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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
小国の薔薇編 <Little Rose>
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6.リンドグレーン女王戴冠式

 リンドグレーン王国新女王の戴冠式当日。天気は快晴。すっきりとした青空の下、王宮へ次々とやってくる国内外の重鎮たちの中に、ウィルことエスタリア帝国第四皇子ウィルフォードの姿が見えた。

 その後ろには、リゾルテ・アルフレッド帝国護衛騎士と、ついさっき合流したばかりのサイラスとユーベルが続く。


「アルフレッド様、お出迎えいただき、ありがとうございました」


 透き通った声でアルフレッドに礼を言ったのは、ユーベルだ。


「いえ、合流できて何よりでしたな」

「本当によかったスよ。何せ俺とユーベルの二人じゃ、『本日は一般人の立ち入りは禁止されている!』って、話も聞いてくれないんスから!」


 戴冠式に出席する貴賓たちの集まる王宮は、警備が厳重になっている。そもそも今日の出席者は高位貴族や王族ばかりだ。王宮の入り口まで徒歩でやってきたサイラスとユーベルが、まさか帝国の第四皇子の配下の者だとは、守衛には信じられなかったようだ。


 予定の時間になっても現れない二人を心配したアルフレッドが様子を見に来てみると、案の定守衛と押し問答をしているサイラスとユーベルに出会ったというわけだ。帝国護衛騎士として名も知れているアルフレッドが身元を保証するということで、やっとの思いで会場に入ることができた二人だった。


「まぁ、確かに私とサイラス様は一般人ですから。しょうがありませんね」


 そういうユーベルは、”一般人”と扱われてむしろ嬉しそうだ。奇跡の力のせいで聖女の影武者に祭り上げられていた彼女は、なるべく「普通の人間として暮らしたい」という思いが強い。

 今回も、神聖教の神官という肩書でウィルに同道することもできたはずだが、「高貴な方とお会いするのは緊張するので」と言ってサイラスと一緒に下町の方へ行っていたのだ。


「それでユーベル、昨日は何をしてたの?サイラスも一緒だったのかな?」

「はい殿下、こちらの町にも神聖教の協会がございますので、お祈りと孤児院のお手伝いに。サイラス様とは別行動でした」

「俺はまぁ、街をぶらぶらしてたっす」

「何よ、『街をぶらぶら』って……いかがわしい店になんか行ってないでしょうね?殿下の評判を落とすようなことはやめてくれるかしら?」

「い、行ってないっスよ!?」

「サイラス、あまり目立たないようにな」

「アルの旦那まで疑ってるんスか!?」


 一日とは言えバラバラに行動していたところを五人そろって緊張が解けたのか、皆少しテンションが上がっているようだ。


「さて、ここからは王宮内だ。新女王に失礼の無いように行こう。

 サイラスとユーベルは、作法が分からないようだったらリズとアルフレッドに聞いてくれ」


五人は式典が催される部屋へと入っていった。




****




 王宮の入り口から王の間までは、大理石で作られた回廊の上に鮮やかな紅のカーペットが続いている。今回の式典に合わせて新調したのか、わずかな汚れもなく、長い毛足はきれいに整えられていた。カーペットはそのまま王の間に入り、今はまだ空席となっている玉座まで続いている。


 ウィル達は玉座に向かって左側の最前面に案内された。周辺国の王族・貴族が招待されるような公式行事は、座席や入室の順序に非常に神経を使う必要がある。

 招待した国、すなわち今回で言うとリンドグレーン王国が、どの国を重視しているのか、どの貴族が重用されているのかの意思表示となるからだ。それが戴冠式ともなれば、新女王の方針を示すといっても過言ではない。


「さすがに、帝国の皇子殿下ともなると扱いが違うんスね……先頭じゃないスか」


 サイラスがはぁ、とため息をつく。しかしリズは不服そうな表情だ。


「いいえ、気に入らないわ。まだ向かいの席が空いているじゃない。栄えある帝国の皇族より後に入室する賓客なんてどこのどなたかしら?」


 そう。ウィル一行とカーペットを挟んで向かい側、玉座に向かって右側はまだ空席だ。一般に、より目上の立場の者が女王に近い席順となり、入室順序は後になる。つまり、ウィルよりも目上とされているものがいるのだ。


「む、最後の出席者が入ってきましたな。あれは……オリエンス王国」


 無礼なふるまいにならない程度に視線を送ると、確かにオリエンス王国の紋章を胸に着けた男が、数人の護衛を連れてゆったりと入室してきた。背はそこそこ高く、背筋はしっかりと伸びていて、伸ばした口ひげにも品位を感じさせる。


 オリエンス王国といえば、エスタリア帝国と大陸の主導権を争う大国だ。大陸の西に位置するエスタリア帝国に対して、オリエンス王国は中央の山脈を挟んで東側に位置している。そして、2つの大国のちょうど中心に位置しているのがここ、リンドグレーン王国なのだ。


「新女王は、オリエンス王国寄りみたいね……」


 リズは不服そうだが、大国に挟まれたリンドグレーンは、絶妙な政治バランスの上でも長きにわたって王政を維持してきた老獪で歴史ある国だ。さまざまな力学を考量したうえで、オリエンス王国を優先するという判断をしたのだろう。ウィル自身としては、自分が末っ子で兄弟の中ではいつも最後尾だったこともあり、入室順序程度では何も感じるものはないのだが。


「あっ、シェリル女王が入室されるようだよ?」


 ウィルがそういうと同時に、他の招待客も新女王に気づいたらしく、一斉に入口の方へ体を向けた。


 しずしずと、しかしまっすぐに玉座を見据えて歩いてくるシェリル女王。事前に聞いた情報では、まだ若干十六歳と、ウィルのわずか一歳年上だ。ほぼ同年代の王族が立派に王位を継承する様を見て、ウィルも身が引きしまる思いだった。


 一歩一歩、威厳を持って歩くシェリル女王は玉座の前まで来ると、列席者の方へ向き直った。


「(おもったより背が小さいんスね?)」

「サイラス、失礼よ。黙って立ってなさい」


 サイラスとリズがこそこそといつものやり取りをしている中で、


「ん?」


 ふと、ウィルはシェリル女王がこちらに視線を向けたように感じた。だが、次の瞬間には、シェリル女王の眼はまっすぐ入口の方を向いていて、気のせいだろうとウィルは深くは考えなかった。



 やがてリンドグレーンの貴族が運んできた王冠を頭に戴き、シェリル女王が王位就任を宣言して戴冠式は終了した。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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