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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
白い眷属竜編 <Arubino Dragon>
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4.ラストフォート南側の戦い

 ラストフォート砦は、オリエンス軍からの侵攻に備えて築かれた砦だ。だからこそ、オリエンス軍がやってくる東方を砦の正面とし、東からの攻撃に特に強く作られている。


 東を正面として南北に長く構築された石壁は、どれも人間よりも大きな岩石を組み上げてあり、生半可な投石では崩すことはできない。さらに、オリエンス軍からの攻撃を受けるたびに補強され、その防御を強固にしてきた。


 それほど堅牢なラストフォート砦も、過去にただ一度だけ、あわや陥落かと言うところまで追い込まれたことがあった。砦の礎である巨岩に水・氷・炎と様々な魔法を交互に放ち、石壁を崩壊させることに成功したのだ。その時の隊長こそ、今回の作戦の正面部隊を任されたマクニール男爵家長男、レイモンドであった。


「報告!第一波攻撃の中盤から、魔法砲撃部隊からの遠距離魔法は全て砦へ着弾前に暴発!おそらく敵陣に何らかの防御魔法が展開されたものと思われます!」

「防御魔法……帝国の皇子か?」


 レイモンドは天幕の中に置かれた、上等な革張りの椅子に深く座ってつぶやく。


「防御魔法が展開されている範囲を割り出す。砲撃隊を散開させて、守りの及ばない領域を見つけだせ!」

「はっ!」


 帝国の第四皇子が得意とする魔法障壁は、並の攻撃では全く歯が立たないほど強固なのだという。だからこそ、そんな強力な障壁を広範囲には展開できないはずだ。


「並行して、投石部隊も控えさせておけ。砲撃隊の第二波攻撃が終わり次第、投石による物理攻撃に切り替えろ!」

「承知いたしました!」


 伝令を行う下級兵士が天幕をでていく。中に残されたのは、レイモンドと総司令官エディー・ブラッドリーの二人だ。レイモンドと兵士のやり取り後ろで聞いていたブラッドリーが、レイモンドに話しかける。


「レイモンド卿、どう見る?」


 問いの意図はもちろん、ウィルフォード皇子についてだ。


「帝国の皇子の力だとすると、事前に入手した情報と齟齬があるようです。

 第四皇子の固有魔法は強固な障壁ではありますが、せいぜいが近くの人間数人に展開する程度だったはず」


 レイモンドは険しい顔で、天幕の出入り口の方を、その先にあるラストフォート砦を睨んでいる。


「魔法砲撃隊からの報告を聞くかぎり、今の陣形で全く攻撃が通っていないとすると、砦正面のほとんどが障壁で覆われているのでしょう」


 ブラッドリーはううむ、と唸り声を上げた。


 確かに、魔法による攻撃はことごとく砦に当たりすらせず、途中で炸裂してしまうと報告がきている。

 もし、そんな力を持った人物がリンドグレーンについたとなれば厄介だ。政治的な侵略が望み薄となった今、武力による侵攻もままならないとなれば、国内でモーガン辺境伯の立場も悪化してしまう。だが、レイモンドはまだ手札を残しているようだった。


「さらに攻撃範囲を広げ、加えて魔法だけではなく物理攻撃との波状攻撃を行います。

 魔法攻撃に特化した障壁の可能性もあるかもしれませんし、攻撃が通用する箇所があれば、障壁の展開可能範囲を特定できるでしょう」


 上司であり、自分よりも高位の貴族であるブラッドリーにはあくまで冷静に話しているものの、彼は苛立ちを隠せないようだ。さきほどからトントンと、前に置かれた右手の指がテーブルを叩いている。


「帝国の四男坊如きが邪魔をしやがって……」


 レイモンドのつぶやきは、オリエンス軍の繰り出す魔法砲撃の爆発音にかき消された。




****




 ラストフォート砦、南側。


「あーあ。こんなんで本当に皇子様の護衛とやらは来るのかよ?」


 使い込まれた麻の服の上に、これまた使い込まれた鉄製の胸当てをつけた男が、独り言を呟く。手に持っているのは、砦の壁を超えてから、近くにいた一般兵から奪い取ったショートソードだ。オリエンス軍の隊長、リオは両軍のにらみ合いなど意に介さず、単独でラストフォート砦の石壁を上り切っていた。リンドグレーンの兵士たちはリオを取り囲んだまま、対処できずにいる。


 周囲にはリンドグレーン軍の兵士が何人も倒れている。最初の数人は、威勢よくリオに向かって挑みかかってきたものの、全員一撃で倒されるのを見て怯んだようだ。距離をとってリオを囲んだまま、動きがない。


「しょうがねーな。あんまり動くとすれ違って会敵できない可能性があるって、あの司令官様も言ってたからなぁ」


 普段は敵陣に突っ込んだら、思うがままに敵を倒してきたリオにとって、戦場で機を待つのは初めての経験だった。


「あんまりぶっ殺すと、帝国の皇子がやってきちまう可能性があるとも言ってたけど……。もうちょっと位暴れてもいいかぁ?」


 そう言ってショートソードを肩に担ぐと、ちらりと周囲を見やった。ちょうど目が合った兵士に狙いをつけて、飛びかかる。


「運が悪かったな、お前!」

「ひぃっ!」


 まだ若い。戦争は初めてなのだろうか。こちらの勢いに足の力が抜け、へたり込んでしまった。

 ちょうどいい場所に頭がある。このまま得物を一振りすれば、哀れな兵士の首が飛ぶ。



 ショートソードを振り下ろした手に、ギィン、と衝撃が伝わる。いつの間にか若い兵士とリオの間に、盾を持った女が飛び込んできた。リオの一閃を正面から受け止められると言うことは、それなりの実力はあるようだ。


「ほう?お前が護衛ってやつか?」

「……」


 女は黙って持っているロングソードでリオに斬りつけてきた。リオはその攻撃を受けることなく、ひと跳びして距離を開ける。

 改めて女の全身を見ると、装備している盾も鎧も、周囲の兵士とは比べ物にならない良物だ。こいつで間違いない。


「俺の名前はリオ。オリエンス王国正規軍隊長リオ・ボイスだ。お前の名前は?俺と戦えよ!」


 リオは自分の名を名乗った。見た感じ、いかにも生真面目な騎士っぽい顔つきをしている。

 こちらがそれなりの肩書と一緒に名前を名乗ってやれば、騎士という奴はなぜか名乗り返してくる。いつもだったら名乗っている最中に隙を見て一撃入れてやるのだが、今日は勝負がついてしまうのはまずい。「時間稼ぎをしろ」と司令官から言われているからだ。リオは相手の名乗りを待ってやった。


「貴様の名前に興味はないし、わざわざ一人で相手をしてやる義理は無い。弓兵!構え!」


 後ろに控えていた弓兵たちが弓を構える。騎士ならば勝手に一対一の勝負を始めてくれるかと思ったのだが……。

 この女は騎士のくせに戦争ってものをわかってやがる。


「おもしろい!それなら、これはどうかな?」


 一瞬で近くの兵士に間を詰めるリオ。弓兵は同士討ちを恐れて弓を放つことはできない。適当に近くの兵士の武器を奪い、もとの持ち主の首元に突きつける。


「ぐっ……」


 女騎士がわずかにひるむ。なるほど、人質は効果ありか。頭は回るようだが甘ちゃんだな。


「皇子様の護衛さんよ、俺と二人だけで戦おうじゃねーか!降りてきたらこいつは開放してやるよ」


そういって、リオは兵士もろとも砦から飛び降りた。


「彼は私が追います!!全員持ち場へ戻って!次の攻撃に備えてください!」


そういってリズは、リオと人質の兵士を追って砦から身を躍らせた。



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