15.王女と皇子たちの交流
ウィルが王都を初めて出立してからこれまで、王位継承権を争う兄弟が一堂に会する機会は全くなかった。
そして今日は久しぶりに兄弟全員がそろって顔を合わせている。
少し長いテーブルの中心には、第一皇子デューンがウィルと向かい合って座っている。
ウィルの右隣にはシェリル女王だ。
デューン皇子の右隣は第二皇子オクタスが、いつもの通り仏頂面で座っている。彼のことを知らない者からしてみるとまるでこちらをにらんでいるようだが、普段からあの顔で、むしろ今日は機嫌がよくすら見える。おそらく結婚には賛成なのだろう。
軍事に強いオクタスの視点で見ると、帝国とリンドグレーンの結びつきが婚姻によって強くなるということは、オリエンス王国に対する強力な防波堤を手にすることになる。帝国の軍事面について兄弟随一の知識と統率能力を持つオクタスにとって、帝国皇族――ウィルとシェリル女王の結婚は賛成なのだ。
そしてウィルの右隣には第一皇女フェブリア。オクタスの仏頂面とは逆に、いつもの穏やかな笑みを浮かべて座っている。
ウィルが帝都についてから、まず最初にウィルが会ったのがフェブリアだった。ウィルの護衛に貸し出してくれているアルフレッド護衛騎士のお礼と、彼の功績を直接フェブリアに報告し称えるためだ。
その時にリンドグレーンでの出来事を簡単に話したところ、彼女はたいへん興味を持ったようだった。だれが最初に結婚するといったのだとか、その時ウィルはどう思ったのだとか、目を輝かせて根掘り葉掘り聞いてきた。フェブリアがひと通り満足して、ウィルが解放されたときには半日以上もたっていたほどだ。
フェブリアと向かい合って座っているのが、第三皇子ヴェンパー。ウィルが出立する際になんの気まぐれか魔導杖を渡してくれた本人だが、普段はあまりほかの兄弟への態度は良くない。
兄弟で皇帝に一番こだわっているのが彼なのだが、上に優秀な第一皇子と第二皇子がいるため、皇位継承の可能性が低いことがコンプレックスとなっているらしい。
いざ皇位継承競争が始まると、自分が優位に立っているはずのウィルにすら敵意を向けてきている。今日も他国の女王が目の前にいるというのに、不機嫌な顔を隠しもしていない。
「そろそろ始めませんか?ねぇ、ウィル」
珍しく最初に口を開いたのは、フェブリア皇女だ。鼻息荒く、早く二人の結婚について話したくてうずうずしているのが分かる。フェブリアの言をうけて、長男のデューン皇子も応じる。
「そうだね。久しぶりに兄弟全員がそろったし、今日は高貴なお客様もいらっしゃっている。話すことはいろいろあるからね。」
そういってデューン皇子は正面のウィルを見据えた。
「僕はもう父上と一緒に聞いているけど、ウィル。今日は報告があるんだろう?」
「……」
ウィルは今更この話をひっくり返すつもりは無い。無いのだが、あまりにとんとん拍子に進むこの縁談は、もしかすると兄上たちですら”事前の仕込み”に絡んでいるのではないかと考えていた。
実際、兄弟の中でだれがシェリル女王と結婚すべきかという判断をしたのは彼らであるのだが、ウィルは知る由もない。
いずれにしろ、父上に報告した時点でもう決まったことだ。この場もある種、儀式的な意味合いしかない。
「兄上、姉上。僕はリンドグレーン王国女王、シェリル様と結婚します」
「くふぅ!……ごほん、失礼」
おかしな声を上げたのはフェブリアだ。自分も含め、親族で結婚の話が出るのは初めてなので、妙なあこがれがあるのだろう。目を輝かせている。むしろ当の本人であるウィルの方が冷静だ。
「わたくしからも発言よろしいでしょうか」
すっと控えめに手を挙げたのはシェリル女王だ。
「リンドグレーンはエスタリア帝国に比すれば国土は狭いですが、東西の商流・人流についてはそれなりのものと自負しております。
偉大なるエスタリア帝国の皇子を国を挙げてお迎えいたします」
「まぁ!うふふふ……」
フェブリアはニヤニヤとこちらを見ている。
彼女の目にはウィルとシェリルが相思相愛のように映っているのかもしれないが、ウィルからしてみればそれは誤解だ。シェリルに対する想いどうこうよりも、ここ一、二か月の自分は、まるで突然の嵐に翻弄される小舟の気分だ。
終始温かい目でウィルとシェリルを見つめているフェブリアだが、兄弟全員が祝福……というわけにはいかなかった。
「気に入らねーな」
そういったのはヴェンパー皇子だ。彼はウィルとシェリルが入室した時からずっと左手で頬杖をついたままだ。
品のない態度だが、それほど気に入らないという意思表示なのだろう。
「リンドグレーンだかなんだか知らないが、たかが小国の小娘が自信たっぷりに皇族と結婚しますなんていうもんじゃねぇぞ?」
あまりの侮辱にその場が冷える。だが当の本人、シェリル女王は毅然としていた。
「あなたからはすれば小娘に見えるのかもしれません。ですがわたくしは一国家の女王です。
あなたこそ、他国に対する礼儀がかけているのではありませんか?」
「なんだと……?」
ピリピリとした空気が張り詰める。それでもシェリルはひるんだ様子はない。
「先ほども申し上げたように、エスタリア帝国の皇位継承権を持つウィルフォード殿下をお迎えするのです。
それだけで、相応の利益を帝国にもたらす理由になるでしょう」
その先の言葉は、この場にいる皇族たちはもう理解していた。あとは、シェリル女王の口からをの言葉を聞くだけだ。
「リンドグレーン王国は、エスタリア帝国と同盟を結びます」
そう。西のエスタリア帝国と東のオリエンス王国との間で長い間バランスをとってきたリンドグレーン王国が、ついにエスタリア帝国側につくというのだ。
「それはすばらしい!アウグストゥス皇帝陛下も二重にお喜びになるでしょう!ヴェンパーも文句はないね?」
「……ちっ」
デューン皇子がそう強引にヴェンパー皇子の口をつぐませる。シェリル女王からは最高の言葉を引き出すことができた。これ以上ヒートアップして、縁談をおじゃんにする前にさっさとこの会を終わらせたいのだ。
「シェリル女王もお疲れでしょう。ウィル、お送りしてさしあげたらどうかな?」
「あ、兄上……」
結局、ウィルは発言する機会すらなかった。半ば追い出されるように、ウィルとシェリルは部屋から出ていく。
****
「ヴェンパー。皇族としてあの態度はいただけないな」
二人が部屋をでたところで、静観していたオクタス皇子がヴェンパー皇子をたしなめる。
「兄上。俺はあいつが気にいらねえ。ここ一ヵ月、貴族どもを抱き込みやがって、まるでスパイじゃねぇか」
ヴェンパーに近い貴族たちも、シェリル女王に論理と利益で諭され、多くがウィルフォードとの結婚を賛成している。ヴェンパーはそれが気に入らない。まるで自分の勢力をごっそりとウィルフォードに持っていかれたような気分なのだ。
「あまりそういういい方は良くないよ。短期間で貴族たちを抱き込むなんて、非常に優秀じゃないか?これからは帝国側についてくれるんだ、喜ばないと」
そうデューンがなだめるが、ヴェンパーのイライラは収まらない。
「気に入らねぇ……」
ヴェンパーの最後のつぶやきは、他の兄弟には聞こえなかった。
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