13.女王シェリルの政治力
シェリル女王を連れたウィル一行は無事帝都ランスへと到着した。
皇宮へと到着してからすぐに皇帝へ簡単な挨拶を済ませたシェリル女王は、メイドのマリアと馬車でついてきた部下を連れてウィル達と別れた。皇帝への正式謁見前にいろいろと準備があるのだそうだ。
「皇帝陛下への謁見の際に、またお会いしましょう」
そういってシェリルはすぐにいなくなってしまった。通常は歓迎式典などを開くのだが、よほど急ぎの用事があるのか、今回は不要なのだそうだ。
ウィル達も思い思いに久しぶりの帝都をゆっくりと過ごすことにした。なにしろ、前回帝都に返ってきたときは、デューン皇子からすぐさまリンドグレーン王国への外遊を指示されたため、自由な時間はほんの数日しかなかったのだ。
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そして約一か月が過ぎた。
シェリル女王とウィル、皇帝アウグストゥスの三者が会する日がやってきた。会談のために久しぶりに宮殿に入ったウィルは、何やら違和感を感じていた。
「これはこれは、ウィルフォード殿下。お久しぶりにございます」
「あぁ、ウィンストン伯爵」
「そういえばウィルフォード殿下がリンドグレーン女王を直々に帝都までエスコートされたとか。
仲睦まじいことは素晴らしいですな」
「いや、帝都まで一緒に旅をしたのは事実だが、エスコート……??」
ウィルに声をかける上位貴族たちは、皆が皆このような感じで、ウィルとシェリル女王はどういう経緯で知り合ったのだとか、どんなところに惹かれたのだとか、まるでもう婚姻が決まっているかのような口ぶりだ。
まさに婚姻について、皇帝の意思をこれから確認しに行こうとしているのに、どういうことなのだろう。貴族たちは既に父から何か聞いているのだろうか?そもそも、ウィルとリンドグレーン女王との結婚をどうやって知ったのだろう?
何が何やらわからないが、生まれ育った王宮を迷うことなく謁見室へと進むウィル。
すれ違う貴族から毎回シェリル女王の話を振られて、謁見室の入口についたときにはだいぶ時間がかかってしまっていた。
「遅くなりました。ウィルフォードです」
「どうぞ」
扉の前を警備している騎士が扉を開けると、やはりウィルが最後の一人らしかった。
父であるアウグストゥス皇帝、デューン第一皇子、シェリル女王がすでに着席している。
「……」
三人の席の配置は、アウグストゥス皇帝とデューン第一皇子が横に並び、シェリル女王はデューン皇子の正面に向かい合って座っている。
ウィルの座る位置は皇帝の正面だろう。シェリル女王と横並びだ。
この席順を見て、ウィルはもう婚姻は決定的なのだと理解した。この会談は婚姻について皇帝に意思を確認する場ではない。ウィルとシェリルが、いやむしろウィルが、シェリルとの結婚をアウグストゥス皇帝に報告する場なのだ。
「ウィル、よく来たね。座ってくれ。おい、飲み物を交換してくれ」
こういった場では非常に気の利くデューン皇子がいつもの通り穏やかな笑顔で指示する。
すでにティーカップが三つ、アウグストゥス皇帝、デューン皇子、シェリル女王の分が置かれている。中身が減り方を見ると、すでにそれなりの時間が経っているものと思われた。
まるで、ウィルがやってくる前に何かを話し合っていたかのように。
「ウィルフォード皇子殿下、わたくしからお話してもよいでしょうか?」
ウィルが座り、新しい紅茶が淹れなおされてすぐ、シェリルが話し始めた。
ウィルフォードに余計なことをしゃべらせないという強い意志を感じる……。
「ええっと。こういった内容は僕から話した方が……」
「シェリル女王。そなたから聞こう」
「父上?」
ウィルが自分から、と主導権を取ろうとしたところへ、今度は皇帝アウグストゥスから横やりが入る。も
しかして、父上にもすでに話が通っているということだろうか?
「ありがとうございます、皇帝陛下」
恭しく礼をした後、シェリルは続ける。
「陛下、ウィルフォード皇子殿下との結婚をお許しください」
「許そう」
「早っ!」
やはり話はついていて、あとはウィル本人がいるところで、結婚の宣言をするだけだったのだ。
「ウィルフォードよ、隣国たるリンドグレーン女王との縁ができたことは、帝国にとって大変めでたい。
両家の発展に尽くしなさい」
「は、はぁ……。わかりました」
今日、この場に四人が集まって話すべき内容は、始まって一分もたたないうちに終わってしまった。
あまりの展開に、完全に取り残されてしまったウィルは、気のない返事しかできなかった。
「おめでとう、ウィル」
「ウィルフォード皇子、末永くよろしくお願いいたします」
ふふ、とほほ笑むシェリル女王を見て、さすが女王の政治力にはかなわないな、と他人事のような感想しか出てこないウィルだった。
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