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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
小国の薔薇編 <Little Rose>
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32.祝福の裏で

「リンドグレーン王国の輝ける未来に!乾杯!!」

「我わがシェリル女王陛下万歳!」

「新たなリンドグレーン王族たるウィルフォード殿下!万歳!」

「万歳!!」


 遠くから聞こえてくる、穏やかなワルツは王宮楽団による生演奏だ。ゆったりとした音楽の上に、パーティの出席者たちの談笑と、シェリル女王とウィルフォードを祝福する乾杯の声が聞こえてくる。


 パーティ会場から少し離れたところにある王宮のテラスで、男女のペアが手すりに寄りかかって外を見ている。二人とも正装だが、着慣れていないのか動きがぎこちないように見える。


 今日の主役に関係の深い二人の名は、リゾルテとサイラスだ。


「いいんスか?」


 ぼそっとサイラスがリズに問いかける。新品の燕尾服は今日のために採寸して仕立てられたのだろう。サイラスの細身の体系によく合っていて、しわもなくすらっとしたズボンはサイラスの伸長を少し高めに見せる効果があるようだ。

 サイラスはベランダの手すりに背を預け、上を見上げている。右手に持った赤ワインはあまり減っていなくて、手持ち無沙汰にならないように給仕から受け取ったままだ。


「……何がよ?」


 そう答えたリズは、サイラスが持っているワインと同じくらい、深い赤い色をしたドレスに身を包んでいる。ドレスに対しても動きやすさを重視したのか、両腕の袖はなく、肩が見えている。


 リズもワイングラスを持っているが、ほとんど飲み切っている。サイラスとは逆に酒が進んでいるのか、それともドレスがシャンデリアの光で反射しているのか、心なしか彼女の顔も少し赤く見える。


「はぁ」


 大きくため息をつくと、リズは中庭の方を向いて手すりに両肘を乗せる。まるでパーティから目をそらすかのように。

 明るい会場とは逆に、外はぽつぽつと警備のための松明があるだけだ。昼間であればテラスからは色とりどりの植栽が目を楽しませてくれるはずだが、今は深く、暗い夜の闇が広がっている。


 この暗い庭園は今の私の気持ちのようね、とリズは考える。そして、まるで詩人のようではないかと自分らしくない思考に少し笑ってしまう。このもやもやとした気持ちが何なのか、リズにはわかっている。

 サイラスが何を言おうとしているのかも。そして、単なる護衛騎士と、帝国の王位継承権を持つ皇子とでは、かなうことの無い感情であることも、わかっている。


「私は、これからも殿下をお護りするだけよ」


 明かりのほとんどない庭園に向かって、そうつぶやく。リズの声は、その暗闇に吸い込まれていった。

 残り少ないワインを流し込む。少し酔いすぎたかもしれない。


「まぁ、リズ姉さんがいいんだったら、いいんスけど」


 サイラスのワイングラスは減っていない。手すりに体をあずけて、ずっと空を見ているようだ。空は庭園と同じく深い闇が広がっていたが、サイラスの目にはひときわ明るい満月が映っていた。





 リズとサイラスがテラスで話をしていたころ、ひとりパーティ会場からすっと退出した人物がいた。アルフレッドだ。

 せわしなく、会場へ食事や酒を運び込む給仕とすれ違い、会場横の回廊を歩く。貴族たちの明るい笑い声とはうらはらに、アルフレッドは難しい顔をしている。


「これは、どうしたものか……」


 うーむ、と唸り声をあげるアルフレッド。もうそれなりに遠ざかったと思っていたが、まだ会場からリンドグレーン王国と、ウィルフォード皇子の新しい使い魔を称える声が聞こえてくる。


 試練を攻略したことで、ウィルフォード殿下は帝都内でも皇族としての実力を認められるだろう。末っ子として王位継承争いには見向きもされていなかった殿下も、これで「可能性がある」くらいには認識される。

 それほど、あの試練から帰ってこれたことは大きな功績だ。なにせ今の皇族で試練をクリアしているのは、第一皇子デューンだけなのだ。


「しかし、ウィルフォード殿下が認められるのは、わずかな期間になるでしょうな。なぜなら……」


 と、ひとりごとを言うアルフレッドは、すぐ先にユーベルがいることに気づいた。彼女も今日のパーティへ招待はされていたものの、貴族たちの中に彼女の顔を知るものがいないとも限らないため、会場へは訪れていなかった。


 彼女はアルフレッドが来るのをわかっていたのか、回廊の端でずっと待っていたようだった。アルフレッドが来たことに気づくと、こちらへやってきた。


「あの、アルフレッド様」

「ユーベル。どうかしたのですかな?」


 相変わらず、ベールで顔を隠しているせいで表情を見ることはできないが、声色からは心配をしているように聞こえる。ある程度一緒にいると、顔が見えなくても何を考えているのかはなんとなく分かるようになるものだ。


「はい。ウィルフォード殿下の使い魔のことなのですが……」

「あぁ、殿下が試練から持ち帰られた卵のことですかな。つい今しがた、孵化したようですな」


 アルフレッドはちょうどそのことを考えていたのだが、それを気取られないよう、少しとぼけて答える。しかしユーベルが話す内容は、まさにアルフレッドが危惧している内容そのものだった。


「わたくしも気配を感じたのですが。とても、その……生命力が弱いようなのです」


 なるほど。ユーベルは人間ではなく、この世の存在ではない者として、何かを感じ取ったのだろう。そして、それはアルフレッドの懸念と同じだ。


「ユーベル。君の心配はよくわかった。ウィルフォード殿下の使い魔のことは、私に任せてもらえるかな?」


「……!はい。よろしくお願いいたします」

「では、さっそくこのことを帝都にも伝えねばなるまい。失礼するよ」


 アルフレッドは歩みを進める。

 急いでフェブリア殿下へ報告を送ろう。淡い期待ではあるが、何か対処方法があるかもしれない。デューン皇子に報告した方が良いかもしれないが、それも含めわが主に判断してもらうべきだろう。これは非常に繊細な問題だ。



 なぜなら、命を懸けて手に入れたウィルフォード殿下の使い魔は、おそらくすぐに死んでしまうだろうから。




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