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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
小国の薔薇編 <Little Rose>
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9.突然の婚約宣言

 戴冠式の翌日。


 リンドグレーン王宮には昨日の式に参加していた国内外の重要人物たちが再度集まっていた。彼らがいるのは会議場だ。シェリル女王が座する中心の席を取り囲むように、向かいと左右の三方に座席が階段状に並んでいる。


 今日行われるのは、リンドグレーン王国の重要事項を決める、王国議会。

 新王就任後には必ず開催されることになっており、シェリル王女による演説が行われる予定だ。

 中心付近にはリンドグレーン王国貴族が着席し、少し間を開けて他国の来賓がシェリル王女の演説を聞くために座っている。ウィルとアルフレッド、リズの三人は女王の座席のちょうど向かい側の、後方に座っていた。


 貴族たちは着席し終わったようで、ざわざわと隣同士の話し声が会場内に響いている。貴族たちはシェリル女王の演説の内容が気になるらしく、「王家の力を示すために大規模な公共事業が企画されるのでは」だとか、「人気取りのために減税が発表されるに違いない」だとか、思い思いに内容を予想する声が聞こえてくる。

 そういった声の中には、リンドグレーン王国が避けて通れない難題、つまり「女王は帝国と王国ではどちらに力点をおくのだろう」ということについて、シェリル女王の立場を予想する声がいくつも含まれていた。


 やがて、進行役と思われる貴族が女王の座席の近くの議長席へとやってきて、開始のベルを鳴らした。チリン、チリン、と高い音が会場に響くと、静けさが伝播するように話し声は止んでいった。


 会場が静まってから数拍おいて、コツ、コツ、と靴音を鳴らしてシェリル女王が入場してくる。


 昨日と同じく、すっと伸びた背筋と、威厳ある足運びが美しい。会議場中央に備え付けられた演台までやってきたシェリル女王は、二、三度周囲を確認するように首を動かした後、こう切り出した。


「ご列席いただいている皆様、そして我が国の中枢を支える、リンドグレーン貴族の皆様、女王シェリル・ローズ・リンドグレーンです。

 本日はわたくしの女王としての一日目、そして女王として初めての議会になります」


 自信に満ちた張りのある声。

 遠くからでもわかる力強い目線。

 素晴らしい出だしに議会にいる誰もがシェリルの演説に引き込まれる。


「そして、女王としてリンドグレーン王国の繁栄への決意を述べるこの日を、皆さまと迎えたことに喜びを感じています」


 若き女王の堂々たる発声に、これから始まる演説への参加者の期待が高まる。


「まず最初に、皆様にお伝えしておきたいことがあります」


 だが、次のシェリル王女の発言は、議会のだれもが耳を疑った。




「わたくし、シェリル・ローズ・リンドグレーンは、

 エスタリア帝国第四王子、ウィルフォード殿下と婚約いたします」


「ん?……んん??」


 ウィルは目が点になる。

 会場内の誰もが一瞬、シェリル女王が言ったことをよく飲み込めずにいた。

 そして当の本人であるウィルこそ、自分の知らないところで婚約を発表されたことを理解できなかった。


「……そんな!」


 思わず立ち上がろうとしたリズよりも先に立ちあがって声を上げたのは、リンドグレーン貴族たちだった。


「聞いておりませんぞ!!」


 声をあげたのはオリエンス王国寄りの貴族たちだ。

 それもそうだろう。

 シェリル女王の発言は、帝国寄り、王国寄りといったレベルの議論ではない。明確に帝国側の立場をとり、オリエンス王国を敵に回すといっているに等しい。

 王国派に属する貴族たちからしてみれば、自らの後ろ盾を失い、リンドグレーン国内の影響力が激減してしまうからだ。


 昨日の式典の間じゅう、オリエンス王国のレナルド公爵について回っていた、新興貴族のサミュエル・スローンもひときわ大きな声で反対をしていた。数日前にシェリル女王に謁見し、王配として自らを売り込んできたばかりだ。

 数日前に女王と謁見した手ごたえでは、自分がシェリル女王と婚姻するのだと思っていたところだ。それがどういうことだ。女王は戴冠式に()()()()やってきた帝国の末っ子ごときと結婚すると言うではないか。こんなことは受け入れられない。


「そんな愚かなことがありますか!」

「結婚されるのであれば、オリエンス王国と縁を結ぶべきだ!!」

「そのような行動はとても容認できない!!女王としての器を疑いますな!」


 サミュエル伯爵以外の王国派貴族たちは、次から次へと反対意見を表明している。内容はもはや女王に対する罵倒といってもいい。しかしシェリル女王はこの混乱を予想していたのか、いたって冷静だ。

 涼しげな顔で周囲を見回し……最後にウィルに視線を送ってきた。


「は、反対してください!殿下!」


 会場の喧騒に飲まれていたリズだったが、興奮しつつも我に返ってウィルに進言する。

 周囲の他国の貴賓たちは、良い演目を見る機会に出会えたとでもいうように、シェリルと王国派のやりあいだったり、混乱する帝国第四皇子を距離をとって面白そうに傍観している。

 とはいえウィルも、やっと少し頭が回り始めた。これはシェリル女王の策略だ。他国の重要人物がいるこの場で婚姻を発表することで、ウィルとの婚姻を周知の事実としているのだ。そして、議会が解散するまでに婚姻を否定しなければ、それは周辺諸国にとっても決定事項とみなされる。しかし……


「リズ、少し落ち着いてくれ。僕はこれを拒否することはできない」

「なぜですか!?ひ、ひと言ふた言話した程度で、け、けけけ結婚するなどと!」


 リズの取り乱し方は単なる護衛としては異様だが、ウィルもまだ動揺していて気づくことはない。しかし、うろたえるリズをみて逆に冷静さを取り戻したウィルは、もう自分に選択肢がないことに気づいていた。


「シェリル女王は既に父上やデューン兄上と謁見しているんだ。

 もしかすると、二人と既に話がついているのかもしれない」

「それはそうかもしれませんが!確証もないではありませんか!?」

「確証がないのはそうだけど、僕がここに派遣されたのは父上、すなわち皇帝の命令だ。

 もし結婚が皇帝の決定だとすると、拒否することは皇帝の意思に背くことになる」

「そんな……だからと言って……」


 皇帝の命令かもしれないと聞いて、リズも少しトーンが落ちた。

 いずれこういった縁談が持ち込まれることは、確かに覚悟してはいた。思ったよりも早かっただけなのだ。


 リズはすとん、と力が抜けて座り込んだ。議会の中心でも、王国派がまだ金切り声をあげていたが、シェリル王女は話を切り上げてサッサと会場を出て行ってしまった。


 議会は突然の女王の発言に未だ混乱しているようで、そこかしこから、議論なのか叫び声なのかわからない貴族たちの大声が聞こえている。そんな喧騒のなかから、ある貴族がウィルに話しかけてきた。


「ウィルフォード殿下。シェリル女王から言伝を預かっております」

「……?」

「議会の後、改めてウィルフォード殿下にお会いしたいと。こちらへ」


 シェリル女王の協力をするということは、話しかけてきた貴族は帝国派なのだろう。いまだにざわめきのおさまらない議会から、ウィル一行を別の部屋に案内するのだった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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