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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
小国の薔薇編 <Little Rose>
71/138

30.逆転

「女王陛下!ご、ご報告がございます!」


「後にしないか!神聖な王国議会の最中だぞ!?」


 気分を害した貴族が口々に兵士を叱責する。とはいえ、議会が開催中であることは兵士も十分承知しているはずだ。それでも報告に現れたということは、よほど緊急の要件なのだろう。


「続けなさい」


 それならば報告を受けないわけにはいかない。シェリルは兵士に続きを促した。


「はっ!ただいまリンドグレーン王宮にウィルフォード殿下が到着されました!

 試練の森を突破されたとのことで、女王陛下へ直接ご報告に伺いたいと、こちらへ向かわれております!」


「……」


 試練の森を突破した。そのようなことがあり得るのだろうか。王国派、帝国派の議会にいる誰もがまだ疑心暗鬼だ。王国派の貴族はすぐさまその疑念を突いてくる。


「試練の森を抜けたなど、でたらめだ!」

「口先だけなら何とでも言える!時間の無駄だ!」

「そうだ!早く決議を進めるべきだ!」


 騒然とする議会。だが、ウィルフォードが無事帰ってきたと聞いたシェリルは、落ち着きを取り戻し、思考が回り始める。王国派は、焦っているのだ。生きて帰ってこないはずのウィルフォード皇子が帰還したということは、本当に試練を乗り越えてしまった可能性が出てきたからだ。


「皆、静かになさい!ウィルフォード皇子の言葉が真実かどうかは、もうすぐわかることです。決議は中断し、皇子の到着を待ちます」

「もう良いでしょうシェリル女王!まずは決議を済ませるべきです!」


 サミュエル侯爵が声を上げた。先ほどの余裕の笑みは消え、必死さが垣間見える。


「ウィルフォード皇子がご帰還なされたこと、お祝い申し上げます。

 しかし、試練の森を突破したなど、そう証言すれば確認できるものなどおりません。

 ……そうだ。証拠だ。試練の森を突破したという証がなければ、認めることはできない!」




「……証拠なら、ありますよ」


 兵士が報告に来た時に開けたままになっていた大扉から、シェリルの聞き覚えのある声が聞こえる。ずっと待っていた、穏やかなあの声。


「あぁ……ウィルフォード様!」


 どよめく議会。

 議事堂に入ってきたのは、まぎれもなくウィルフォード本人だ。

 そして、ウィルフォードは両手で真っ白な巨大な卵を抱えている。卵は不思議な雰囲気をまとっていて、貴族たちの目にも明らかにただの卵ではないことが見て取れた。


「シェリル女王、試練の森から帰ってまいりました。こちらが、試練を乗り越えた証として手に入れた、従魔の卵です」


 議会中に聞こえるよう、大きな声でシェリルに報告するウィル。王国派貴族はただ茫然と立ち尽くしている。


「ウィルフォード皇子のご意思を、しかと受け止めました。

 これほどの誠意をお見せいただいては、わたくしもウィルフォード皇子の想いにお答えしないわけにはいかないでしょう!」


 シェリルはひときわ良く通る声で、高らかに宣言する。



「リンドグレーン女王シェリルは、ウィルフォード皇子と結婚いたします!」



「シェリル女王!ウィルフォード皇子!万歳!」

「万歳!」

「ご成婚おめでとうございます!」

「さっそく、ご成婚の儀の準備に取り掛からねば」

「ご結婚、万歳!!」

「万歳!!」


 勢いを取り戻したのは、帝国派貴族たちだ。途中だった決議はもはやうやむやとなり、シェリルの結婚相手は確定した。


「そんな、ありえない……」


 力の抜けた表情で座り込んだサミュエル侯爵は、呆けた表情で議会の天井を見ている。

 ほかの王国派貴族たちも、敗北を悟ってさっそく帝国派へ鞍替えしようとするものや、気分が悪いと議会を後にするものが後を絶たない。


 議会とは思えないほどの騒乱となる中で、シェリルはウィルに駆け寄った。


「ウィルフォード様。ご無事でしたか?けがなどはありませんか?」

「うん。僕は防御は得意だからね。それより、遅くなってごめん」

「そんなこと、どうでもいいのです。わたくし、改めてわかりました」

「ん?何が?」


 突然、何がわかったのだろう?ウィルは疑問に思ったが、シェリルは何かすっきりとした顔をしている。


「ウィルフォード様。わたくしはあなたのことが好きです。

 リンドグレーン女王として、あなたとこの国を守っていきたい。これからも、ずっとおそばにいさせてください」

「シ、シェリル……」


 こんな場所で改めて言われると、照れますね、と言いながら、ウィルはそういえば面と向かって好きと言われたのはこれが初めてかもしれないと考える。


「こちらこそ。これからもよろしく」


 こうして、リンドグレーン王国女王とエスタリア帝国第四皇子との婚姻は、周辺国家にも正式に宣言されることとなった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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