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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
小国の薔薇編 <Little Rose>
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4.力の無い王族

「マリア、次の予定は?」


「午後からはサミュエル侯爵との謁見が予定されております」


 リンドグレーン王国女王、シェリル・ローズ・リンドグレーンにマリアと呼ばれた女性は、すらすらと次の予定を主に伝える。女王の予定がすべて頭に入っているのだ。


 彼女の名前はマリア・ソールズベリー。メイドの格好をしているが、シェリル王女の身の回りの世話だけでなく、このような秘書の仕事もこなしている。

 それもこれも、最近では積極的に女王に仕え、近づこうとする貴族すらいなくなったからだ。マリアのようなメイド役の貴族の子女が唯一の側近といってもいいほど王家は落ちぶれていた。

 エスタリア帝国派とオリエンス王国派に分かれて激しい勢力争いを行う貴族たちの中にあって、王族がただ一人になってしまったリンドグレーン王室の力は相対的に弱体化しているからだ。


「謁見の内容は、その……」


 珍しく謁見の内容を言いよどむマリアだったが、シェリルはその理由も薄々感じ取っていた。


「……サミュエル家からの婚姻のご要望のようです」

「また?いい加減にしてほしいわね」


 エスタリア帝国での皇帝との謁見から帰国したシェリルを待っていたのは、国内貴族たちの婚姻の申し込みだった。他国に出向いたその先で、「結婚相手を探している」などと口にすれば、耳ざとい貴族たちがそれを聞きつけないはずもない。本人がリンドグレーンの首都ベルフライに到着するより早く、貴族たちにそのうわさが広まっていた。


 弱体化したとはいえ、シェリルはリンドグレーン王国を統べる女王だ。結婚すればそれこそ一貴族とは比べ物にならない権力をふるい、一代では使いきれないほどの財産を手に入れることができる。

 おまけにうまく立ち回れば、帝国あるいは王国からの支援を受けて、さらに権勢をふるうことができるだろう。もちろん並の能力では国内貴族の足の引っ張り合いに巻き込まれ、二つの大国から都合のいい駒扱いを受けるだけだろうが、それでも貴族たちには王配の座は魅力的に映っているようだ。

 シェリルの帰国後から、貴族たちの謁見の要請がひっきりなしに届いていた。


「今日はもう断れないかしら?サミュエル侯爵とはあまり気が合わないわ」

「サミュエル様はここ数年で特に力をつけられているお方です。突然のお断りはのちのち問題になるかと」

「……言ってみただけよ」


 サミュエル侯爵は王国派に属していて、オリエンス王国との貿易で多くの収入を得て近年力をつけてきた新興貴族だ。金にものを言わせて領地内の軍備増強や力の弱い貴族の買収を進めている。新興といえど経済力で王国派貴族の中でも大きな力を持っているため、無下にはできない。


「はぁ。準備を進めておきなさい」

「かしこまりました」


 唯一の側近ともいえるマリアに指示を出すシェリルは、気乗りしない表情をしていた。




****




「ご無沙汰しておりますシェリル王女。いやもうシェリル女王でしたか!先代が無くなられてからもう一年たちますかな?月日が経つのは早いですな!」


 機嫌よくしゃべっている中年太りの男が、午後の謁見相手のサミュエル・スローン侯爵。年齢は一六歳のシェリルからすると二回り以上上で、まるまると太った腹をゆすって笑っている。

 体形を見れば金に飽かせて豪奢な暮らしをしていることがよくわかる。加えて相手がいくら年下とは言え、女王に対してあまりに気安い言葉づかい・態度だ。もはや王家の権威など恐るるに足らず、といったところなのだろう。


「はい。もうすぐ喪が明けますので、わたくしの戴冠式を執り行う予定です」


 それでもシェリルは女王にふさわしい、穏やかな笑みを崩さない。王は常に人目にさらされている。リンドグレーンの威厳は王のふるまい、すなわちシェリルの一挙手一投足によって生み出されると考えている。それは誰に対しても、たとえ気に入らない相手だろうと変わらない。


「覚えておいででしょうか?あれは先代ニコラス王が開いた、即位二十周年の記念式典でした。私が参加したとき、シェリル王女はまだこれくらいの子供でした」


「いえ、わたくしもまだ幼いころで、あまり記憶にはありません」

「そうでしょうそうでしょう。それがこんなに美しい少女になられて。リンドグレーンに連なる貴族として、いや、鼻が高いというもの」


 女王に対して一方的に話しかける無礼なふるまい。女王本人を目の前にして容姿を評価する物言い。いくら力をつけていようと、貴族としての礼儀をわきまえないのだろうか。


 いや、おそらくシェリルという歳の離れた小娘に、わずかほどの敬意も感じないのだろう。女王としてだけでなく、個人としてもないがしろにされたシェリルは、内心では嫌悪感でいっぱいだった。


「……サミュエル侯爵、このたびはどのようなご用事でしょうか?」


 もう早く話を終わらせたいシェリルは、無粋ではあるが直接要件を問うことにした。


「おお、そうでしたそうでした。シェリル女王が結婚相手をお探しだとお聞きしましてな。それでしたらほら、私などがご協力差し上げることもやぶさかではない、とお伝えしに来た次第。

 この歴史あるリンドグレーンのかじ取りはお若いシェリル女王には、さぞやご苦労の多いことでしょう。なに、成婚の暁には、私がシェリル女王を支え、立派にリンドグレーン王国を大国へと導いて見せましょう!」



 もううんざりだ。



 その、浪費の結果突き出た腹も、私を単なる飾りとしか見ていない考え方も、助けてやるという傲慢な態度も。父を含めた、代々の王族が受け継いできたリンドグレーン王国を、羽のように軽い覚悟で導くなどと口にしないでほしい。

 感情の揺らぎが一瞬シェリルの受け答えを遅らせ、それを逡巡と受け取ったサミュエル伯爵は、とどめとばかりに自分を売り込んできた。


「シェリル女王はサミュエル家の家格がご不満ですかな?考えても見ていただきたい。時は移ろってゆくのです。百年の栄華を誇った伝統的な貴族は没落し、私のような実力ある貴族が力をつける時代になったのです。サミュエル家はこれから百年、格式高い貴族として語り継がれるようになるでしょう」


 一通り自分を売り込んで満足したのか、サミュエル伯爵は帰っていった。実力があるならば家格など気にせず伴侶として迎えることにためらいはない。しかし、サミュエル伯爵の実力は、オリエンス王国の侵攻戦略によってもたらされた幻だ。オリエンス王国がリンドグレーン国内の貴族に金と力を与え、思い通りに動く傀儡を作り出しているに過ぎない。


「やはり、なんとかしてリンドグレーン王家が力をつけなければ……」


 国内唯一の王族となったシェリルのつぶやきは、傍に仕えるマリアにしか聞こえなかった。


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