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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
小国の薔薇編 <Little Rose>
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33.皇位継承者たちの集い

「お茶会以外でフェブリアから声をかけてくれるなんて、うれしいものだね。

 ウィルが試練を突破したことといい、最近は良いことが立て続けにあるなぁ」


 機嫌よくそういったのは、第一皇子デューン。皇位継承権をもつ皇族たちが集まるいつもの部屋に、いつもの人物たちが座っている。

 すなわち、第一皇子デューン、第二皇子オクタス、第一皇女フェブリア、第三皇子ヴェンパーだ。


「ちっ。兄上もウィルの報告ごときで浮かれてんじゃねーよ。

 試練の森を突破したなんて、どうせ何かの間違いだろ?」


 部屋に入ったときから明らかにイライラしているのは、第三皇子ヴェンパーだ。正確には、部屋に入った時からではない。数か月まえ、ウィルが試練の森を単独で踏破したと護衛のアルフレッドから帝都に報告が入ってからだ。


 これまで試練の森を踏破した皇族はデューンひとりだった。森から帰ってきたデューンは、なんと氷のように青い体をした従魔を連れていた。森の試練を突破したものには、使い魔が与えられることが分かったのもその時だ。


 デューンは使い魔を連れて回ることはしないが、その威容は周囲に「第一皇子こそ、帝国の次代の皇帝にふさわしい」と思わせるのに十分だった。

 それが今度は歯牙にもかけていなかったウィルフォードが試練をクリアしてしまったというではないか。そんなことなら自分も挑戦しておけばよかったと歯噛みしてももう遅い。

 これですぐさま試練に挑むようなことをすれば、今度は「第三皇子はデューンとウィルフォードが試練を踏破したのを見て、安全と見るや自分も乗り込んでいった」などと評されてしまう。それで万が一試練に失敗などすれば、もはや良い笑いものだ。


「ヴェンパー。私のアルフレッドからの報告ですよ。

 ウィルが試練の森から無事帰ってきたことは、間違いありません」

「フン」


 別に護衛騎士の働きを疑っているわけではないのだが、ヴェンパーはないも言わずにただ鼻を鳴らしただけだった。


「デューン兄上ではないが、フェブリアが我々を集めるとは珍しいものだ。要件が気になるのだが?」


 第二皇子オクタスがそういうと、フェブリアがごほん、と咳払いをして話し始める。


「実は先日、アルフレッドからもう一つ報告が届きました。

 ウィルは森から卵を持ち帰ったらしいのですが、その卵が先日のリンドグレーン女王との結婚式で孵ったようなのです。

 卵から出てきたのは、なんとドラゴンだったようなのですが……」


「……」


 フェブリア以外の三人の皇子は、それぞれ思い思いの恰好で椅子に座り、フェブリアの話を聞いている。

 ヴェンパーは行儀悪く、机に脚を乗せて。

 オクタスはまるで軍議の最中かのように姿勢正しく。

 デューンは右手で頬杖をついて。


 三人に共通しているのは、無駄な発言をせずフェブリアの次の言葉を待っている点だ。ウィルの使い魔が伝説の存在であるドラゴンだったことは皆驚きではあったが、三人とも、この後がフェブリアの本題であるとわかっている。


「そのドラゴンが、どうやらアルビノらしいのです」

「……」

「……」


 アルビノ。たまに生まれる、色素の薄い個体のことだ。

 デューンとオクタス皇子は押し黙る。一般的に「アルビノ」は生物として丈夫な個体ではないことが多い。それどころか短命な場合もよく聞く話だ。だからこそ、動物や魔獣のアルビノは好事家に高い値段で取引されることもあるのだという。


 その個体を確認したアルフレッドがフェブリアに報告をよこしたということは、実際にあまり良い状態ではないのだろう。



「ぷっ……くくっ!」


 兄二人とは対照的に、急に機嫌よく笑い出したのはヴェンパーだ。


「つまりはこうか?ウィルフォードのやつが命がけで試練を超えて手に入れた使い魔は、虚弱でもうすぐ死んじまうってことか?これは……ははは!」


 ここ数か月、機嫌の悪かったヴェンパーは急に余裕のある表情になった。三男の彼は、ただでさえ上の二人の兄、デューンとオクタスを追う立場だ。王位継承権争いでは不利な立場にいる。

 それに加えて弟のウィルフォードが試練の森から帰還し、大きな功績をあげてしまったのだ。強力な使い魔を手に入れたとなっては、弟にすら継承権の順位を抜かれてしまう可能性もあった。


 それがどうだ。弟が手に入れた使い魔はドラゴンだという。ドラゴンという種だけ聞けば、ともすればデューンの使い魔である氷の獅子よりもさらに強力に違いない。一瞬、目の前が真っ暗になったと思ったら、そのドラゴンはアルビノだというではないか。

 自然界でアルビノの動物は体が弱く、寿命が短いといわれている。フェブリアの護衛騎士が報告を上げてきたのも、それを聞いたフェブリアがこうして皇子たちを全員集めたのも、そのせいに違いない。


「毎度のことだがヴェンパー。皇族として節度ある振る舞いをすべきだ」


 オクタスがたしなめる。彼も表情には出さないが、この場でヴェンパーに注意をするあたり、多少は動揺しているのかもしれない。普段であればよほどの要件がなければオクタスが口をはさむことはないからだ。


「はいはい。で、実際のところはどうなんだ?フェブリア姉上?」


 オクタスの忠告にも全く悪びれる様子はなく、ヴェンパーが尋ねる。口元はにやけて今にも笑い出しそうだ。よほどウィルフォードの使い魔が役に立たないだろうことがうれしいのだろう。


「えぇ。残念ながら、アルフレッドの見立てではそれほど長くはもたないのではないかと。

 孵化した時点で、あまり生命力を感じられなかったと。デューン兄様、何とかならないかしら?」


 ウィルとリンドグレーンの女王との結婚をこの中で一番楽しみにしていた――煽っていたともいうが――フェブリアは、罪悪感なのか同情なのか、非常に心を痛めているようだ。部屋に入ってきてからずっと浮かない表情をしている。

 それでも、もしかしたら使い魔をすでに使役しているデューンであれば、あるいは、各地へ遠征に出ている兄弟たちであれば何か知っているかもしれないと、皆を呼び集めたのだ。


「難しいね。そのあたりにいる動物や魔獣を使役しているのとは違って、試練の森から授けられたものだ。”特別”なんだよ」


 うーん、と眉間にしわを寄せるデューン皇子。珍しく普段の穏やかな顔つきではない。少し沈黙が続いたところで、ふと、オクタスが口を開いた。


「デューン兄上、試練の森について、何を知っている?なぜそんなに詳しいのだ?」


「あぁ、そういえばそうだな。初めて試練の森を抜けたのも兄上だ。攻略法でもしってるのか?」


 ヴェンパーも追い打ちをかけるように問う。すこしピリピリとした雰囲気が漂うが、そうしたことには興味がないフェブリアは、ウィルの使い魔のことを心配してため息をつきながら紅茶に口をつけている。


「僕は何も知らないよ。もちろん、攻略法も知らない」

「ふん、どーだか。長男ってのは恵まれてていいもんだな!どうせ父上から何か聞いてるんだろ?」


 にやけていたヴェンパーだったが、自分の順位が下がらないとわかって今度は二人の兄のことが気になってきたのか、投げやりにそう言い放った。王位継承権は圧倒的に長男が有利だ。最も早く生まれ、兄弟の先頭をいっている。それまで積み上げてきた功績も、どうしたって一番多いのは長男になる。


 そう、王位継承権争いは、実質的には長男が皇帝になることがほぼ決まっているようなものなのだ。


「試練の森に関して知っていることはみんなと一緒さ。攻略法だって知らなかったし、知っても意味がないんだ。あれは挑んだ者にあわせて違った試練が課されるのさ。あとでウィルフォードにも聞いてみるといいよ」


 攻略法がない、という情報は一体どこから手に入れたのだろう、とヴェンパーやオクタスは思考したが、結局口に出して聞くことはなかった。どうやらデューンはこの件についてはしらを切るつもりらしいし、その程度の情報であれば事前に探すことはできるだろう。


 デューンは、これは自分の体験談からいうのだけど、と前置きして、フェブリアに話しかける。


「使い魔と主人は魔法的な絆でつながっているんだ。

 もし、使い魔の生命力が足りないというのであれば……主人であるウィルが魔力を分け与えれば、持ち直すかもしれない」


「わかりましたわ。ではアルフレッドに急いで返事を出しましょう。デューン兄様、お礼申し上げます」


「いいよ。うまくいく確証もないんだ。」


「でも、やっぱり心配ですわ。ウィルはまだあちらの貴族たちに慣れていないようですし」


 使い魔の件が改善するかもしれないと、フェブリアは少し明るくなった。人間、一番の心配事が一つ減ると、次の心配事が気になるらしく、今度はウィルと貴族たちとの関係を心配している。フェブリアの心配に珍しく手を差し伸べたのは、なんとヴェンパーだった。


「だったら、俺が一度見てきてやるよ。ウィルのやつがリンドグレーンの貴族どもに舐められてるようなら、一発カマしてくればいいんだろ?」


「それはどちらに向けて言っているんだ?視察に行ってくれるのはうれしいけど、ウィルはリンドグレーン女王の王配になった皇族だ。無礼な真似は帝国の威信にかかわるよ」


「わかってるって。オリエンス王国と対峙するにはリンドグレーンを取り込めるのはデカい。

 せいぜい大切にしてやるさ。じゃーな」


 そういって乱暴に席を立ったヴェンパーはさっさと部屋を出て行ってしまった。





 部屋から出たヴェンパーは、邪悪に笑う。


「デューン兄上の助言で使い魔が持ち直しちまったら厄介だからな。

 余計な力をもった愚弟には、ここで退場してもらうとするか」


小国の薔薇編、終了です。次の投稿から「白い眷属竜編」が始まります。



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