18.誠実な人
その後、何度か魔法攻撃があったものの、ウィルとシェリルがマリアの控える馬車にたどり着いたときには、何度か聞こえていた剣と剣を打ち合う音や、爆発音は聞こえなくなっていた。
「マリア!無事でしたか」
襲撃直後は浮き足立っていたシェリル女王だが、馬車から出て数歩歩くうちに、いつもの冷静な彼女に戻っていた。そう言えば、父をなくしてから頼れたのはこのメイドだけだったと言っていたなと、ウィルは思い出す。
「シェリル女王」
ウィルがいるからか、それとも普段からこのようにメイドの立場を徹底しているのか、マリアはひざまづいてシェリルを迎える。
「無事のようで安心したわ。後方の馬車が同時に襲われたわけではないようね」
「はい、こちらには怪しいものは来ませんでした。騎士が周囲を固めているせいもあるかもしれませんが」
マリアの言う通り、馬車の一団は先頭方向は帝国の騎士と護衛騎士であるリズとアルフレッドの二人が守り、後方はシェリル女王配下の騎士団が馬車を囲むように護衛する布陣だ。
「そうですか。ならば結構です。
それにしてもウィルフォード殿下、もう戦闘は終わったようですね」
「そうだね。やけに早い気がするけど、もう賊を捕まえたのかな?」
そう言うが早いか、サイラスが戻ってきていた。
「殿下、こんなところにいたんスね」
「前方の様子は?」
ウィルはサイラスに状況を確認する。
「いや~、あいつら街道脇の森に逃げこみやがって。誰も捕まえられませんでした。やる気がないというかなんというか……
こちらが攻勢に出たとみるや、一目散っスよ」
どうも敵の狙いが分からない。そもそも、本気でシェリル女王を襲う気なら、左右から挟み撃ちに攻撃を仕掛けた方が成功率は上がるはずだ。
そのうえすぐに引き下がってしまったのは、何か罠があるのだろうか?
「これほど素早い撤退は、もしかすると」
シェリル女王も同様に、何か裏があるとの考えだったらしく、一つの仮説を話し始めた。
「彼らは既に目的を達成したのかもしれません。つまり、わたくしやウィルフォード殿下を襲うこと自体が主目的だったのではないかと」
「あー、それわかるかもしれないっス。ここはもうリンドグレーン王国領土内っスから、自国領土内で女王とその伴侶候補が襲撃されるなんて、”なめられて”ますよね」
サイラスは理解を示した。シェリル女王は同意する。
「はい。他国の貴賓を危険な目に合わせたばかりか、その貴賓であるウィルフォード殿下の護衛の力で賊を撃退したようなものです。わたくしの影響力の低下は免れないでしょう」
ウィルとの電撃的な結婚を発表し、貴族から主導権を取り戻そうとするシェリル女王に対し、評判を落とすことで再び貴族が主導権を取り返そうとしているというのだ。
だが今回襲われた貴賓はウィルだ。少し事情が違うのではと、ウィルは考える。
「近いうちに僕はシェリルの王配となるのですから、問題ないのでは?」
「ウィルフォード殿下の影響力がわたくしより大きくなると、ウィルフォード殿下を王位につけようとする貴族たちが現れるかもしれません」
いずれにしろ、シェリル女王の影響力の低下によってリンドグレーン王国が不安定になるというわけだ。敵の狙いはシェリルの力を削ぐことなのだろうが、ウィルは楽観していた。
「それなら平気だね。僕はシェリル女王の夫なんだから、リンドグレーンのかじ取りはシェリルに従うよ。祭り上げられて王位になんてつくことはない」
「う、ウィルフォード殿下……」
シェリルは胸に温かいものを感じた。立場を利用しようと無理やり婚姻を発表した相手ではあるが、できることなら余計な対立は避けたいと考えていた。
だがその相手は、対立どころか誠実に協力を申し出てくれている。もしかすると、父親以外の、本当の家族になれるかもしれない。
この誠実な男にもう少し、こちらから近づく努力をしてみよう。
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