3.事情聴取
「……」
打ち所がよかった(?)一人を除いて、十人ほどいた強盗は皆気絶していた。意識を回復した強盗は真っ先にリズに縛り上げられて、乾いた道が続く街道のはしに正座させられている。その扱いが不満なのか、強盗はふてくされて黙ったまま、だれとも目を合わせない。
「あなた、少し戻ったところにある町で盗みを働いたことある?」
「はぁ?しらねぇよ」
ふてくされたまま返事をした強盗を、リズはげんこつで殴りつける。
「ってぇな!しらねーってんだろ?」
「嘘をつくのは自分のためにならないわよ?」
はなから犯人のように疑ってかかるリズを、ウィルがたしなめる。
「リ、リズ。そう言ってるんだし、本当に知らないんだよ。第一、リズやアルフレッドの目を盗んで動ける泥棒が、こんな簡単に捕まるとも思えないよ」
「それはそうかもしれませんが。こいつら、たった今もあの少女を追い回して襲ってたんですよ。ゆるせません!」
少女へ襲い掛かっていた強盗たちに腹を立てているのか、自分たちの路銀を盗んだ泥棒に腹を立てているのかわからないが、リズはとにかく怒りが収まらない様子だ。
一方口では粋がっている盗賊も、さきほどまでのリズの実力を身をもって体験しているため、恐怖のためか表情は非常に硬い。次はどんな仕打ちが飛んでくるのか判ったものではない。
「この辺りはパーセル公爵領の中心街オルドレスに近いと思うのですが。街へ行けば仕事などいくらでもあるでしょうに、なぜ強盗など?」
「けっ。いまさら街で小間使いみてぇな仕事ができるかよ。かといって今のオルドレスは警備が厳しいからな。俺たちみてぇな半端者は街の外で”仕事”をするしかねーんだよ」
ウィル、リズ、アルフレッドの三人は、ちょうどオルドレスへ向かうところだ。パーセル公爵は帝国の最も北東の領地を管理する貴族で、公爵領の中心街オルドレスに居を構えている。ここ数年、パーセル公爵領から帝国中央への納税が滞っているため、帝国皇子であるウィルが直接向かい、税を取り立てようというわけだ。
税の取り立ては徴税管の仕事ではあるが、帝都からほど遠い東方の貴族たちは、なんやかやと理由をつけて納税額を下げようとしてくる。時には帝国皇子の威光を使い、時には護衛騎士を使って実力で言うことを聞かせるのは、単なる役人には難しい。皇族の公務としては誰にでもできる簡単なものではあるが、だからこそ帝都から初めて外に出たウィルにとって、ちょうどよい仕事だ。
「警備が厳しくなったとは、オルドレス市街で何かあったのですかな?」
うーむ、と顎に手を当てながらアルフレッドが問いかける。短い顎髭がこすられてじゃりじゃりと音を立てている。強盗は明後日の方向を向いて答える気はないようだ。
「んー?」
アルフレッドは特に表情も変えず、強盗の顔を覗き込む。護衛騎士の圧力にまけたのか、強盗はぽつぽつと話し始めた。
「パーセル公爵の館に盗賊がはいったんだよ。ここ最近連続だ。おかげで街中に公爵の私設軍がウロウロしてやがる」
「まだ要領が掴めませんが……。館に盗賊がはいったなら、パーセル公爵はなぜ市街の警備まで強化をされたのですかな?」
「最初の一回二回のうちは公爵邸の警備を追加で雇ったらしいけどな。いくら警備を増やしても、姿を見ることすらできねーんだとよ。そのせいで使用人まで疑われる始末さ。あんまり盗難が続くもんだから、しまいにゃ盗賊が市街に潜んでいるだろうってんで、街中を公爵の手下どもがかぎまわってやがる」
なるほど、そのせいで市街で活動していた奴らが、外へ追い出されたと言うわけだ。さらに盗賊の話に、リズが反応する。
「姿も見せない盗賊ね。アルフレッド様、もしかしたら殿下の魔杖を盗んだのもそいつかしら!?」
「……そうですな。殿下はどうお考えですかな?」
「そんなに手際がいいんだったら、可能性はあるかもね。どうせオルドレスに行くんだし、パーセル公爵からも話を聞いてみよう」
当面の方針は決まりだ。パーセル公爵と会い、納税を促し、ついでに盗賊についても話を聞く。
「そういえば、あなたは何処かへ行く途中だったのかしら?えと……」
リズが逃げてきた少女に話かける。先程までは青ざめた顔をしていたが、三人が盗賊と話をしている間に、少し落ち着いたようだ。
「リ、リベートです。私もオルドレスに住んでいて、帰る途中でした」
「なら、一緒にいきましょ。その方が安全だしね」
「はい、よろしくお願いします」
リズはリベートの手をとると、元気に歩き始めた。少し体を動かして全身が解れたのだろうか?先程までの疲れた様子は微塵も感じられない。
「我々も進みましょうか、殿下」
「そうだね」
「と、その前に、衛兵を呼ぶまで不埒な輩には眠っていてもらいますかな」
アルフレッドは顎髭を触っていた右手を、正座させていた強盗に振り下ろす。鈍い音がして、強盗は気絶した。