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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
白い眷属竜編 <Arubino Dragon>
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5.ラストフォート北側の戦い

 一方、砦の北側。オリエンス軍が遠巻きに陣を敷く中、たった一人で砦から出てきた大男と、二人の女戦士がすでに戦闘を始めていた。


「フェリーネ!!もっと手数を増やしなさい!」

「お姉さま、もう限界です……!」


 長槍を器用に持ち替え、休むことなく攻撃を続けているのは妹のフェリーネだ。だがどれだけ攻撃のスピードを上げても、相手の体制を崩すことすらできない。


 オリエンス軍が砦の北側を遠巻きに囲み、陣を敷いている。一方ラストフォート砦側の兵士たちは、遠距離からの投石器や魔法攻撃を警戒しつつ、壁上から砦のすぐ外で行われている戦闘を心配そうに見守っていた。

 戦っているのは三人。砦の北の守りを任されている、帝国の護衛騎士アルフレッドと、オリエンス軍隊長のフォルジェ姉妹だ。


「ありえないわ!私たち姉妹の連携が全く通用しないなんて……!?」


 絶え間なく続く妹フェリーネの連撃の合間を縫って、姉のフェリシテが渾身の一刀を振り下ろす。これまで盾だろうが鋼鉄の鎧だろうが、敵もろとも両断してきたフェリシテの斬撃は、もう何度もアルフレッドに防がれている。



「もうそろそろ、諦めてはどうですかな?」


アルフレッドはフェリーネの槍をいなし、フェリシテのロングソードを振り払いながら、迷惑そうにしている。もはや戦いと言った雰囲気ではない。森を歩いている途中で、邪魔な枝葉を振り払うかのようだ。フェリシテは顔が熱くなるのを感じる。頭に血が昇るのをこれほど明確に意識したのは初めてだ。


「ああああっ!」


 横薙ぎのフェリシテの剣は稲妻のように走り、アルフレッドの胴へと向かう。

 しかしどう言うわけか、アルフレッドの身長ほどもある大盾が剣の道筋を先回りしてすっと入ってくる。フェリシテの剣筋を読んでいたとしても、これだけの大きな盾を容易く振り回せるとは、どれほどの膂力を持っているのだろうか。


がぃん!と衝突した盾と剣の間に火花が生まれる。その間にもフェリーネの突きは繰り出されているが、こちらは手甲で器用に方向を逸らされ、空を切るばかりだ。


「はぁっ、はぁっ……」


「……私が戦っている間に砦へ攻撃があるのかと考えていたのですが。ありませんな。何か別の作戦があるのですかな?」


「おのれ……」


 フェリシテとフェリーネはひとまず距離を取る。ペースを考えずに攻撃を繰り出したせいで、呼吸が乱れているのだ。


 ブラッドリー司令官からは「合図があるまで時間を稼げ」と言われているが、とんでもない。この戦いが終わるかどうかは、もはやあの護衛騎士の気分次第になってしまっている。

 おまけにこの男は、オリエンス軍が仕掛けないことを不審に思い始めている。下手をすれば今回の作戦が察知されてしまう可能性があるだろう。不自然にならないよう、一度撤退した方が良さそうだ。

 少々、演技をせねば。


「フェリーネ!本気でいきますよ!」

「お姉さま?!」


 一歩出遅れたフェリーネを置いて、フェリシテがアルフレッドに向かって突っ込む。両手に持った長剣は切先をアルフレッドに向けたまま、持ち手を腰の後ろまで引きつけている。


「むっ!」


 アルフレッドは体の前で盾を構えた。この攻撃も正面から受け止めようと言うのだ。


「はぁぁぁぁ!」


 引き絞られた弓が弾けるように、フェリシテから長剣が突き出される。


「ソード・ピアシング!」


 フェリシテの剣は周囲の空気を切り裂き、アルフレッドの盾へ到達する。一点に集中したエネルギーが弾け、閃光が走る。だが、アルフレッドは微動だにしない。


「そんな!?これでも届かないなんて……」


 驚愕の表情を浮かべたフェリシテのみぞおちをアルフレッドの拳が襲う。


「がはっ!」

「お姉さまっ!!」


 吹き飛ばされた姉に駆け寄るフェリーネ。フェリシテは僅かに意識があるようだ。


「フ……フェリーネ。撤退しなさい」

「そんな……誇り高きフォルジェ家が撤退など!」

「いいから言うことを聞きなさい。それと、ブラッドリー司令官に報告を……」


 朦朧とする意識の中で、フェリーネは妹に撤退を指示すると、意識を失った。


「今の攻撃は多少ましなようでしたが……。しかしこのタイミングで何故?」


 アルフレッドは怪訝な顔をして、オリエンス軍の隊長格と思しき姉妹を見つめる。いまだに後ろに控えている歩兵は攻撃の気配を見せない。攻城攻撃を思惑通り進めるため、まずはリンドグレーン側の指揮官たちを、隊長が制圧する作戦だったのだろうか?


「この……よくもお姉様を!次に会う時は必ず殺してやる!」


 槍を操っていた――どうやら妹らしい――女隊長は、姉を担ぐと撤退していった。


「うーん。捕まえておいた方がよかったですかな?」


 まぁ、今回のように一般兵を巻き込まずに戦えるのであれば、負けることはないし問題はないだろう。


 あの姉妹が率いてきたオリエンス軍も、隊長がやられたためか撤退する様子だ。とりあえず、砦北側は損害なしで乗り切ることができた。これで幾らかの兵を東正面と南側へ支援に向かわせることができるだろう。砦の東側、モーガン領に接する正面からは、兵士の怒号や魔法攻撃の衝撃がこちらにも響いてきている。


「いったん、砦の中に戻りますかな。オリエンス軍が完全に撤退したら、殿下の元へ向かわねば。正面は流石に、攻撃が激しいようですからな」



くるりと敵軍に背を向け、砦へと戻るアルフレッドに、壁の上から兵士たちの歓声が上がった。



「オリエンス軍をたった一人で退けたぞ!」

「アルフレッド様!」

「俺たちの勝ちだ!!」

「うぉぉぉ!!」

「ラストフォート砦の英雄!」


 兵士たちは、次々とアルフレッドへ賞賛の言葉を投げかけた。


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