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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
小国の薔薇編 <Little Rose>
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21.死なないで


「ウィルフォード様……いえ、ウィル。試練の森をご存じないのですか?なぜあんな無謀な挑戦を?」


 議会が終わった後、ウィルとシェリルは二人で会っていた。

 正直、シェリルはあの後の議会の議題など、ほとんど頭に残っていない。ウィルフォードの無事を確保したうえで、どのようにこの件を決着させるか、必死に考えていたのだ。


「試練の森のことは知ってるよ。それに、無謀、というわけでもないんだ」

「何か、作戦があるということでしょうか?お聞きしても?」


 シェリルの問いに、ウィルは首を振る。


「作戦があるわけではないけど。でも、無理ではないということは知ってる」


 作戦がないのであれば、待っているのは死しか無いではないか。


「……どういう意味でしょうか?」

「僕は一人、試練の森を踏破した人物を知ってる」

「!?」


 まさか。あの森の中心部に到達した人物がいるというのか。


「僕の一番上の兄、第一皇子デューン兄上だ。兄上は数年前にあの森へ入って、中心部に到達しているんだ」


 なるほど、帝国の長男ともなれば、本人の戦闘の素質も十分だろうし、万全の体制を作って挑むことができる。


「では、デューン皇子に中心へ至る方法を聞くことができれば……」


 おまけに、攻略法を聞けるのであれば、生還する確率がぐんと上がるかもしれない。だが、シェリルの期待は肩透かしに終わってしまった。


「でもデューン兄上は、聞いても無駄だといって教えてはくれなかった。兄上が言うんだから、実際攻略法みたいなものはないんだろうと思う」


「それでは……。それでは、ウィルの挑戦はやはり無謀ということではないですか!?

 わざわざ王国派の挑発に乗って、命を懸ける必要はありません。わたくしが貴族たちを説得すればいい話です。

 結婚が認められないのだとしても、リンドグレーンとエスタリア帝国との結びつきを強める方法はいくらでもあります。王国派がオリエンス王族との婚姻を望むのであれば、対応を考えます。

 今回の件でウィルと帝国の名誉が傷つかないよう、落としどころも探ります。……だから試練の森へは行かないでください」


「シェリル……」


 シェリルは次から次へと、試練の森へ行かなくてよい理由を並べ立てる。試練の森へ行ってもメリットは少ないのだと、意味はないのだと。いくつも理由を口に出したあと、最後にシェリルの本心がポロリとこぼれた。


「わたくしは、あなたに死んでほしくない。ウィルが、居なくなってしまうのが怖いのです」


 シェリルはうつむいて、両手でスカートのすそをぎゅっと握りしめている。しゃべっているうちに、これでもう未来永劫、会えなくなってしまうのではないかと不安があふれる。シェリルにとってウィルは、心を許せる数少ない相手なのに。


 しかしウィルは優しく微笑んで、こう返した。


「シェリル。大丈夫だよ。きっと帰ってくる。

 僕はこう見えて、自分の身を守ることに関しては自信がある。それに」


 ウィルはシェリルのこわばってスカートを握りしめたままの両手をとった。緊張のせいか、手が冷たくなっている。


「僕も、君を残して死んだりはしたくない」


 二人は優しく、お互いを抱きしめあった。




****




 翌日から、王宮内は上級貴族から宮殿内で働く召使いたちまで、ウィルフォード皇子の「試練の森への挑戦」の話題で持ちきりだ。


 貴族たちはその結果が王国派と帝国派の勢力争いの趨勢を決めることがわかっていて、自らの立場をより有利にすべく情報収集に余念がない。そしてほとんどの貴族はウィルフォード皇子が帰ってくるとは考えていなかった。

 王国派はウィルの代わりに誰が王女と結婚し、この国のトップの座を掴むのかを水面下で話し合っている。一方帝国派の一部の貴族などは、すでに帝国に次の王配候補を探しに出かける始末だ。


 そして数日後には、女王シェリル・ローズとの結婚を貴族に認めさせるため、試練の森へと旅立った帝国の皇子の話題は、首都ベルフライの全市民が知るところとなった。


「女王陛下との結婚のため、危険を顧みずに試練の森へ向かうとは。

 なんて、なんてロマンティックなんでしょう!」


「成金貴族のサミュエル侯爵が飢えた獣のような勢いで帝国の皇子様を挑発したそうじゃない。

 一人の女王をめぐる二人の男の戦い、ドキドキするわね~」


「本当ね。女王陛下への命をかけた求婚! 王子様ってのはこうでなくっちゃねぇ!」


「とんでもない、あの森に入ったら、帰って来る者はいないって言うじゃないか?命知らずの蛮勇だよ」


「そうだそうだ。帝国の皇子だかなんだか知らないけど、まだ若いんだろ?魔法が使えるからって、つっぱしっちまったんだろうぜ」


「いや、俺は皇子様が帰ってくるとおもうね!帝国の皇子ってのは、とにかくべらぼうに強いらしいぞ?」


「よーし、じゃぁ賭けといこうじゃないか!俺は皇子が帰ってこない方にエールを一杯!」


「俺も!」


「くそっ!これじゃ賭けにならんじゃないか!?それなら俺は帰ってくる方にかけてやる!」


 といった様子だ。享楽に飢えている市民たちは、あるものは貴族の恋愛のゴタゴタとして楽しみ、あるものは皇子が帰ってくるか帰ってこないかを賭けの対象にする始末だ。とにかく、ベルフライの老若男女あらゆる者が、ウィルフォードの去就に注目するようになった。


 これほど早く首都じゅうに広まったのは訳がある。王国派貴族たちが積極的に情報を周囲に広めているためだ。こうしてベルフライに、そしてあと数日のうちに周辺国家へこの話が広まれば、ウィルフォードは逃げ場をなくし、試練の森へ入らざるを得ない。

 そうすれば高い確率で厄介な帝国の皇族を一人始末した上で、リンドグレーン王女の婚姻を王国派主導で進めることができる。


 それに、シェリル女王の動きがないことも王国派が勢いづいている理由だ。あの議会でのウィルフォード皇子の発言以降、シェリル女王はショックを受けたのか公の場に姿を表さなくなってしまった。噂話を否定する当の本人がいないことで、王国派の描いたシナリオ通り、物事が進んでいると言える。


 これほど少ないリスクでリターンが期待できる勝負はそうそうない。勝てる勝負の賭け金は高ければ高い方が良い。そう考えた王国派の貴族は、エスタリア皇帝にもこの騒動を伝えておこうと考えた。

 相手は帝国の皇族だ。なんやかやと理由をつけて、そのまま本国へ逃げ帰るかもしれない。そんなことができないよう、しっかりと試練の森で敗死してもらうためにも、ウィルフォード皇子の退路は厳重に塞いでおかねばならない。


 こうして選ばれた王国派貴族の一人、アーリン・ウィンストンは、ウィルが議会で試練の森に挑戦すると宣言してから二日後には、帝都へむけてベルフライを後にした。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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