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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
小国の薔薇編 <Little Rose>
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3.当て馬は誰?

 皇帝との会食を終え、何日か滞在の後シェリル女王はリンドグレーン王国へ帰っていった。滞在中は帝都に居を構える貴族や、帝国内の重要貴族の代理人と精力的に会談をしていたらしい。

 皇帝にあんな爆弾を投げ込む――結婚相手を探しているなどと言い出すくらいなのだから、貴族相手にもどんな交渉をしているか判ったものではない。かと言って「帝国寄り」を公言した女王の動きを制限するわけにもいかない。

 皇帝アウグストゥスから、シェリル女王の扱いを任せられたデューン皇子は対処に頭を痛めていた。と言っても、何かできるわけでもないのだが。


 とにかく、まずはシェリル女王からの「婚姻外交の要望」に対して、急ぎ答えを用意する必要がある。

 選択肢はあまりないのが現状だ。エスタリア帝国とオリエンス王国の勢力争いに影響する重要国家との婚姻だ。リンドグレーン王国自体の規模は小国だとしても、並の貴族では格が合わない。


 その結果、こうして王族たちの会議が開かれる運びとなった。王族が集まるいつもの部屋に、第一皇子デューン、第二皇子オクタス、第三皇子ヴェンパー、第一皇女フェブリアが座っている。第四皇子ウィルフォードは、ブリストン聖教都市での事件解決後、まだ帝都に向かっている最中だ。


「さて、リンドグレーン女王の件は、みんなもう聞いているかな?」


 口数は少なく威厳に満ちた皇帝アウグストゥスとは異なり、第一皇子デューンは親しみやすく口数も多い。そしてそれは兄弟たち王族だけが集まる場ではより顕著だ。懸案を抱えているにも関わらず、デューンの口調は軽快だ。


「結婚相手の件ですわね。うらやましいですわ。自分でお相手を決めることができるなんて」


 最初に口を開いたのは皇女フェブリアだ。全員、ここに集められたのはリンドグレーン女王の結婚相手を決めるためだと理解している。女性である、つまり女王と結婚する可能性がないフェブリアは唯一、他人事なのだ。


「オクタス、君はどうだい?リンドグレーンはオリエンス王国に対する最前線と言える。軍事が得意な君なら、重要さは理解できるだろう?」


 デューン皇子からそう提案されたオクタスは、腕を組んでしかめっ面をしている。無口で威厳ある皇帝の雰囲気を最も受け継いでいると言えるが、オクタスは政治にあまり興味がない。本人の能力や興味は、軍事方面に集中している。だからこそデューンは軍事的な面でリンドグレーン女王との婚姻を勧めているのだ。しかしオクタスは婚姻には前向きではないようだった。


「……リンドグレーンが重要であることは同意するが、帝国から王配を迎えるとなれば、オリエンス王国をいたずらに刺激することになる」

「それは、軍事的にということかな?」

「そうだ。今のリンドグレーンに行くと言うことは、オリエンス王国の侵攻を一手に引き受けることになる。それほどのリスクを負うほどの国ではない」


 あくまで軍事上の観点で、自分は婿入りはできないというオクタス。まずは各々の意見を聞こうと考えているデューンは、次は第三皇子ヴェンパーに声を掛ける。


「ヴェンパーはどうかな?」


 するとフェブリアが珍しく口を挟む。めったにない国家間の婚姻ということで、少しテンションが上がっているのだろうか。


「ヴェンパーは王位を狙っているのでしょう?リンドグレーンに行けば願いが叶うのではないかしら?」


 フェブリアは決して思慮が足りないわけではないが、今回に限っては自分が人ごとということもあり、「誰と誰がくっつく」ことにしか興味がないようだ。

 からかわれたと感じたのか、ヴェンパーは少し怒りをこめた口調で反対する。


「土地も狭い、人口も大したことない、あんな弱小国家になんか、興味ねーな。そんなに興味があるなら、姉上が結婚すればいいだろう?」

「ふふふ、相手は女王よ?ヴェンパーも冗談が言えるのね」


「ちっ……」


 皇族としてのプライドが高いヴェンパーは、帝国以外の国家は単なる支配の対象でしかないと言った考えを持っている。普段からも周囲の国家への傲慢な振る舞いが目立つ。彼にしてみればリンドグレーン女王と結婚するということは、女王の配下になるということだ。自尊心の高いヴェンパーがそれをよしとするはずもなかった。


「予想はしていたけど、オクタスとヴェンパーはあまり乗り気ではないようだね」


 そう、予想はしていた。だがリンドグレーン王国は戦略的に非常に重要だ。オクタスが言う通りリスクがあるが、もしこの話を流してしまい、女王がオリエンス王国側と婚姻してしまえば、帝国としては更なる脅威になってしまう。


「そうすると、僕がリンドグレーン女王と結婚するしか……」


 デューンがそう言いかけると、それを止めたのはヴェンパーとオクタスだった。


「いや兄上、リンドグレーンが重要なことはわかるが、帝国第一皇子が王配になるのは賛成できねぇな」

「そうだ。流石に帝国の格を安売りすることになる」


 珍しく、オクタスとヴェンパーの息が合った。


「ならもう答えは出てんじゃねぇか。ウィルフォードの奴をあてがえばいいだろ?どうせあいつは末っ子だ。放っておいてもどっかの王族だか国内貴族の娘と結婚することになるんだ。ちょうどいいじゃねぇかよ」


「…………。そうかもしれないね」


 デューンは少し考えていたが、ヴェンパーの投げやりな案が意外と良い考えなのではと思い始めていた。オクタスの言う通り危険はあるが、ウィルならばあの聡明な女王とうまく行くかもしれない。

 もしウィルがリンドグレーン王国に根を張り、立派に王配の役割を果たすことができれば、今後の計画にも良い影響がある。


「では、リンドグレーンから招待の届いている女王の即位式典は、ウィルフォードにいってもらうことにしよう。」


「まぁ、兄弟で一番若いウィルが最初に結婚だなんて!楽しみだわ~♪」


 デューンの言葉を聞いて、フェブリアは王族同士の恋愛を想像して楽しんでいるようだった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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