障壁を維持するしかない。


「集中!集中だっっ!!」


 杖を持つ手に力を入れる。疲労でぼーっとする頭を横に振り、再び杖に意識を向ける。


「ウィルフォード殿下……」


 兵士も心配そうに見ているが、彼にはできることはない。


「イ、イーデン隊長に報告してまいります!」

「大丈夫!……だ、大丈夫……」


 念仏のように大丈夫、とつぶやくウィルを、一刻も早くイーデン隊長へ報告すべきか、ウィルを信じてこの場にとどまるか、兵士は逡巡する。


 その時、砦の北側から、轟雷のような兵士たちの雄たけびが聞こえてきた。


「オリエンス軍をたった一人で退けたぞ!」

「アルフレッド様!」


 どうやら、アルフレッドがオリエンス軍を撃退したようだ。さらに、しばらくすると砦正面、ウィルの障壁への波状攻撃も中止されたようだった。


「……ウ、ウィルフォード殿下!!前面のオリエンス軍が退いていきます!」


 やがて砦の南や、正面からも勝どきの声が聞こえるようになってきた。三方向から進軍してきたオリエンス軍が、すべて撤退しているのだろう。


「よかっ……た……」


 障壁を解除したとたんに、緊張の解けたウィルを疲労が襲う。体が急に重くなったような気がして、ウィルはその場に尻もちをついた。魔力もそうだが、集中力が限界だ。


「殿下!ご無事ですか!?」


 兵士が駆け寄ってくる。


「あぁ、ちょっと疲れただけだよ。大丈夫」


 ウィルは右手をひらひらと兵士に振る。


「僕はこのまま部屋に戻って休むよ。イーデン隊長と、シェリル女王にご報告を」

「……はっ。そ、そうですね、報告してまいります!!」


 兵士が行ったあと、ウィルは立ち上がり、這うようにして自室へと戻っていった。





****





「報告!展開した魔法砲撃隊の攻撃も全て失敗!後続の投石攻撃も、全て防がれました!」

「くそっ!!」


 レイモンドが拳をテーブルに打ちつける。


「通常魔法では突破できないとなると、次の策は……」


 伝令に次の作戦を指示しようとした時、天幕へ走り込んできた兵士がいる。何かイレギュラーな事態だろう。思考を切り替えたレイモンドが尋ねる。


「どうした?」

「はっ!フェリシテ・フォルジェ隊長が敗走!指揮権をフェリーネ副隊長に交代し、北方部隊は撤退を開始いたしました!」

「あいつら時間稼ぎもできないのか!?」


 激昂するレイモンドに、そろそろ潮時とばかりにブラッドリー司令官が声を掛ける。


「レイモンド卿。ウィルフォードの攻略の糸口はつかめていないが、一度この辺りで撤退しよう。モーガン辺境伯様へご報告もせねばなるまい」


 不満そうなレイモンドだが、ブラッドリーの命令であればしょうがない。彼がこの作戦の上官なのだし、貴族としても自分よりも高位なのだから。


「……承知いたしました。おい、全軍に撤退の合図を送れ!」


 兵士が走ってでていく。


「エスタリア帝国め……次回は必ず落としてやる」


 レイモンドは怒りに目をギラつかせていた。





****




そのころリズは、仲間の兵士を連れ去って逃げるオリエンス王国隊長リオを追いかけていた。


「私に用があるのでしょう?人質を放しなさい!」


 リオを追って、リズは砦南方の森に入っていた。あの男は砦でさらった兵士をまだ連れ回している。


「ん?……あぁ、こいつ?確かに、ここまで来たらいらねーかな。ほら、早くどっか行けよ」


 リオは手を離し、無理矢理連れてきた兵士を蹴り飛ばす。

 兵士はよたよたと起き上がると、砦の方へ逃げていった。


「さ、邪魔な奴はいなくなったことだ……しっ!!」


 直前まで脱力していた状態から、一気にリズへと跳躍し距離を詰める。持っていたショートソードを乱暴に叩きつけると、リズの盾とぶつかって森に金属音が響く。


「ぐっっ!?」


盾で防いだとはいえ、ショートソードの一撃とは思えない、鈍器で殴られたような衝撃がリズの左手に伝わる。こいつは口だけではない。かなりの実力者だ。


「はぁっ」


 相手は片手のショートソードのみ。こちらは相手の攻撃を盾で防ぎ、空いた右手で攻撃を加えることができる。リズも持っていたロングソードで切り上げるが、リオは素早く後退し斬撃を躱す。


「ほぉーっ!嬢ちゃん強いな!?なんて名前なんだよ?」

「……」


 ショートソードを肩に担いだようにトントンと動かしながら、リオは嬉しそうに声を上げた。

 リズは油断せずに相手を見据える。盾を前に、ロングソードは上段に構える。周囲を探るが、伏兵はいないようだ。単独行動なのだろうか?であれば、そもそもの目的は、砦の攻略ではなく私自身の可能性があるかもしれない。


「教えてくれねーんだったら、喋りたくなるようにしちまうぞっと!」


 斜め上方に跳躍したリオは、木の幹を足場にしてリズに向かって方向を変え、一直線に向かってきた。


 リオの攻撃を、今度はリズのロングソードが迎え撃つ。一瞬切り結ぶと、着地したリオは再び地面を蹴って跳躍する。振り向きざまに振るったリズの剣は空を切る。リオはすでに上空へ飛びのき、別の木を足場にして間を置かずにリズへと襲いかかる。


「まったく、サイラスじゃないんだから……!」


 サイラスほどではないにしろ、驚くべきスピードだ。加えてこの一刀の重さ。このまま攻め続けられれば、いずれ食らってしまうかもしれない。この状況の打開が必要だ。


「上等……!正面から打ち破ってやるわ!」

「おっ?嬢ちゃんやる気か?楽しくなってきたなぁ!」


 薄暗い森に、リズのロングソードの軌跡が煌めく。リオのショートソードと撃ち合うたびに、生まれた火花があたりを一瞬照らす。


「はぁぁぁぁ!!」

「おおおっ!」


 特別大きな衝突音の後、どっ!とリズの後方の木に剣身が突き刺さった。


「あー。しょーがねーな。折れやがった」


 切先を失くした剣を持っているのは、リオだ。さすがに帝国でも最上級の装備と、一般兵から奪ったショートソードでは武器の強度が違いすぎたのだ。


「ま、これくらいがいいハンデかな?」

「っ!」


 リオはまだ続けるつもりだ。腰を低く落とし、リズが構え直した時、遠くから太鼓の音が聞こえてきた。一定の間隔で叩かれていると言うことは、何かの合図だろうか?


「ち、撤退か。嬢ちゃん、また今度な!楽しかったぜ!」

「ま、待ちなさい!」


 折れた剣をポイっと捨てると、リオは森の奥へ消えていった。斬撃の音は消え、森の枝や葉がさわさわと揺れる音だけが聞こえてくる。


「……そうだ!砦は大丈夫かしら!」


 戦いに集中するあまり、森の奥まで入り込んでしまっていたようだ。リズは急いで来た道を戻ることにした。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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