27.最後の試練(1)
「いやぁ、忠臣を持って幸せもんだな」
「うるさい、次があるなら早くしてくれ!」
いちいち挑発する声に、ウィルは静かに怒りながら、そういった。
「まぁ、そう急ぐなよ。最後の試練はちょっと大掛かりなんだ」
「どういうことだ?」
「だから急くなって。すぐにわかる」
歩くうちに霧が少しずつ晴れてきた気がする。そう感じたところへ、女性の叫び声が聞こえてきた。
「きゃぁぁぁっ!」
「!?」
これが、最後の試練なのだろうか?いずれにせよ、何か助けを求めているように感じる。ウィルは声の方へ走り出した。
霧が少しずつ晴れてくる。今までの試練とは違い、突然霧が晴れて別の場所へ瞬間移動しないようだ。
だんだんと霧が薄くなり、先の方に村があるのが見えてきた。同時に、再び叫び声。今度はさらに魔物の唸り声も聞こえてくる。
「いやっ!!」
「グルルル……」
「風槌!」
遠目に狼に狙われている女性を見つけ、魔法を繰りだす。風の衝撃波に体の小さい狼は吹き飛ばされ、逃げていった。
「大丈夫ですか!?」
「む、村が魔物に襲われていて……中に夫がいるんです!!」
「わかりました、そちらに向かいましょう!僕から離れないで!」
村は周囲を簡単な囲いで覆っているようだったが、力の強い魔物がその気になれば囲いを壊すなり、乗り越えることは簡単そうだ。
「さぁ、早く!」
へたり込んでいた女性の手を取り、助け起こすと、二人で村の奥へ走る。奥の方からも魔物の唸り声と、住民の混乱する声が聞こえてきた。
「早く逃げろ!」
「ダメだ!こっちもオークが来てるぞ!」
おそらく村の中心くらいまで来ただろうか、少し開けた場所があり、そこに多くの村人があつまっているようだった。
女性は夫を見つけたらしく、声をかける。
「あなた!」
「エリン!なぜ戻ってきた!?」
「村から出たところで戦狼に襲われて……この魔法使いの方が助けてくれたの」
夫の方も気が動転しているのか、初めてウィルがいることに気づいたようだった。村の住民ではないウィルを見て、訝しげな様子ではあったが、妻を助けてくれた人物であるらしいことは理解したようだった。
「ありがとうございます……」
「そんなことより、これはいったい?」
ウィルが聞くと、夫が答える。
「はい。最初は数匹の戦狼が出たというので何人かが追い払いに向かったのですが、さらにオークが現れて……。今反対側でオークと睨み合いになっているんです!」
「わかりました。僕が応戦します!」
ウィルは村人達をかき分け、オークと対峙している村の男のすぐ後ろまで進んだ。
「ヴォォオ!」
眉間に皺をよせ、牙をむき出しにしてオークが吠える。わずか数メートル挟んで、松明を振り回している男が二人と、四本歯のピッチフォークをもって、オークをけん制している男が一人いる。
三人の男は目の前のオークに気を取られていて、背後から戦狼が数頭、とびかかる隙を伺っていることに気づかない。
「このっ!!くるな!」
「グルルル……」
松明に照らされた戦狼の目が暗がりに光り、松明を持っていた男が一瞬ひるんだ瞬間を狙って、戦狼がとびかかる。
ウィルが到着したのはちょうどその時だった。
「障壁!」
松明を持っていた男に障壁の魔法をかける。戦狼は大きく開けた口を男に向けたが、ウィルの障壁に阻まれてその牙が届くことはない。
「ひぃぃ!」
「デイモン!無事か!?」
デイモンと呼ばれた男は、突然魔物にとびかかられた恐怖でしりもちをついてしまった。本人は戦闘の経験のない単なる村人だ。緊張の糸が切れてしまい、恐怖に動くことすらできないようだった。
「全員後ろに下がって!!ここは僕が相手をします!」
ウィルが叫び、残りの二人にも障壁の魔法をかける。オークや戦狼程度であれば重ね掛けする必要も無いだろう。
「雷撃!」
村人が距離をとったところで、ドォォォン!と空中から落ちた雷がオークを貫く。轟音に驚いた戦狼たちは一旦距離を取る。しかし獲物を逃すつもりはないようだ。鋭い目でこちらの隙を伺っている。
魔物と距離ができ少し余裕が出たのか、ピッチフォークを持った男が訪ねてきた。
「助かったよ、あんたは誰だ?」
「僕はウィルフォードと言います。たまたま通りかかった魔法使いです」
「それは心強い。突然村に魔物の群れが入ってきて、この有様だ。申し訳ないが手伝ってもらえないだろうか?」
「もちろんです」
「おいみんな!魔法使いがきてくれているぞ!」
ピッチフォークの男は村の有力者らしく、後ろにいた村人に声をかけた。少しでも戦力になることをアピールして、村人達を落ち着かせようとしているのだ。
魔法使いがいる、という彼の声かけは目論見通り集まっていた村人を安心させたようだった。
「それで、状況は?住民は皆ここに避難できているのですか?」
「まだわからない。何せ急な襲撃だったから、応戦で精一杯だった」
「では、周囲の魔物は一旦僕が引き受けます。えと……」
「俺はヘクターだ。一人で大丈夫かい?」
「ヘクター。僕はなんとかしますので、逃げ遅れたり、怪我をした方がいないか、確認を」
「よしわかった。危険な役を任せてしまって、悪いな」
ヘクターは何人かの名前を呼びながら走っていった。こう言った集落では通常何軒かを一まとまりにして取りまとめ役を決めている。その者達に人数の確認を指示しているのだろう。
そうしている間に、じりじりと戦狼が距離を縮めてきている。さらに後ろから、別のオークも現れ始めた。
「風槌!」
ごう、と空気がうなり、正面の戦狼とオークを吹き飛ばす。魔物達は人間を取り囲むように広がって、じりじりと距離を詰めてきている。一撃ですべて撃退するのは無理だ。
「火球!」
「雷撃!!」
立て続けに魔法を放つ。火球が着弾したオークは、周囲の魔物をも巻き込む火炎の竜巻に飲み込まれた。雷撃に貫かれた戦狼はその場で絶命した。
しかし遠方から続々と魔物が現れる。この村に何か魔物を惹きつける何かがあるのだろうか?……いや。これこそが三つ目の試練なのだろう。
だか一回目、二回目とは状況がまるで違う。この村にはこれまでなんのかかわりもないし、過去の自分に戻ったわけでもない。見ず知らずの村人を魔物から守ることが試練なのだろうか?
ウィルは前方の魔物に気を取られ、周囲の警戒ができていなかった。突然、後方から住民の叫び声が聞こえてきた。
「ゴブリンだ!!弓を持っている奴がいるぞ!」
「森の方から来てるわ!」
「身を隠せる場所へ移動しろ!」
前方にはオークの群れ、後方からは戦狼。そして今度は側方、森の方からゴブリンによる襲撃だ。もはやウィルだけでは手が回らない。
「リズ……アルフレッド……」
いつもであればあの二人が戦場を縦横無尽に駆け回ってくれる。サイラスが情報収集を、ユーベルがけが人の治療をしてくれる。
「こんなところで皆のありがたみを実感するとはね」
そうつぶやいたが、状況が変わるわけではない。今いるのはウィル一人。自分ができるのは、いくつかの攻撃魔法と、障壁の魔法だけだ。
障壁。そうだ、全方位から続々と現れる魔物をすべて退治することは難しいが、ここに集まっている住人を守ることならできる。
「みなさん!僕の所へなるべく集まってください!」
ウィルはそういうと村の中心部へ走る。全員が集まれるように。
「今から障壁の魔法を使って、皆さんを守ります!でも、あまり範囲が広くありません!なるべく近くへ来てください!」
そう叫ぶと、村人たちが集まる前から障壁の魔法を起動させる。
普段なら意識せずとも使えるが、今回は勝手が違う。今までは人間一人一人を対象に魔法を使ってきたが、対象にできる人数は限られている。それを今回は一つの障壁ですべての村人を守ろうとウィルは考えていた。
「僕なら、できるはず」
自分へ言い聞かせるようにそういうと、まずは自分に障壁の魔法を使う。ウィルの周囲には、あらゆる攻撃を防ぐ、いつもの障壁が現れる。
それを確認すると、魔力を流し込み、障壁を外へ外へと広げる。五人、十人と村人が障壁の効果範囲に含まれていく。
「……っ」
やがて、障壁は村人全員を覆うほどに広がった。ゴブリンからの弓は障壁によって防がれ、オークの振りかざすこん棒も村人へは届かない。
「ウィルフォード!これは……?」
声をかけてきたのは村の有力者、ヘクターだ。
「僕の魔法による障壁です。皆さんにはここから出ないように言ってください。この中に居る限り、安全です」
「すまねぇな。何人かけがをしているが、あんたのおかげで全員無事だ。なんてお礼を言ったらいいか」
「いえ、皆さんが無事で何よりです。ですが……」
「あぁ。まだ魔物はあきらめてないみたいだ」
ヘクターの言う通り、戦狼は障壁の周囲をうろうろと入り口を探っているように見える。オークは力任せに障壁へこん棒をたたきつけているし、ゴブリンからの矢もまばらに飛んできている。
「その、”障壁”ってのは、あとどれくらい持つ?」
深刻そうに確認するヘクターにウィルは答える。魔力は十分ある。
「心配しないでください。しばらくは維持できます」
「そうか。済まないが、けが人の様子を見てくる」
ヘクターはまた走っていった。周囲の村人は恐怖のあまり動けなくなっているようだった。
抱き合って震えている者、呆然と座り込んでいる者。その中でヘクターは恐怖に支配されずによく動き回っているものだ。
ウィルは初めての広範囲な障壁を維持するため、再び意識を障壁に向ける。
すると、あの声が聞こえてきた。
「どうだ?最後の試練は?ギブアップか?」
いつも読んでいただき、ありがとうございます
もし良かったらブックマークと★★★★★評価をよろしくお願いします
感想・コメント・アドバイスもお待ちしています




