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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
小国の薔薇編 <Little Rose>
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23.彼のためにできること

 ウィルが森へと入っていった後、リズとユーベルはリンドグレーン首都ベルフライへと戻った。


 ウィルはいつ森から出てくるかわからないので、長期戦になる可能性もある。一方アルフレッドが送った書簡を見て、帝都からリンドグレーンへなんらかのアクションがあるかもしれない。

 ベルフライの状況確認をしつつ、試練の森でウィルを待つアルフレッドへの食糧を調達するためだ。


 それともう一つ、リズにはベルフライでやるべきことがあった。殿下が命をかけていると言うのに、執務室へ引きこもっているあいつに一言言ってやるためだ。




 部屋には鍵がかかっているようだったが、所詮は護衛の存在を前提に作られた、見た目重視のものに過ぎない。リズが少し力を入れて取っ手をひねると、バキッと何かが折れる音がして、ドアが開いた。


「!? ……今日は謁見の予定は入っていないはずですが」


 突然の闖入者に驚き、はっと顔をあげて入口を見たものの、リズだとわかるとすぐ目線を机の書類に落とし、威厳のある声でそう呟く。

 声の主はシェリル・ローズ・リンドグレーン女王だ。


「こんなところで何をしているのかしら」


「何を……とはどう言うことでしょう?わたくしは女王として政務を行なっているのですが」

「そんなに政務とやらが大切ですか?一言ぐらい殿下に声をかけてあげても良いではないですか。

 あなたの、その……夫となる方が命をかけているのですよ?」

「そうです。『わたくしの』夫です。あなたには関係ない」

「関係ないなんてことは無い!」


 大きな声を上げたリズに、シェリルはびっくりして顔をあげる。


「私は殿下が小さい頃からずっと、いつだって殿下の隣でお守りしてきました。

 本当は私のことを見て欲しかった……」


 リズは泣いていた。


「それなのに、どうして。いくら女王だからといって、殿下のことをなんとも思っていない方と結婚だなんて。

 どうせ、殿下のことなど死んでもいいとお考えなのでしょう?」


 そう言ったリズに対して、今度はシェリルが両手を机に叩きつけて立ち上がり、大声を出した。


「そんなことはありません!

 わたくしはウィル……ウィルフォード様のことをお慕いしています!!ウィルフォード様だからこそ、結婚をしようとしているのです!」


 今度驚いたのはリズの方だ。今まで、彼女――リンドグレーン女王は、ウィル個人のことなどなんとも思っていないのだと考えていた。帝国の皇位継承権を持つ皇族の地位を結婚相手と考えているのだと。

 だが、いや、だからこそ、リズにはシェリル女王の行動が我慢ならなかった。


「だったら!なぜ殿下を応援してくださらないのですか?」

「わたくしだってできることなら殿下をお助けしたい。でも!

 ……わたくしは貴女のように剣を振るう力はない。それは、殿下と一緒に旅をしてよくわかりました」


 シェリルはウィル達と一緒に旅をすることで、ウィルに惹かれた。同時に、宮殿でずっと生きてきた自分が一緒に旅をすることは難しいのだと、彼らに近づくほどに実感していたのだ。


「もし何かあっても、わたくしは殿下の足手まといになるだけです。

 わたくしは殿下の敵に一撃を加えることも、盾になって弓矢を受けることもできない。

 ……貴女とは違う。隣でずっと殿下をお守りすることができる、貴女のようにはなれない」


 そういいながら、シェリルは力が抜けたのか、ストンと椅子に腰を下ろした。


「貴女こそ、わたくしの気持ちなどわからないわ」


 顔を手で覆ったシェリルも涙を流していた。リズは、その様子をしばらく見ていたが、そっと話し始めた。


「……それなら、女王として、殿下をお守りください。

 今の王国で、殿下が命知らずの愚か者だとか、リンドグレーンの王位を狙う帝国のスパイだとか、好き勝手に噂話をされているのをご存知でしょう?」


 リズはくるりと入り口の方へ向きを変えた。


「政治の場で殿下をお助けするのは、護衛の私にはやりたくてもできないことです」


 それだけ言うと、リズは走り去ってしまった。





****





 わずかな時間をおいて、帝国派の貴族が部屋に入ってきた。


「女王陛下、少しお話が」

「なんでしょう。手短にお願いします」


 シェリルは泣いていたところを見られるわけにはいかないと、後ろを向いたまま貴族に答えた。


「王国派貴族が、次の一手を打ってきました。

 ウィルフォード第四皇子が、試練を受けずに逃げ出したと噂を広め始めています。

 さらには、リンドグレーン王国として、エスタリア帝国へ抗議文を送る準備を始めているとか」


「そんな、まだウィルフォード様が森へ入ったばかりだと言うのに……」


 もし、リンドグレーンから帝国へ抗議文が渡ってしまえば、両国の関係悪化は免れない。

 それにウィルフォードがもし抗議文を送った後に帰ってきてしまえば、リンドグレーン王国は帝国に根も葉もない言いがかりをつけたことになる。


 これほどの侮辱を受けて帝国が黙っているわけはないだろうし、軍事的な衝突にでもなれば、好機とみた王国側からも本格的な侵略を受けるだろう。


「ウィルフォード殿下がお戻りになるまで、なんとしても時間を稼ぎます。帝国派の貴族達を集めてください」

「はっ。すぐに準備いたします」


 貴族が出ていった。


 政治の場では殿下を助けることは私にはできない、と言ったリズの言葉が思い出される。


「わたくしが、ウィルフォード様のためにできること……」


 シェリルはそう呟いた。ウィルの命を心配するあまり自分の殻に閉じこもってしまった弱気な顔は消え、夫を信じて自分の役割を果たす、威厳ある女王の顔に戻っていた。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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