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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
小国の薔薇編 <Little Rose>
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2.帝都への来賓

 その日、エスタリア帝国皇帝アウグストゥス、第一皇子デューンは他国のとある貴賓を迎えていた。


 その貴賓とはリンドグレーン王国王女に即位したばかりのシェリル・ローズ・リンドグレーン。帝国はその広い版図から、皇帝の住む帝都ランスに他国の王族が訪れることはほとんどない。通常であれば高位の貴族や文官が行き来すれば住むからだ。

 わざわざシェリル王女が帝都ランスを訪れるというと言うことで、帝都に住む官僚たちは、王女を迎える準備で数週間前から寝る暇もないほどの忙しさだった。


 官僚たちの必死の努力によって、リンドグレーン王女の初の外遊となった帝都訪問は大きな問題もなく、最大のイベントである皇帝アウグストゥス、第一王子デューン、リンドグレーン王女の3者による会談の時間を迎えていた。


 場所は王宮内に準備された比較的小さめの部屋だ。リンドグレーン王国の意匠として用いられるローズ・レッドを基調とした装飾が施され、新女王の訪問を歓迎している。


 部屋の中央に配された丸い白テーブルは、周囲に金の装飾が施され、紅く彩られた部屋によく映えている。そしてテーブルに合わせられた白い椅子に、会談の主人公であるシェリル王女と、少し離れてアウグストゥス、デューンが座っている。会談は食事と共に行われる予定で、席に着いた三人には食前酒と前菜が配膳されていた。最初に口を開いたのはホスト役となるアウグストゥス皇帝だった。


「此度は由緒あるリンドグレーン王国の新女王の即位と、この会談の実現に祝意を表したい」


「偉大なるエスタリア帝国皇帝アウグストゥス陛下のお言葉、ありがたくお受け取りいたします。リンドグレーンを代表して、厚く御礼申し上げます」


 新王女であるシェリルが返答する。成人の儀から2年が経っているが、それでもまだ17歳だ。50歳を超える王族、しかも大陸西部を支配する皇帝を相手に、堂々とした振る舞いは見事と言える。前王が崩御してまだ1年たたないが、リンドグレーン女王としての威厳は十分だった。


「さて、挨拶も済んだことですし、食事をしながら親交を深めるとしましょう」


「ええ、大陸西部の料理は評判が良いと聞き及んでおります。楽しみですわ」


 デューンが少し砕けた雰囲気を出すと、シェリル王女もそれを受けて和やかな会話を演出する。さながら形の決まった演武のように、三人はお互いの距離を図りながら会話をつづける。僅かなやりとりではあったが、皇帝を前に一国のトップとして対等に振る舞う少女に、皇帝アウグストゥスとデューン皇子はこの若い新女王が間違いなくリンドグレーンを統べる人物たりうることを感じ取っていた。


 メニューがメインディッシュを迎えたところで、切り出しのはデューン第一皇子だった。通常であればエスタリア皇帝とリンドグレーン女王による一対一の会食となるはずが、第一皇子が参加しているのは、皇帝からでは憚られる内容を話すためなのだ。

 第一皇子であれば、多少の無礼があろうと国のトップではないため、大きな問題になることはない。


「シェリル王女。即位後初めての外遊先に、わがエスタリア帝国を選んでいただきありがとうございます。前リンドグレーン王と同じく、今後も良い関係を築けていけそうですね」


 エスタリア帝国とオリエンス王国の中間に位置するリンドグレーン王国が、両大国の勢力争いに晒されているのは、大陸に住むものであれば皆が知っている事実だ。

 そんなリンドグレーン王国が初めての外遊に帝国を選ぶと言うことの意味。すなわち、新女王は帝国寄りであることを周囲の国家に、ひいてはオリエンス王国に宣言することに他ならない。前王ニコラスもどちらかと言うと帝国よりの立場であり、だからこそオリエンス王国からたびたび領土侵略という圧力を掛けられることとなっていた。


「ニコラス王とは、付き合いが長かったからな。まだ若かったと思うが、惜しい人物を無くしたものよ」


 リンドグレーンの前王ニコラスとアウグストゥス皇帝は、幼少の頃から親交があり、気の知れた仲で知られていた。だからこその「帝国寄り」であったのだが、女王シェリルも父王の方針を踏襲すると言うことだろうか。アウグストゥスやデューン、帝国の貴族たちの最も興味のあるところだ。リンドグレーンが帝国と王国のどちらに重心をおくかによって、大陸の勢力争いに大きな影響を及ぼす。


「わたくしは」


 シェリルは笑みを崩さず答える。


「これからも、偉大なるエスタリア帝国と良い関係を続けたいと考えております」


「それはそれは、大変喜ばしい。帝国民もリンドグレーン王国との関係が続くことを喜ぶでしょう。」


 この若き女王は、父王の立場を引き継ぎ、帝国寄りの立場を明らかにした。オリエンス王国からの侵攻は激しさを増しているとの噂だ。今回の訪問で立場を明らかにした上で、帝国にさらなる協力を求めようと言うことだろうか。

 だが、シェリルが次に発した言葉は、そう考えたアウグストゥスとデューンの想像を超えるものだった。


「ところで、父の逝去により、我が国の王族はわたくし一人となってしまいました。なるべく早く、我が国に王配を迎えようと考えております」


「……!」


 表情は崩さなかったが、デューンは内心で驚愕していた。この話の流れ、このタイミングで「結婚相手を探している」と言うことは、帝国に属するものとの婚姻を望んでいると言うことだろう。そして、この発言が広まれば帝国も無碍にはできない。

 少なくとも形式上は候補を用意しなければ、帝国がリンドグレーン王国と距離を取ろうとしていることになる。そうすればオリエンス王国が婿候補を用意するかもしれない。万が一オリエンス王国と婚姻が成立してしまえば、リンドグレーン王国の立場ははるかに「王国寄り」になってしまうだろう。シェリル女王はさらに続ける。


「わたくしとしては、今よりもさらに踏み込んだ関係を築くことが、両国家の繁栄につながると信じています」


 リンドグレーン王国が帝国寄りか王国寄りか、立場を確認する踏み絵のはずが、逆に帝国側がどれだけ本気でオリエンス王国と事を構える意思があるのか踏み絵をふまされる側となってしまった。したたかな若き女王に、帝国の皇帝と第一皇子が翻弄される形で会食は終了した。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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